完成、グランプカー。
世の中には、グランピングと言う概念がある。多分この世界には無いけど、地球にはある。
要はものごっつ豪華なキャンプの事。マットやコットじゃなくてふかふかのベッドで寝て、焚き火台や炭火焼きコンロなんて使わずに三ツ口のガスコンロで料理をし、そして雄大な自然を贅沢しながら贅沢に味わい尽くす。
それがグランピング。
なぜこんな事を考えてるかと言えば、依頼してた乗り物が完成したからだ。
そのイメージがまさにグランピング。キャンピングカーが出来上がると思ったのに、凄いスタイリッシュにワンランク上の物を仕上げてくれました。
依頼してから十日。湖で釣りを楽しみつつ、ポロと宿やテントでしっぽりしながら時間を潰してたら出来上がってた。
………………あの設計図にあった化け物を十日で? 大丈夫? 死人出てない?
不安になったけど、品物を確認したら予想の三倍素晴らしい物が出来てて不安がどっかに行った。
まず大きさと見た目。サイズはイメージしやすい表現をすると『三分の二に切った市バス』くらいの箱物。色は深い深い青色で、いっそ黒にすら見える。だけど紺色では無い。
銀細工が飾られて、四隅に銀で『陽光に照らされた海面』を表現しつつ、狼海竜のレリーフも刻まれていてスタイリッシュにカッコイイデザインで纏まってる。
本来なら馬が馬車を曳く為の棒、
足周りはサスペンションとダンパーがしっかり付けられ、でも外側からはそれが見えない様に見事な設計がされてる。多分内装と外装の間に少し隙間が有る部分が作られ、そこに機構を入れてあるんだろう。
馭者台はもはや名ばかりの椅子。なぜならバハ達には精密使役や口頭で指示を出せばそれで良いので、手綱を握る必要も無ければ、馭者台に座ってる必要すら無いのだから。
いっそオミットするかって意見もあったが、都市に入る時は馭者台に乗って門番とやり取りした方が良いって意見が多かったので残した。
ただその代わり、椅子は座り心地が最優先でフットレストも付いてる。雨の日に対応して屋根も有るから、多少の悪天候でも座って景色を眺めながら移動出来る。
馭者台からも入れるが、車の右側面にだけ設けられた出入口のトビラが竜車をキャンピングカーと思わせる一因になってるが、中はもっと凄いので正確にはグランピングカーである。
内装はリアにダブルサイズのベッドが設置してある寝室があり、寝室に繋がる廊下の右側にお風呂、右側にトイレが備わってる。竜車の屋根は水のタンクが仕込んであり、そこからお風呂とトイレに水を供給する仕組みになってる。
排水はどうするのかと言えば、一度竜車の下部にあるタンクに汚水が溜められて、それが魔法による浄化を経てほぼ真水になったらゆっくりと車外に捨てられる仕様だった。なんとクリーンでエコなのか。
でもラノベみたいに「魔法発動! はい浄化!」みたいな感じでは無く、汚れと水を分離して綺麗にした物を外に出してるだけで、ヘドロの様な物はドンドン溜まるから定期的に掃除が必要だと言われた。
汚水を捨てられそうな草原にでも行ったら、汚水タンクを水魔法でバシャーしろと言われた。まぁ陸なら良いかとガバガバな倫理観で俺は納得した。海が汚れなきゃ何でも良いや。
寝室とお風呂を挟んだ寝室への廊下を戻り、手前にはリビング兼ダイニングとキッチンがある。最初、キッチンは別に要らないかなと思ったけどせっかくだから付けとけと言われた。
キッチンは魔道具のコンロで、これはラノベでも良くある仕様の物だった。有するに凄い便利。
リビングは二人掛けのソファをテーブルで挟んでて四人座れるボックス席と、馭者台に出れる扉があるフロントにも一人掛けの椅子と折り畳みテーブルが二つあるので、計六人が同時に食事出来るようになってる。
いやキャンピングカーじゃんと思う事なかれ。間取りと設備はキャンピングカーのそれなのだが、中が妙に広いのだ。
普通のキャンピングカーなら廊下も一人がギリギリのサイズだが、この車は一人半くらいのゆったりした広さがある。リビングもそうだ。かなり広い。
と言うか外から見た大きさと中の大きさが微妙に合ってないんだ。魔法で中を拡張するなんてラノベみたいな事が本当に出来たんだ。
流石に竜車の中に5LDK作りましたみたいな超拡張は無理らしいけど、内容量を三割から五割増しに出来る秘術を搭載したとかなんとか。
まさに、宣言された通りに「車に居住性を持たせた」だった。ただその持たせた居住性がギリギリ入れたのかゆったり入れてほぼ家なのかって違いがあるだけ。
もっと言うと、空間を拡張して外との連続性に異常が出てる副産物として、防寒と遮熱が完璧だと言う。外の寒さも暑さも中には伝わって来ない。入口開けたら空気は入って来るけど。
外部との繋がりを唯一マトモに保ってる入口と馭者台の扉に換気機能を付けてるから、酸欠とかも心配無い。
「神の乗り物?」
「へへっ、照れるぜ」
納品に来た鍛冶師は頬を染めて花を擦った。
「ちなみに、ポロの要望だったピーちゃん達の部屋は?」
「抜かりねぇぜ。厨房の上にある食器棚の横を見てみな」
言われた場所を見ると、程よい大きさの鳥小屋みたいなのが二つ付いてる。なるほど、そう来たか。
「完璧だよ。これが報酬の後金だ、受け取ってくれ」
「うひょー! ごっつい大金だぜぇ! また面白そうな以来あったらウチに来いよなぁ!」
受け取ったグランピングカー、更に略してグランプとでも呼ぼうか。俺はグランプの試運転がしたくてしたくて仕方ない。
「ポロ、早速乗ろうぜ」
「ん、行く。カイトが言ってたどらいぶってやつ」
ちょいちょい前世の事を話してるので、日本の文化にも詳しくなってるポロ。
宿の前に置かれた見事過ぎる馬車のふかふか馭者台へ、ポロと一緒に乗り込む。
「誰に曳かせる?」
「もちろん、バハくん。カイトと戦った子だから、カイトを運ぶのに相応しい」
ポロの頭のうえに居るピーちゃんは大役を仰せつかったバハムートを羨ましそうに見てる。
半透明で実態化したバハムートはフルサイズとは言わなくてもかなり大きくなり、竜車のキャリングハンドルを掴んで動き始めた。
体をくねらせて空中を泳ぐバハムートが推進力になら、グランプをゆっくりと動かす。
バハムートの姿に驚いてた周りの市民も、グランプを動かし始めた姿を見ると状況を理解し、今度はすげーすげーと騒ぎ始めた。
「取り敢えず冒険者ギルド行くか。それで依頼受けて外に行こう!」
「ん、どらいぶでーと。たのしみっ」
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