どうせなら。
俺とポロは沢山の要望を出した。向こうも実現可能か否かは置いといてジャンジャン意見を言えと言うので、本当にありったけを出してやった。
すると俺の要望で鍛冶師のおっさんが弾けた。
「サスペンション! ダンパー! なんだこりゃすげぇ!」
コッチとしては揺れが少なくて快適な車が良い。俺の要望はまずそれだった。
なので俺でも知ってる簡単な板バネサスペンションの作りやダンパーの理論を伝えると、鍛冶師は初めて剣を持った少年のようにはしゃぎ倒す。
「車の中に風呂? 寝床なら依頼を受けたことるけど、風呂……? 面白い、やってやろうじゃないか」
そしてポロは居住性を要求した。要は狭くても良いから二人でしっぽり出来る環境を作れと。
その際、女性の職人達にごにょごにょと何かを伝え、お姉さん方は「あらまぁ!」と華やかな声を出した。ポロよ、何を伝えた?
「おい大工の! こりゃ竜が曳くんだから必ずしも木材で作る必要はねぇぞ! 全部鉄で作ったって曳けらぁ!」
「仕事奪おうったってそうは行かねぇぞ!? 俺にもやらせろコノヤロウ!」
鍛冶屋と大工が殴り合いを初めたり。
「馭者台にこんな立派な椅子を? 布張りにして中に綿を…………」
「いや待て、布張りだと雨の日に水を吸って大変だろう。ここは革張りにしてだなぁ」
針子と革職人がバチバチと縄張り争いをしたり。
「待ちなよ。車を曳くのは狼海竜なんだよ? だったら花や虫の意匠なんて合わないよ。ここは波と狼と……」
「待て待て意匠屋よ。いつも言ってるが現実不可能な意匠を提案されても困る。浮いた波なんて作ったらすぐ曲がるだろう? それは美しくない」
「いや、浮かせた下地に何か詰め物でもすれば良いんじゃない? 私も植物の意匠より海の意匠が良いと思うけど。細工師、使用者の事をちゃんと考えてる?」
デザイナーと彫金師と細工師が顔を突合せて言い合ったり。
「ねぇ僕は!? 僕の仕事は!?」
仕事の無さそうな薬師の慟哭が響いたり。
なんとも楽しそうな仕事が始まった。
その様子を見ながら、俺は家具職人にコイルスプリングのベッドを提案して説明してた。
「こ、こんな
「出来そうかな?」
「任せてくれ」
どうせ寝台車を作るならベッドも懲りたい。二人の愛の巣だし。
「だからぁー! 竜が曳くからって大きさ考えなよ! 都市の中で転がせなきゃ意味無いんだよ!」
「大通りなら使えるだろうが!」
「宿に入れないだろー!」
今度は鍛冶師&大工がデザイナーと喧嘩中だ。デザイナーさんは俺の要望から都市の中でも使い易いサイズに落とし込もうとして、鍛冶師達はせっかく竜が曳くなら馬が曳けないデカい奴作ろうぜって言う。
「あ、収納は別の加護を使うので大丈夫ですよ。都市の中を走れさえすれば良い。ただ王都の大通りだけしか使えない馬車だと、他の都市とか町で使えないかもしれないから勘弁して欲しい」
「君はいったい何個の加護を持ってるのかぁー!? 神に愛され過ぎじゃないかー!?」
加護三つ、スキル三つの計六個です。淫技? 知らない子ですねぇ。毎晩使ってるけど。
「あ、ピーちゃんの部屋も欲しい。アオミの部屋も」
「ピーちゃん? アオミ?」
「この子、氷怪鳥? とカイトの透竜」
ポロの要望追加で更に大惨事になった。曳くのは狼海竜じゃなくて透竜だったのかと依頼条件が倒錯しそうにすらなった。
と言うか氷怪鳥と透竜の部屋なんて作ったら大通りどころか王都の門すら通れねぇよと言われ、実物の小型化ピーちゃんとアオミを見せたら更に大混乱してた。
「は? え? 氷怪鳥と透竜って小さくなれんのか? マジ?」
「流石に透竜は大騒ぎになるからってグリン達に言われたのでここに来たんですよ。曳かせるのは狼海竜です」
「…………いや、冷静になると狼海竜もダメじゃない? 腐っても竜種だよ?」
「百の騒ぎになるか五十の騒ぎになるかだったら、まぁ五十かなと」
皆で意見をバンバンと出し合って、と言うか叩き付けあってのディスカッションが続き、暫くするとデザイナーさんが確信的な意見を述べる。
「…………はっ!? ちょっとまって!?」
「ん、どうした意匠屋」
「カイトくんは物を仕舞える加護を使えるんだから、車に全部入れる必要無くない!?
……………………全くもってその通りだった。枠一つ余分に圧迫するのは正直ちょっと嫌だけど、かなり現実的な意見である。
しかし、他の皆はそう思わなかったらしい。
「はぁ、意匠屋くん君さぁ」
「おめぇバッカだな」
「そんな詰まらない依頼だったらやらないよ。それ結局は普通に丈夫なだけの馬車じゃん。馬車買って
「クソ萎える事言ってんじゃねぇよ。全部を綺麗に納めてこそだろうが。
「て言うか別々に作ったら片方はただの家じゃないの。なんで私達が家作るの? それ楽しい?」
「空間が限られた車に居住性を持たせるのが楽しいんだろうが。なんで空間をいくらでも使える家を俺達が作るんだ。居住性持った家なんて当たり前じゃねぇか、家なんだからよ」
ボロクソに言われてた。デザイナーさんが死ぬほどしょんぼりしてる。
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