乗り物調達。



「言っとくが、アオミに乗って移動したら大惨事だぞ?」


 王都に帰って来た翌日。グリン達は速攻で宿を引き払って俺達と同じ宿に越してきた。


 その方が都合良いからってだけで一泊金貨一枚の宿を使えるのは、それだけ上級冒険者の稼ぎが良いのだろう。


 俺は経験豊富な先達が近くに居るのはコッチも都合が良いと、この際に相談出来る事はしておく事にした。


 まず乗り物。転生した事は伏せたけど、加護によって異界の道具を取り寄せる事が出来ると伝え、しかしその内の乗り物が馬っぽくも見えるから都市の中では使えない事を伝えた。


 だけどその際、「あれ、外ではアオミに乗れば良くね? 柔らかいからケツにも優しいし」と思ったのだけど、最強種がその辺の街道を飛んでたら大騒ぎになると言われた。そりゃそうだ。


 結局、やはり馬車の調達は必須らしい。大きな都市で個人で馬車を持ってるのは移動の面から見ると語るまでも無い利点が多くある。


「なら、行き付けの工房を紹介してやろうか? 技術者が集まって何でも作る変な奴らだが、腕は良いんだ」


 ゼブンがそう言って、紹介状を書いてくれた。一緒に行動するなら要らない気もするが、こう言うのは形が大事なのだと言われる。


 くだんの工房は鍛冶師や彫金師、細工師、大工、果てには針子や薬師なども集まって、日夜楽しそうな物を作り続けてる集団なのだとか。何それ面白そう。


 早速連れてって貰うと、王都の端っこにある職人街みたいな場所にその工房はあった。


 見た目は木造の倉庫みたいで、パッと見は完全に木造で作った体育館のような印象を受ける。


 ズケズケと中に入っていくゼブンを追い掛けると、中には殆ど吹き抜けで部屋らしい部屋は無い。製作途中の物やその素材がゴロゴロと無造作に並び、職人がそれぞれに好き勝手何かを作ってる。


「おーい、変人共! 客を連れて来たぜぇ!」


「あ、ゼブンじゃんいらっしゃぁ〜い」


「おお良く来たな馬鹿野郎。お前の紹介っつぅならおもしれぇ依頼なんだろうな?」


「グリンもお久〜!」


 二人は常連なのか、殆どの職人と仲が良さそうだ。信用も篤そうで、これでつまらない依頼をしたら裏切る信用はどれ程なのかと怖くなる。


「君が依頼人?」


「どうも、はじめまして。俺は下級冒険者のカイト。こっちは妻のポポロップ」


「どうも」


 二人でペコッとすると、何人かが「下級〜?」と怪訝な顔をする。


「別に、面白ければ下級からの仕事も受けるけどさぁ?」


「払えんのかい?」


「取り敢えず黒貨出せば良いですか?」


 俺は海神の七つ道具オーシャン・ギフトで手のひらの中に黒貨を数枚出力して、職人達に見せた。


 すると全員がニンマリ笑って歓迎してくれた。やっぱりお金は皆大好きだよね。


「よっし、金は有るらしい。なら次はおもしれぇ依頼かどうかだ」


「どんな依頼なのかしら? 針子の出番はございま…………、あら? お二人がお召の布は、牙羊毛では? よく見るとお嬢さん、牙羊族?」


 針子のお姉さんが俺とポロの服に気が付き、そしてポロの角と髪を見て乗り気になる。牙羊毛とは針子にとって憧れの布らしい。


「えーと、まぁ一言で言うと馬車が作りたいって言うつまらない依頼なんだが、車を引くのが馬じゃないんだ」


「…………馬車ぁ? そんなん、専門の職人に言や良いだろ」


「期待外れかも?」


 彼ら彼女らの琴線に触れないらしい馬車と言うアイテムだが、そこで俺はバハムート達を呼び出す。中サイズで。


「なっ、なんだぁ!?」


「これは、俺が加護で呼び出した海竜の精霊。馬車はこの子達に曳かせたいんだよ」


「大事な子達だから、半端な物は嫌。凄い物を作って欲しい」


 竜が曳く車。竜へのプレゼント。半端な物は嫌で、だからここに来た。凄い物、お前らなら作れるよな? そんな情報が急速に脳へ叩き込まれた職人達は、示し合わせたように全員が同時にニンマリ笑った。


「つまり、なんだ? 竜が思いっきり曳いても壊れねぇ馬車が欲しいと?」


「竜が曳くに相応しい物を作れと?」


「竜すらも喜ぶ贈り物を用意して見せろと?」


「それを私達に?」


 ニンマリと笑い、そして静かに闘志が燃え上がってた。


「「「「「「「上等だ」」」」」」」


 キッチン声揃ったね。仲良しじゃんすか。


「いやすげー依頼来たな!? 竜が曳く為の車だってよォ!」


「こんな依頼他に渡せるもんですか! 立派な車、竜車かしら? それなら内装に布を使う事もあるわよね!」


「装飾なら任せなさい。最高の細工をしてみせるとも」


「くぅ! 竜が曳いても壊れない馬車ぁ? とんでもねぇな! 家建てるより面白ぇじゃねぇか!」


「ふむ、竜の鞍を作った事はあるが、竜が曳く車とな。…………腕が鳴りよるわい」


「はっはっは! 空を泳いでるよ! この子達が曳くなら、普通のながえなんて要らないよね!? 設計するの楽しみだなぁ!」


 職人がぞろぞろと出て来て俺達を囲む。もう絶対に逃がさねぇぞと顔が怖い。


 こうして、俺達は変人の関心を引くことに成功し、竜車制作の依頼を出す事が出来た。


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