ウミウシ。



 ピーちゃんは体の全てが氷で出来てるらしい。そして個体差でもあるのか、ピーちゃんの氷は原材料が海水のようだ。


 なるほど。海の獣って原始魔法スキルに相応しい鳥となのか。


 だからなのか、この世界の海神様であるデュープさんの加護を受けてるポロに大して好感度がバカ高い。多分これは海の獣を使って呼び出したからじゃ無さそう。


 俺の好感度が微妙なのは、まぁポセイドン様の信徒だからかな。


 召喚したは良いけど、送還しようとすると全力でイヤイヤしてピーピー無くピーちゃん。ポロと離れたく無いのだろう。気持ちは分かる。


 だけど精霊と違って実態があるピーちゃんを常に召喚し続けるのも問題がある。なぜならデカいし、寒いから。


「…………ピーちゃん、その寒さを引っ込めて小さくなれるか? そしたらポロとずっと一緒に居られるぞ」


「ぴっ?」


 それを聞いたピーちゃんは「え、マジで?」と言うように俺を見た後、バキンバキンと体の氷をパージし始めた。最後にはインコサイズの鳥がそこに居る。


 え、普通に可愛いんだが。俺もピーちゃんが良かった。海の獣頑張れよガチャ運SSR来い頼む。俺も俺の事大好きな氷怪鳥が良いお願いします。


 小さくなったピーちゃんは嬉しそうにポロの所まで飛んできて肩に止まる。そして俺にも「お前よくやった。さすが主の番だな」的な感じで翼をポンポンしてきた。


「ピーちゃん可愛い。よろしくね」


「ぴー!」


 姿は猛禽だが、サイズは完全にインコである。可愛い。そうか、俺は魚を愛してたけど、鳥も良い物なんだな。


「よし、今度は俺の番だろ。…………海の獣、発動」


 気を取り直して俺もスキルを使う。すると目の前にポロの時と同じような魔法陣が走り、モンスターを呼び出す。


 そして、空中に召喚されたソイツは重力に従って落ちていき、ピーちゃんが生み出した氷を叩き割って水中に沈んで行った。


「おぃいいいいッ!? 大丈夫か俺の眷属ぅぅぅう!?」


「危ない、守護結界」


 かなり大質量な生物が氷を叩き割って落ちたので、大きな波が発生した。ポロはすかさずスキルを使って結界を構築。守護結界は法術と違って範囲指定が可能なのか、ボート全体を守るように展開された。


 ………………俺達のだけ。


「だから俺達もぉぉぉお!?」


「沈むぅぅうう!?」


 沈まない。ポロの海神の七召命オーシャン・オーダーで神器化してるポロップ号は転覆しない。ただ中に水が入って乗り心地最悪だろうから、海神の神術オーシャン・レアで中の水を外に排出してあげた。


 守りの法術は水や空気を除外出来なかったが、守護結界は拒絶対象を取捨選択出来るようだった。


「………………なんか変なのだった」


 ポロが落ちてって奴の感想を言う。確かに変なのと言って良いシルエットだったと思う。


 俺はそのシルエットを知ってたけど、グリン達も知らない感じだ。なんだったんだアイツはとか言ってる。


 ボートから身を乗り出して水の中を見ると、落下の衝撃で泥が撹拌されたのか姿が見えなかった。


 いや、違う。屈折率が水と同じで見えないのか。そいつはふにょんふにょんと体をくねらせて泳ぎ、まだ煙が立ち込める水中からひょっこりと顔を出す。


「…………と、透明でクソでかい、ウミウシや」


 ウミウシ。言わずと知れた海のアイドルである。大体が可愛くて、スライムみたいな愛嬌がある。


 このウミウシは見たところアオウミウシと呼ばれる種類に酷似してる。色合いも形もそっくりだ。


 ただ透けてる。構成する成分の殆どが水だと言わんばかりの体である。


 途中、「よぉ」とでも言うように体の一部をくにゃっと曲げて挨拶してきた。なんて可愛い奴だ。


 でも体の一部が水に隠れて勿体ない。全身見たい。俺がそう願ったのが原因なのか、アオウミウシだった個体がうにょうにょと動いて体の形を変え始めた。


「…………変形出来るのか!?」


 その結果として新たな形を得たそいつは、アオミノウミウシと呼ばれるウミウシの姿になった。結局ウミウシなんかい。


 アオミノウミウシは別命ブルードラゴンとも呼ばれていて、ウミウシなのにウミウシに有るまじきスタイリッシュなシルエットをしてる。


 細長い体の両脇に二対から三対の翼みたいなものを広げて泳ぐ様は、まさにブルードラゴンって感じの生き物なのだ。


「こ、コイツは透竜とうりゅう…………!?」


「最強の海竜種じゃねぇかよオイ!」


 へ? この子も海竜なの? でもウミウシだよ?


 俺は透竜って種類らしいウミウシに向き直り、空中をふよふよと泳いで近寄ってきたソイツの頭を撫でる。見た目の通りにヌメヌメしてるけど、懐いて来て可愛い。


「来てくれてありがとう。仲間になってくれるかな?」


 俺の問いに透竜は翼の一枚を俺の手に絡ませてモミモミした。了承の合図だろうか? 可愛いな。


「君の姿が故郷に居たアオミノウミウシと、アオウミウシに似てるから、シンプルにアオミって呼ぶね。よろしくアオミ」


 また手をモミモミされる。翼は有るけど空力で飛んでるわけじゃ無いんだろう。羽ばたきすらしてないもんな。


「アオミは小さくなれる? あと陸でも活動出来る?」


 俺の問いにアオミはブルードラゴンからアオウミウシの姿に戻りつつ、にゅにゅにゅっと小さくなって俺の手にズシッと乗った。可愛い。


 うーん、文句無い! ピーちゃんも羨ましかったけどアオミが来てくれた事になんの文句も無い!


 実は魔力がスッカラカンで頭がフラフラするけど、召喚中ずっと魔力消費って仕様ではないらしくて今のところ大丈夫だった。


 ヌメヌメの体は触るとヌメヌメだけど、手を離すと濡れてない。なんか意味不明過ぎて逆に疑問が分からない。


「これからよろしくね、アオミ」


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