舎弟が増えた。



「すげぇ、一人で竜を倒すなんてっ!?」


 ボルネルは、どうやら無撃必殺なんてふざけた名前の冒険者に憧れて、極々最近に冒険者になったそうだ。


 エントリーでバハムートになった元の海竜を倒してから一ヶ月くらい過ごしてるし、その後にテムテムで数日、更に王都までの移動で二週間くらい。


 まぁ足の早い商人なら充分に噂をばらまける期間である。


 正直、海竜ってのは竜の中でも単純な強さで言うと最弱。ただ海の中で戦う事になるから討伐難易度は屈指。そう言う感じのモンスターだ。


 それでも竜の中で最弱と言っても、それは竜での話であり、人が戦うとなったら化け物には違いない。


 そんな存在をたった一人で倒した超カッコイイ英雄。無撃必殺。


 しかも聞けば同い歳らしい。ボルネルくんは憧れちゃったのだ。


 ちなみにだが、海竜海竜と言ってるけど海竜にも種類が居て、ウチの子達は海竜種の中でも最弱らしい。と言うか他の海竜は普通にランキング上位の奴も居るとか。


 他に比べたら数が多いので海竜と言えばコイツって感じになってるが、徒党を組んで他の竜をボコれる程でも無い。何とも言えない位置付けだ。


 種類としては狼海竜ろうかいりゅうと言うそうだ。海には他にも大型の海竜が二種類居るとか。


「弟子にしてください!」


「いきなり斬りかかって来るような奴は嫌だなぁ」


「あ、あれは違うんです! その、三日も仕事が上手くいかなくて、イライラしてて……!」


 まぁ気持ちは分かるよ。三日ずっとボウズで、でも納期は迫ってて、イライラしまくってる所に第三者がひょこって現れてケンカはだめーって仲裁してきたら、噛み付きたくもなる。


「でも分かる? ポロは間違った事言ってなかったよな? 喧嘩は良くないよって、仲間なら仲良くした方が良いよって、ただそれだけの事を言ったんだ。そしたら身体的特徴を蔑まれたんだよ。チビってさ。…………大事な嫁にそんな事言われた俺の気持ち、分かる?」


「ごめんなさいでしたぁぁぁぁぁぁああああああっっ!?」


 そりゃ最初は襲われたよ。逃げ場の無いボートの上で。日本だったら結構洒落にならない事件だよ。でもあの時点でもうポロの事が結構好きだったから、今では良かったと思ってる。


 あんなに全力で口説いてくれた。そばに居てくれた。海竜と遊んだ時は笑顔で迎えてくれた。


 今はもう最高の嫁なんだよ。それを目の前で失せろチビと一蹴された俺の気持ち分かる?


「正直な事を言うとな? 俺あの時、マジで殺すつもりだった。死体なんてバラバラにしてそこの湖に捨てれば魚の餌になるし。あぁ、精霊に食わせても良い」


「本当にごめんなさいでしたぁぁぁぁあああああもう姐さんにはさからいませんんんんんッッ!」


「カイト、殺すのダメ。殺して良いの、悪い人だけ」


 頬を染めつつも裾をちょんちょん引っ張るポロ。


「でも斬りかかって来るのは悪人じゃね?」


「煽ったカイトも、悪いでしょ?」


 おでこをペシってされた。…………もしかして今、俺は叱られてバブみを感じた? 心がオギャッたのかっ?


「……………………ポロに免じて許す」


「師匠ぅう!」


「いや弟子にはしねぇよ。仕事が三日コケるだけで、言い合いの果てに斬り掛かるヤベー奴になるんだろ? 責任とか取れねぇし」


 絶対嫌だわ。知らぬ間にアナタの弟子が喧嘩の末に殺人をとか言われたら「知りません」としか言えない。


「じゃぁせめて、兄貴って呼ばせてくださいっ!」


「わぁーい舎弟が増えたぞぉ〜? 嬉しくねぇ〜!」


 なんでだよ! なんで増えるんだよ舎弟! 俺は兄貴属性なんて持ってないだろ!




 翌日。ポロといちゃいちゃしながら起きて朝の準備。


 野営地を見るとまだ誰も起きてない。流石に日の出前は起きないか。


 昨日はもう二人に道具くれてやったし、今日は勝手にしてて良いだろ。兄貴兄貴と煩いから根負けして四千円くらいのツーピースバスロッド買ってあげちゃったんだよな。リール付きで。


 身支度を終えて朝食作り。刺身にしようかなって思ってると、面識の無い四組のテントの内の一つから人が出て来た。


 目があったので会釈すると、軽く手を上げてこっちに来た。


「よぉ、無撃必殺なんだってな?」


「…………その名前に納得してないだけどなぁ」


 昨日、ボルネルが大騒ぎしてたからな。そりゃ他の人にも聞こえるか。


「答えなくても良いんだが、もしかして加護持ちか?」


「まぁ、うん」


「マジかぁ、すげぇなぁ」


 男はボウズ頭の三十前半くらいの男で、今は脱装しててラフな格好だ。


 なんでこっち来たのかと言えば、ちょっとした頼み事があるらしい。


「なぁ、加護持ちと一緒に居ると原始魔法が生えやすいって知ってるか?」


「神官がそう言ってたね」


「おお知ってるか! じゃぁ話は早いぜ」


 男の頼みとは、スキルが生えるまで自分のパーティと一緒に居てくれないかと言うこと。もちろん報酬は付く。


「こっちの行動を邪魔しないなら別に構わないけど」


「本当か!? やったぜ、これでまた俺らは強くなれる!」


 男の名前はグリン。パーティはゼブンと言うもう一人の相棒だけであり、どちらも上級冒険者らしい。上澄みじゃないっすか。


「同行期間は?」


「取り敢えず一ヶ月くれぇかなぁ? 報酬はそうだな、一日に付き黒貨一枚でどうだ?」


 この世界は一ヶ月が四十日くらいだ。つまり黒貨四十枚の仕事になる。


「適正なのか?」


「安かったか? これ以上はウチも厳しいもんが有るんだが」


「いや、結構張り込むんだなと」


「ああそっちの意味か。そりゃ当たり前だろう? 加護持ちがどれだけ希少か分かってねぇのか? …………いや加護持ち本人ならそんなの気にしねぇのか?」


 どうやら、加護持ちってのは俺の思ってる以上に希少らしい。マジで誘拐に気をつけようかな。なんか怖くなってきた。


「ちなみに、ウチは加護持ち二人なんだけど」


「マジで言ってんのかお前ェ!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る