武器喪失。



「お、俺の剣が…………」


 二人の痴話喧嘩をほっといて、ポロと二人で釣りを楽しんだ日の夜。


 ハネマネが一緒に夕食を食べようと提案したので乗ったが、良く考えると向こうは多分干し肉とかだろって思ったので食事を提供する事にした。


 モノン達にそうだったようにタダで食わせる筋合いは無いが、一つだけ瑕疵かしがあったのでその弁済として出す事に。


 そう、ボルネルの剣だ。


 武器を抜いたボルネルが悪いので謝る気はサラサラないし、ポロをしょんぼりさせた件は未だに許して無い。


 ただ金が無いだろう下級冒険者が持つ武器をぶっ壊すのは、ぶっちゃけると殺す事に等しい。だって武器安くないし、武器ないと魔物と戦えないのだ。一瞬で詰む。


 俺は悪くないけど、まぁ人生の崖っぷちに立たせた事に対する補填と思えば料理のひと皿くらいなんて事無い。


「おれの、けん……」


「もう! いつまでウジウジしてんのよ! ただの言い合いで武器を抜いたアンタが悪いんでしょ!」


「でもよぉ……」


「本当なら剣じゃなくて、アンタの頭が吹き飛んでたんだからね!? 文句を言うのはお門違いよ!」


「だけどよぉ……」


 ガチしょんぼり沈殿丸だ。さっきまでの威勢が欠けらも無いぞボルネルくん。こんなにガチしょんぼり沈殿丸と言う言葉が相応しい状況も早々無いぞ。教科書に載せようぜ。


「あのさ、水トカゲの生け捕りで報酬二倍。一匹で銅貨五枚が銀貨一枚。ハネマネがあの後も二匹釣ってたから、報酬は銀貨三枚。……安い剣くらいなら買えるんじゃね?」


 あまりのガチしょんぼり沈殿丸具合に、見かねた俺が解決策を提示する。


 銀貨って五千円から一万円くらいの価値だ。文明的には鋼が高過ぎて無理。でも鉄はギリギリ、青銅製で良いなら余裕でお釣りが来るはずだ。武器屋覗いた事あるけどそんな感じの値段だったぞ。


「………………あっ、ホントだ」


「ちょっと!? あの水トカゲは私が捕まえたんだからね!?」 


「うるせぇ! お前だっておんぶにだっこだったんだろ!」


 仲良いなコイツら。戻って来てる他の冒険者も苦笑いしてこっち見てるぞ。


「どうせ三日も粘ってコレなら大赤字なんだし、もう少し粘ってもう数匹捕まえれば良いんじゃね? 道具なら貸してやるぞ?」


「ホントかッ!? お前良い奴だなぁ!」


「アンタまず謝るのが先じゃないの!? 逆恨みで斬りかかって、その後勘違いで殴りかかったのよ!?」


 それはそう。まず謝れ。ポロに。


「ちなみに、お前が舐め腐ってるポロだが、神殿で能力値を全部十まで上げてるからな」


「……………………え、マジ?」


「マジ。殴り合ってみるか? ぶっ殺されるぞ」


 マジが使える翻訳にしてくれたポセイドン様、ありがとうございます。


 ポロは小さく非力だが、ステが二倍なら成人男性くらいの膂力は出せる。そして小さい体で敏捷も二倍。耐久も二倍。ステゼロだと思われるボルネルでは殴り合いステゴロでも勝ち目がない。


 ボルネルこいつ結構現金なヤツで、速攻ポロに詫びを入れてた。


「すまんかった!」


「別に良い。気にしてない。……カイトが代わりに、怒ってくれたから」


 ほんのり頬を染めるポロが許しを与えた。なら俺も水に長そう。


「許してくれるのかっ。お前も良い奴だなぁ! ウチの煩いのとは大違いだぜ!」


「誰がうるさいですってぇ!?」


「お前だよ!」


 言い合う二人をよそに、作った飯を食べる。今日はアロフライのサンドイッチだ。


 サクサク感を残したままサンドするのは結構大変なのだが、千切りしたキャベツと一緒に挟むことで問題をクリアしてる。その代わりキャベツがボロボロ零れて食いにくいが、キャンプ飯で多少の食い難さはご愛嬌だろう。


 サンドイッチを頬張ると、キャベツのザクッとした食感がフライのサクサク感を増長し、食べてて楽しい歯応えになる。


 ソースを吸った衣の先には揚げられたアロがしっとりとお出迎え。美味しいなぁ。


 あむあむ、もむもむとサンドイッチを頬張るポロも可愛い。湖での釣りも楽しかった。あれ以降、変なナマズもどきは釣れなかったが、代わりに水トカゲと良くわからん小魚は釣れた。小さくて食えるか分からなかったから今回はリリースしたけど。


「でも、ポロは良いけどカイトに謝るべき。カイトは一人で海竜倒せる。下級なのは正直詐欺」


 ふと、ポロがボルネルに何か言ってる。どうしてポロは事ある毎にその事を話すのか。私の旦那かっこいいだろふふーんって事なのか? 可愛いじゃん。


 ダメだな。ポロに対して激甘になってる自覚がある。


「…………海竜? え、それってもしかして、エントリーか?」


「ん、そう。知ってる?」


「じゃぁ、あんたが無撃必殺なのかっ!?」


「その名で呼ぶのは止めろぉぉおおおおおおおおッッッ!?」


 まさか俺がシャウトする事になるとは。


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