トカゲ釣り。



 男が頭ゴスンされて気を失ったので、俺は取り敢えず許した。本当は本人からポロへの土下座をもってゆるすつもりだったが、連れに脳天カチ割られた男が哀れ過ぎたから。


「へぇ、じゃぁカイトさん達も水トカゲ狩りに?」


「ついでだけどね。本当は湖その物に用があるんだよ。…………あぁ、そっち引っ張って」


 連れの脳天をゴスンした女、薄らと青い髪のポニーテールはハネマネと名乗った。年齢は俺達と同じで、ついでに言うと等級も一緒。


 ポロの年齢から「同い歳!?」と驚くテンプレを通過したら、ハネマネはこっちのテント設営を手伝うと申し出て来た。


 謝罪が足りないからと言うが、ボディブローからの脳天ゴスンは結構な体罰だと思うよ俺は。足りないってところには同意するけど。


「湖に用事、ですか?」


「そう。俺達は魚を釣るのが趣味でね。そっちが本命なんだ」


「ハネマネ、ここは何が釣れるか、知ってる?」


「あ、私そんな詳しくなくて……」


 テントを張り終わったので、道具の準備を始める。ポケットが沢山ついてる釣り用のライフジャケットを着たら、釣り具コンテナを出して必要な道具をジャケットに入れていく。


 水トカゲは虫を食べるそうなので、バグ系のワームをメインに選ぶ。


「そ、それは……?」


「先に水トカゲを捕まえちゃおうかも思ってね。そのための道具だよ」


「カイト。ポロはまだ、ワームが良く分からない。教えて欲しい」


「任せとけ」


 今回の釣りは多分、ブラックバスを狙うやり方と似てるはず。ブラックバスは釣り方が結構特殊なので、今までの感覚では混乱するかも知れない。


 ちなみに、ポロは海神の七召命オーシャン・オーダーで俺がプレゼントした大型のコンテナを一つ契約してるので、そのコンテナに入る分だけは擬似的なインベントリとして機能する。


 コンテナの中身は俺の釣具用コンテナと同じ内容になってるので、そこから俺の真似をして道具を選んで行く。ポロもライフジャケットを着てるが、俺用の物しか用意出来ないのでブカブカだ。可愛い。


「あ、あの!」


「ん? どした」


「その、水トカゲを取るの、見学してても良いですか? ひ、必要ならお金も……」


「いや、別に良いぞ? 見られて困るような事しないし」


 ハネマネも水トカゲを取りに来てるらしいから、真似したければ真似すれば良い。別に俺達が特別な方法を使ってるとも思ってないし。


 絶対これ虫を餌にして釣るくらいの事したやつ居るでしょ。資料に虫食べるって書いてあったんだから。


 準備が終わったのでポロと一緒に湖へ。ハネマネは邪魔をしないように後ろから来るつもりなのか、でも後ろでじっと見られる方が気が散るので隣で良いと伝えて一緒に行く。


 ちなみに気絶してる哀れな男、ボルネルとか言う名前らしい脳天ゴスン野郎はまだ気絶中。と言うか脳天ゴスンされた場所でその姿勢のまま気絶してる。


 …………他の冒険者が見たらどうすんのかな、あれ。他に四組居るんだよね?


「良いかポロ。相手は虫を食べる肉食性、もしくは雑食性の水棲トカゲだ。エラ呼吸じゃないから必ず陸地には出て来るだろうけど、釣り人の俺達には関係ない」


「ん、釣るから」


「ハネマネも適宜解説しながら見せてやるから、気になったことは遠慮なく聞いて良い。釣りの布教なら俺はうるさい事なんも言わん」


「わ、分かりました! お願いします!」


 ポロにブラックバス用の仕掛けリグを教えながら、ハネマネにも気を遣う。もし興味を持って釣りを始めてくれるなら大歓迎だ。


「ポロ、今日使うのはシーバスロッドだ。本当はバス用が良いが、わざわざ買うのもアレだから流用する」


「マスライダー、だめ?」


「ダメな事は無い。でも柔らかすぎて使い難いんだ。バス釣りは竿先の繊細さが結構重要だからな」


 ポロは鱒ライダーを気に入ってるので、使えないと分かって少しだけ悲しそうだった。でも気を取り直してタックルを用意した。


「水トカゲは大きさが結構バラバラっぽいから、下に合わせてフックは少し小さいのを選ぶ。今回は重りが最初から鈎にくっ付いてる『ジグヘッド』と言う鈎を使うぞ。フックとラインを結んだら、フックにワームを刺す。こんな風に」


「ぐにゃっとした」


「普通にお腹をぶっ刺す方法も有るんだが、今回はオーソドックスに行こう」


 選んだワームはザリガニ型の物で、そこにジグヘッドをお尻からぶっ刺して背中に抜く。


「簡単」


「そ、簡単だよ。釣りは難しくないのさ。魚を上手く釣ることだけが難しい」


 出来たら早速投げてみる。


「ポロ、投げたら底まで沈むのを待つ。もうその感覚は分かるだろ?」


「もち。任せて欲しい」


「底についたら、リールのヴェールを静かに下げろ。そして糸ふけを取れ」


 糸ふけって言うのは、投げた後に残ってるラインの無駄なたるみの事。


「そしたら、十秒待て。待ったら、………………こうする」


 俺は底まで沈めたワームを、竿の先をほんの少しだけブルブルと振る事で動かす。こうするとワームが水の底でぴょんぴょん跳ねるように動く。


「これをボトムパンピングと言う」


「ぼとむ、ぱんぴ?」


 水底をボトム跳ねさせるパンピング。まぁそのままだ。


「出来るか? これをやると、ワームがぴょんぴょん跳ねるから生きたエビみたいに見えるんだ」


「やってみる」


 集中したポロが、竿先をじっと見てから少しずつ力を入れて竿を揺らす。もう少し苦戦するかと思ったけど、ステータス上げた影響なのか結構簡単に絶妙なプルプル感を出していた。


「美味いぞポロ。その調────」


「──来たッ!」


 俺とポロのダブルヒット。だから入れ食いが過ぎるっての異世界! 嬉しいけどなぁ!


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