湖に行こう。
初めてギルドの二階に来た。思ったより利用者は居る。
ラノベで良くある『資料室あるけど利用者が居ないから知識で無双出来る』的な展開は無いって事か。
司書的な人はちゃんと居たので水トカゲの情報を欲しいと伝えて本を借りる。
「…………ポロ、頼んだ」
「ふふふ、任せて欲しい」
俺はまだ読みが苦手なのでポロに頼む。依頼書は簡単に書かれてるから読めるけど、本に書かれてるようなちゃんとした文章はまだ無理である。
ポロは計算が苦手だけど頭が悪い訳じゃない。見た目と同じくらいピュアッピュアなメンタルしてるだけで、読み書きは完璧なのだ。牙羊族の識字率は九割を超える。
「虫、食べるみたい?」
「それはどんな虫? 水面にぽちゃって落ちる虫? それとも水中に居る虫?」
「んー、どっちも?」
イメージは、水中のエビやヤゴ、水面に落ちたセミや蚊を食べるオオサンショウウオ。
ふむ、釣れるな?
釣り人は場合によってカエルとかも釣る。やろうと思えば魚以外も色々と釣れるのだ。食性さえ分かればこっちの物。
ただ問題は、王都から湖が思ったより離れてる事。王都を支える水源なのかと思ったら、この都市はいつだったか俺が考えてた『水を産む魔道具を中枢に組み込んだ都市』その物だった。
良く考えると当たり前だった。水源がある場所に都市を築いたんじゃなく、神殿がある場所に都市を築いたんだから。水源の有無は運次第、なんて杜撰な計画で都市なんか作らない。
ちゃんと『水源なんか無くても都市を作れる計画』の元に
「大丈夫そう?」
「任せとけ」
欲しい情報を得た俺達はギルドを出た。
都市が広すぎる上に、ギルドがある場所と湖方面に出れる門が都市の中心を挟んで反対にあるので、徒歩ではダルい。
辻馬車を捕まえようにも運悪く見当たらない。自転車を出そうと思ったが、そう言えば都市の中で馬に乗ってる人をエントリーからずっと見た事が無かったのを思い出した。
「なぁポロ。もしかして都市の中で馬に乗ると犯罪だったりする?」
「…………分からない。聞いてみる」
すぐにポロがその辺のお姉さんを捕まえて聞いたら、ビンゴだった。都市の中で馬に乗って良いのは騎士以上の身分からだそうで、庶民が乗ったら速攻アウト。庶民が乗って良いのは馬車までらしい。
「マジか」
自転車は馬じゃないけど、鉄の馬だとか難癖付けられたら困る。実際「これは鉄の馬さ」とか言ったことあるし。
「…………馬車作るか。バハムートに曳かせる感じで」
「それは楽しそう。是非作る」
都市内で使える足が無いと面倒そうだ。精霊に曳かせる車とかそれはそれでトラブルほいほいな気もするけど、加護持ちは組織立った囲い込みは無いって聞いたから大丈夫だろ。個人で難癖付けてくる奴はぶっ飛ばそう。
それに精霊隠してないの今更だし。
でも馬車なんて「良し作ろう!」って思ってポンと出来上がる物でも無い。仕方ないから今日は辻馬車探しながら徒歩で行こう。
宿は黒貨で払って十日分の先払いなので、日帰り出来ないと勿体ないけど部屋を取り損なう事は無い。その点は安心だ。
「馬車、この場合は竜車かな? 竜車作ったら神器解除権使って自転車の枠空けようかな。勿体ないし」
「…………自転車は自転車で、良い物」
「自転車使う時は普通の奴をポイントで買うよ」
歩きながら辻馬車を探したが、全然見つからずに一時間かけて門まで来ちゃった。
並んでから割符で外に出たら、自転車を出して湖に急ぐ。
「これ日帰り無理かな?」
「テントも好き」
三時間使って湖に辿り着いた。草原と森に囲まれた雄大な湖だ。かなりデカくてパッと見は海にすら見える。
時速50以上で走って三時間だから、馬車だと数日掛かるじゃんここ。何が王都の近くにあるだよ遠いじゃねぇか。まぁ最寄りの都市が王都なんだろうけどさ。
クソが。途中で普通に村とかあったから『最寄りの都市』であって『最寄りの人里』ですら無かったけどな。
湖には思ったより人が居る。俺達みたいに依頼で来てるっぽい冒険者や、湖で漁をして暮らす村人とか、色々だ。
日帰りは諦めたので、俺達は冒険者が多く野営してる場所に近付いて軽く挨拶をしようとした。テントを先に設置しようと思ったのだ。
「だーかーらー! 引き付けて私が弓で倒すしか無いでしょ!?」
「当てられる腕になってから言えよ! 水トカゲが逃げない距離じゃマトモに当てられない癖に!」
「なんですってぇ!?」
だけど、先に居た冒険者は何やら争ってて挨拶どころじゃない。なんだよめんどくせぇな。若めの男女だが、恋仲って風にも見えない。腐れ縁ってやつかな。
野営地にはテントが五つ。最大で五組がここに居るんだろう。一組で二つ以上のテントを使ってるかもしれないから確定情報じゃないけど。
意を決してわざと足音を立てて更に近寄る。気配を感じて言い争いを止めた二人組の男女がこっちを向いた。
「どうも、仲良くしてる所悪いけど、空いてる所使って良いかな?」
「ん、ああ勝手にしろよ。俺らの土地でもねぇし」
「バカ、そういう事じゃ無いでしょ! 挨拶に来てくれたんじゃないもう!」
………………めんどくせぇな。やっぱ今から帰ろうかな。
「なに、争ってる? 仲良くした方が良い」
見かねたポロが声を掛けると、女の子はバツの悪そうな苦笑を浮かべ、男の方はあろう事にポロへも文句を言い始めた。
「んだよチビ、関係無いなら引っ込んでろ!」
明らかにしょんぼりしてしまったポロ。このクソガキャァ……。
「気にするなよポロ。雑魚ほど吠えるのは世の習い。自分が弱いから他を下げないと威張れない可哀想な奴なんだ。笑って許してやれよ」
「ンだとテメェッ! 喧嘩売ってんのかぁ!?」
あ? 先に売ってきたのテメェだろうがボケ殺すぞ。
「おいおい、喧嘩買われたら困るのはお前だろ? そんなにキャンキャン吠えて、よっぽど自信が無いんだろうな。もう少し静かにしてくれたら見逃してやるから、少し黙れよ青二才」
「ッソがぁ、ぶっ殺してや────」
男が腰の剣を抜いたところでライフルを召喚、その刀身を撃ち抜く。
「────るっ、…………はぁ?」
ついで、銃口を男の顔に向ける。
「見逃してやるってんだよ。良いから黙って
「ご、ごめんなさいっ!」
俺がマジでやろうとしてるのが分かったのか、女の方が男に飛び掛ってボディブロー。下がった頭をそのままゴンッと地面に打ち付けた。
「どうか、命だけは! こいつホント馬鹿なんです! 馬鹿だけど死ぬ程悪い奴じゃ無いんです!」
「か、カイト、やりすぎ。怒ってくれたの嬉しい。けど、殺すのだめ」
「いや、待て。俺よりそっちの女の子がトドメ刺してね? 血ぃ出てるぞソイツ?」
頭を打ち付けた地面、丁度そこに石あったよ?
なんとも言えない流れになって、俺は完全に気勢が削がれた。
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