王都到着。
防音結界を覚えた日から今日まで、ツヤッツヤのポロがご機嫌だ。何とは言わないけど毎晩とても激しい。
ホントに毎日コレで三年に一人って確率なら、牙羊族と人の相性悪すぎひん?
毎日毎晩、夜にぬぷぬぷ、昼にいちゃいちゃして進むこと予定通りに一週間経った昼間。セデン達から「…………俺も俺の事大好き過ぎる嫁が欲しくなって来た」と羨望を受けながらも進んでやっと見えた王都。
シャルトン王国の首都、バグラ。
と言うか俺の居る国ってそんな名前やってんね。初めて知ったわ。
案内状や紹介状など、税の免状を持ってないと入るだけで金貨一枚持ってかれる大都会だ。その代わりパレードとかあるとその前後一ヶ月は入都税が免除されたり、お祭りともそう。
入るだけでぼり過ぎだろって思うけど、まぁそれでも回るように運営されてるのだ。
当然今は祭りもパレードも無いので金貨二枚を払って入場。一週間の内に立ち寄った街への入場料と宿代なども考えると、本当に黒貨二枚近く使った計算になる。この後に神殿を使ったら丁度そのくらいだ。
マジで旅行するだけで金がぶっ飛ぶんだなぁ。日本なら数万円あれば海外にも行けるのに。
「それにしても、カイトが加わってからは楽な仕事だったなぁ」
「そうだな。魔物も獣も全部、飛んでる精霊達が倒してくれたしな」
「同行の対価がそれだけって、かなり安上がりでしたね」
セデン達が次々言うが、そんな事は無い。俺はこの同行でモノンやクォルカ、そしてセデン達パーティにも様々な話を聞いて常識を補い、情報を得られた。
ロスした時間分はしっかりと頂いてるのだ。
流石に俺もそこまでお人好しじゃない。貰えるものが有るから条件を飲んで同行したのだ。
「ここが王都か。デカイな」
街道から門を通り過ぎると、そこは大通りに直結している。日本で言うと四車線道路くらいの広さで石畳が続き、だけど車道と歩道が分かれてたりはしない。馬車も人も入り乱れてる。
「お疲れ様でしたカイトさん。お陰様で安全に旅を終えられました」
「契約通りなので礼は不要ですよ。同行はここまでで良いですか?」
「もちろんですが、何かご用事でも? 良かったら皆さんで食事でもと思ったのですか……」
まぁ、カイトさんの料理には負けるかも知れませんがと言われて悪い気はしなかった。
「ポロはどうしたい?」
「んー、宿がちゃんと取れるなら、行っても良い」
「まだ一緒に居るもん!」
随分と懐いたムールがひしっとポロに抱き着いた。お別れが近付いてして悲しくなっちゃったらしい。
誰しも泣く子と
そりゃ徴税官には勝てねぇよ。そして徴税官と同等だと言うなら泣く子も最強だ。俺もポロも打ち上げには参加することになった。
しかし昼から、と言うのも風情が無い。俺達も早いうちから良い宿を確保したがってるし、それならと夜に集まる事になった。
「ぜったい! ぜったいきてね! やくそくだよっ!」
ぐしゅぐしゅ泣くムールちゃんに手を振って、俺達は宿を探す。モノンに聞けば良かったと思うが、向こうもそこまで王都に詳しく無いらしいので仕方無い。
「ちょいとそこ行くお兄さん! もしや宿をお探しじゃないかな!?」
途中、何か声を掛けられたが無視をした。ポロの手を引いてそのまま進む。
「ちょちょちょ! そこのお兄さんだよ! 妹さん連れてるお兄さん!」
俺が連れてるのは嫁なので妹じゃない。人違いです。そう抵抗してたのに「もう話くらい聞いてよ!」と目の前に回り込んできやがったコイツ。
おま、これ日本なら普通にアウトだからな? 通行の邪魔をするキャッチやセールスは条例違反だ。
「宿をお探しじゃないですか!?」
回り込んで来た声の主は、大きめの帽子を被ったオレンジっぽい髪の女で、後ろで纏めたポニーテールを揺らす活発そうな女の子だった。アニメだったら順ヒロイン級って所だろうか。
女の歳は見た目じゃよく分からないけど、それでも予想するなら十三か十四って所だと思う。
「あ、間に合ってます」
その横をすたすたと歩き去ろうとする俺を「ちょちょちょ!」と掴んで話さない女。お前! 掴むのはダメだろ! 日本ならマジで警察呼んでるぞコレ!
「嘘だよ絶対! 宿探してるって言ってるの聞いたもん!」
「盗み聞きかよ最低だな」
「なんでそんなに辛辣なのッ!? おかしくない!?」
おかしくねぇよ。これあれでしょ、宿探してるって言うと案内されて、そこがなんかボロくて色々同情引くような話されて泊まらされるんでしょ? 俺は詳しいんだ。
それでなんか料理の質だけはやたら高いんだろ。知ってる知ってる。
「ごめんな、俺達普通に高級宿探してんだよ。一泊で金貨一枚くらいの」
「お金持ち!? だ、だったらウチが良いよ! 高いだけの宿より良いところだよ! 料理が美味しいだよ!」
ほら来た「高いだけの」とか「料理が美味しい」とか大正解じゃん。
違うんだよ。俺達が求めてんのは宿の質じゃなくて壁の厚さなの。ポロちゃんちょっと夜に声が大きいから気になるの。防音結界だって魔力使うから疲れるの。ポロが。
「良いじゃん良いじゃん泊まってよ〜!」
「だぁあウゼェ! こっちは用事があんだよ! 無駄な時間使わせんな!」
宿決めたら速攻で神殿まで行ってステータス上げるんだよ! その後湖の情報を集めてから夜に打ち上げなんだよ!
「…………カイト、面倒。抵抗するより行った方が早い」
「ここで屈したらコイツ絶対に調子乗るぞ?」
「度が過ぎたら殴る」
「わたし殴られるのッ!?」
なんなら今から殴りたいが? 俺は男女平等パンチ肯定派だぞ。そのふざけた幻想をぶち殺すんだ。
「それに、行ってダメなら、その時によそ行く」
「そ、そうだよ! 文句は一回泊まってから────」
「それで、ダメだったら、『しつこく客引きしたくせにダメだった宿』として、周囲に教える」
「──そんな事されたらウチ潰れちゃうじゃんッ!?」
ったりめぇだろ。悪評ってのは潰す気で流すんだよ。
「チッ、分かった。その後自慢の宿とやらを拝んでやる。もうなんか頭に来た。ポロ、どんなに壁薄くても防音結界使うのやめようぜ」
「…………えっ? あの、えっ!?」
俺の提案にポロが「聞かせるの!?」と動揺してる。ごめん俺もちょっとどうかと思い始めたわ。冷静じゃ無いかもしれない。
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