冒険都市サルス。
翌日、視線だけで人を殺す実験でもしてるのかって思うほどの敵意に見送られ、一行は都市をめざして出発した。
朝食も簡単に済ませたし、ポロは昨日の夜も好き放題出来なかったから少し不満そうだ。流石にな、人が周りにいる中では出来ないよな。何とは言わないけど。
「どうしてあんなに恨まれてたんだろうな?」
「……もしかして、ふざけてる?」
くすくす笑うポロを膝に乗せ、頭を撫でて角をカリカリと指でかく。
「ムールものせてぇ〜」
そうしてると、ムールも俺の膝に侵入してきてポロに抱き着く。随分と懐いたらしい。
「あのね、カイトおにーちゃんのご飯、おいしかったー!」
「そっかそっか。王都につくまでは作ってやるから」
「ほんと? うれしー!」
馬車の外は空中を泳ぐ精霊と、少し早歩きで馬車に随伴する冒険者三人が居る。こうした場合、俺は一応名分が「同行」だから馬車に乗ってるが、冒険者達は護衛の契約なので外にいる。
こうやって馬車に歩きで随伴し続けられる体力も、中級冒険者としての最低限なのだろう。確かに成り立ての下級には任せられない。
それに三人も別に弱くない。あの狼だって本当はもっと多かったのを逃げながら減らし、でも先回りされて馬を狙われたから守るために足を止めてたそうだ。
「カイトおにーちゃんとポポロップおねーちゃんは、どっちもかごを持ってるのー?」
「そうだよ。別の加護だけど良く似てるんだ」
「ムールもね、リヴァイちゃんとラギアスちゃんみたいなお友だちほしいなぁ〜」
「出来るんじゃないか?」
出来るかなぁ〜と首を傾げるムールの頭を撫でる。魔法は加護を研究して出来た技術なのだから、加護に出来ることは魔法でも再現出来るって事になる。
「ムール。ラギアス達は海に居る。仲良くなるなら、海に行くと良い」
「海! ムール、海しってるよ!」
楽しそうにするムールを優しい笑顔で見てるクォルカ。そんな穏やかな時間を過ごし、夕方頃に大きな都市が見えて来た。
主要都市に相応しい規模と立派な外壁だけが街道の先に見える。モノンによると、冒険者が集う都市、サルスと言うらしい。
大きな都市だけあって入場に並ぶ列も長い。そして入場料も結構するそうだ。
モノン達は魔法学校からの推薦状みたいな物で入場料が免除され、セデン達もギルドタグと護衛依頼の割符を見せてむ無料。
ただ俺達は名義上「同行」してるだけなので、自分の分は払わなくちゃならない。
「銀貨六枚か、高いな」
「そりゃぁな、民の不要な移動を制限する意味もあるから仕方無いだろう」
こぼすと門番に苦笑いされ、でも抵抗する意味も無いので素直に払った。まぁ黒貨を百枚以上手に入れたから入場料なんてケチる必要も無いからな。
確かに大きな都市で毎回こんなに取られたら、長旅するのに黒貨も必要になるわと改めて思う。
物価と言うか物の価値が違い過ぎるから単純な比較は難しいが、日本円換算で賎貨が五十円から百円の価値になる。そうなると、黒貨は最低でも一枚五十万円、最大で百万円にもなるのが、銀貨をポンポン出してたらあっという間に無くなるだろう。
「ひゅ〜! やっぱ稼いでるねぇ! 下級って嘘だろぉ〜」
「依頼を殆ど受けてないんだよ。趣味で海竜とか戦ったりしてた」
「化け物かぁ〜?」
門番に銀貨十二枚をさらっと渡す様子をからかわれながら、この後の予定を決める。
王都まではあと一週間ほど掛かる見込みだが、セデン達は装備が破損してるので少し足止めになる。
関係無い事だったら商人側が冒険者を解任して別のパーティをギルドから付けてもらえば良いが、今回はしっかりと仕事をして破損した装備の調達なので、それを理由に解任すると商人側の
当たり前だけど、仕事だから依頼人を守って装備も壊れたのに、それを理由に仕事を飛ばされたらやってられない。そんなの誰も依頼を受けなくなる。
そんな訳で、数日はここで足止めだ。俺としては早く王都に行って湖と神殿を利用したいが、逆にポロはテンションが上がってる。
なぜなら大きな都市には大きな宿があるから。しっかりとした部屋で声を我慢しなくて良いなら、ポロは最大限に夜を楽しめる。
なので楽しそうに鼻息をふんすふんすしてる。羊の獣人なのに肉食だ。
「じゃぁ一度解散で。前日には冒険者組合に連絡を入れとくから、一応毎朝確認しといてくれ。それとも、もう宿は決まってるか?」
「いや、始めてくる場所だから宿も知らないんだ。ギルドには顔を出しとくよ」
ばいばーいと手を振るムールに手を振り返し、俺とポロは宿屋探しに向かう。
「モノンから聞いた話しでは、この都市の周りには初心者から玄人までが幅広く狙える狩場が揃ってるんだとさ。だから様々な等級の冒険者が集い、冒険都市だなんて呼ばれてるとか」
「なら、上級が使うような、大きな宿もある」
「………………ポロさんや、そんなに夜が楽しみかい?」
「…………? 好きな人と、愛し合う。楽しみなの、当たり前」
ズキュンと来た。何の気なしに聞いたら火の玉ストレートが心臓に直撃した。
そっか、そうだよな。好きだから愛し合いたいんだよな。毎晩何回も求められるのは、それだけ俺の事を好きで居てくれるって事なのだ。
なんかそう思うとポロがいつもの三倍可愛く見えて来た。
「ポロは可愛いな」
「ん、今更。でも、カイトもかっこいい。世界一」
手を繋いで大通りを歩く。ポロと出会えて本当に良かった。ポセイドン様、ありがとうございます。
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