飯テロされる人達。



 魔法学校。不可思議な番線に存在する列車で行って箒に乗ったりフクロウが飛んだりするとこじゃなく、魔法と言う専門知識を得る為に馬車で通える学び舎。


 そこに入学出来るのは一定以上の財力を持つ者、もしくは一定以上の魔力さいのうを持つ者の中で、規定以下の年齢に限られる。


「今更だけど、ポロって魔力どんくらいあんの?」


「ん、結構多いはず」


 なので十七歳のポロは魔力があっても、今さら魔法学校には通えないんだそうな。


「困った。水鉄砲ライフルの強化、出来ない」


 ちょっとしょんぼりするポロの口に、アロと呼ばれてたアジっぽい魚のフライを突っ込む。


 むぐむぐしてからゴックンしたポロは、にぱっと笑って可愛かった。


「美味いか?」


「ん、おいしっ」


 王都までの道すがら、硬いパンとか干し肉とか酢キャベツとか一緒に齧るのはゴメンなので、俺達の食事は別にしてもらった。


 獣の死体を対価にほぼ無料の護衛をしてる以上は、食事まで面倒を見る筋合いが無い。


 夜。モノンが組んだ旅程がキッチリしてるお陰だろう、使い込まれた野営地に辿り着いた俺達はそれぞれ準備を始めた。


 狼に襲われてたタイムロスから暗くなってからの到着だが、良く使われる野営地なのか他にも人が居て火を貰ったりすれば準備も多少は楽になるみたいだ。


 明日の夜には大きな都市に辿り着くだろうと気が緩んでる面々を尻目に、俺はインベントリの暴力による豪華な食事を準備中。


「あの、カイトさん……」


「…………流石商人だな。行動が早い」


 俺の作業工程とかインベントリのチカラを見たモノンは、完成品が出来てから動くんじゃ遅いと理解して速攻で泣きを入れて来た。


 そりゃね、二人分だけ作り終わってから「うまそうだな」とか言われても対応出来ないよ。そりゃ可能性があるなら作ってる最中だ。


「俺は獣の死体を引き取る代わりに、する。実質的な追加の護衛要因だが、食事に関する取り決めは一切ない。そうだよな?」


「その通りです。なので、今から新しく別の依頼を追加する事は可能ですか?」


 そう、タダで飯の面倒を見てやる筋合いは無い。だから欲しけりゃ金を出せってね。


「最適解だなぁ。まぁポロは優しいからムールに分けてあげるだろうけど、俺は子供の目の前でも容赦無く食べるからな」


「お願いする立場で言う事じゃ無いですけど、その内刺されますよアナタ」


 まぁ野営地で干し肉齧ってるところに生鮮で作った料理を美味そうに食ってたら刃傷沙汰だよなぁ。


「それで、いくら出す?」


「逆に、どれくらい欲しいですか? こんな場所で新鮮な魚を使った料理なんて、ちょっと査定に自信が…………」


「んー、じゃぁ一人賎貨五枚で良いよ。その代わりお代わり無しで、主食はそっちで用意してくれ」


 カイシン食堂で出したフライは最低でも銅貨だったけど、このアロは普通の魚だし水揚げ量も多くて安かったのだ。サービスしてやろう。


 インベントリの活用法。作ったそばから入れちゃえば、量を作ってもみんな出来たてを一緒に食べれる。


 カセットコンロとクッカーでちまちまとフライを揚げてく。揚げてる内に次のアロを捌く。捌いたらパン粉を付けて揚げる。この繰り返しだ。


 パン粉は市販の「卵なしパン粉」である。卵液が無くてもフライを作れる神製品だ。だが卵液はあっても良いし、代替品でも良い。


 俺はアジじゃなかったアロの表面に薄らとマヨネーズを塗ってからパン粉をまぶして揚げる。


「…………カイト、はやくっ」


「おっと、俺のお姫様が限界らしい。可愛い可愛いポロちゃんや、もう少しだけ待ってくれるかい?」


「ちゅーしてくれたら、待つ」


 要望に応えてちゅっとしたら、ムールちゃんがきゃーきゃー言ってる。


 アプデによって細かく買えるようになった恩恵でキャベツを買い、千切りを作って盛り付ける。


 タルタルソースも自作して良いんだけど、今日は面倒なので市販品を使う。


「ほい、完成。ソースはお好みで使ってくれ」


 使い捨ての紙皿を六枚と、タルタルソースとウスターソースが入った小さなカップを配る。


 望郷の剣も、自分達の分もあるのかと喜んで皿を受け取ってる。モノンはちゃんと銅貨三枚払ったからね。


「おいしそー!」


「おいしそー、違う。これは確実に美味しい」 


 それはそう。アロあじをフライにして不味いわけが無い。フィッシュフライで確実にトップクラスの美味さやぞ。


「んじゃ、今宵の恵に感謝を」


 祈ってから皆で食べ始める。周囲に居る別のグループは歯ぎしりしながらこっちを見てるが、諦めてくれとしか言えない。


 食べてみると、やはり美味い。サクッ、カリッとした衣を歯が砕くと、その下にあるしっとりした白身が出迎えてくれる。


 味わいはアジよりも磯の香りが強い感じだろうか? でも滲み出る旨味は近しい物がある。ふむ、海藻の香り? もしかしてコイツ藻食性なのか?


 今度は千切りキャベツと一緒に頂く。するとザクッザクッとしたキャベツの食感と少しの青臭さがアロフライの油を引き立てる。


 二枚目はタルタルで行こうか、炊いといたご飯が進む進む。噛むとにゅるんって潰れて消える白身の食感がなんとも堪らない。


 ああビバ、フライ。アロフライ。


「かぁぁあ、これは酒が欲しくなるなぁ!」


「有るけど、出そうか? 一杯で銅貨一枚だけど」


「高くねぇ!?」


「高くねぇよ。値段相応の高品質だ」


 そも、低温管理の技術が無いなら絶対に作れないラガービールとか、冷静に考えて神の酒ぞ? 銅貨一枚でも安いわ。


 ◇


「ぐぅ、なんなんだよアレ……」


「クッソ腹減るわぁ」


「…………おい、ありゃ酒か? おいおい、なんだって野営地でエールなんて飲めんだよふざけやがって」


「くそっ、くそ、クソクソクソッ……!」


「料理中からして良い匂いさせやがってよォ……」


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