同行。



「ところで、あの死体はどうする? 処分するつもりなら貰っても良いか?」


「いや、待ってくれ。今は護衛の最中で、取得物の権利も雇い主にある契約なんだ」


 狼の死体が欲しくて交渉すると、セデンは馬車の方に駆け寄って行った。雇い主と交渉するつもりなのだろう。


 暫くすると、馬車の中から商人風の男と、その家族が現れた。


「お助け頂きありがとうございます。私はしがない商会を営んでおります、モノン・ポプラスと申します。コチラは妻のクォルカと、娘のムールです」


 商人は年若く、奥さんも若く、娘さんは幼かった。身なりは悪くないのに、なんで一家で行商みたいな事をしてるのか首を傾げるが、今は置いとく。


「ご丁寧にどうも。俺は下級冒険者のカイト・エスプワープ。こっちは妻のポポロップ・エスプワープ。ちなみに同い歳です」


「よろしく」


 少し振り向き、背中にしがみついてるポロを見せながら紹介する。同い歳と言ったところで冒険者たちから「えッ!?」て声がしたが無視する。


「それで、獣の死体が欲しいとか……?」


「えぇ。俺の持ってる加護に、特定条件で倒して食した生物を精霊化して使役するってのがあるんですけど……」


 一度消してたサーペントを再度呼び出し、目の前で見せる。


「この精霊、成長も可能なんですよね。だから倒した獲物は食べさせてあげたくて」


「しゅごぉ〜い……」


 娘のムールちゃんがサーペントを見てお目々がキラキラ。さっき凄い危なかったのに好奇心旺盛ね。でもサーペントってかなり凶悪な顔してるから可愛くは無いでしょ。


 俺はハモの顔を三倍怖くした後に殺人犯を混ぜ込んだような顔してるサーペントを下げて、小さいリヴァイを出して触らせてあげた。


 ぷえーっと鳴くリヴァイに「可愛いっ!」と飛び付くムールちゃん。それを見たポロはドヤ顔チャンスだと思ったのか俺の背中から降りて、自分もラギアス出してムールちゃんに見せてた。


「なるほど。凄まじいチカラですね……」


「まぁ加護なので」


 交渉の結果、向こうも襲撃で受けた損害を狼共の毛皮とかで補填したいが、助かったのに何も渡さないのは不誠実。と言うことで、条件付きで全て頂ける事に。


 ちなみにだが、テムテムを出てから今日までには全て精霊に食わせてる。最優先は海竜に育つチビドラだけど、スカーレットも結構デカくなるし、サーペントもまだまだ最大サイズには及ばないらしい。


 忘れてたけどサーペントってコイツ、倒した時の経験値が二十だから、小型の竜種であるスカーレットよりも格上なんだよね。コイツも竜種……?


 王都行ったらちょっと魔物について調べようかな。


「条件としましては、どうか王都までご一緒頂けませんかね?」


 要するに戦力の増強。俺は下級なので正式に報酬出せないので、獣の死体を引き渡して雇いたいって事か。交渉が上手い。


 俺達は王都に向かってる途中だし、同道するだけで良いなら実質タダで精霊の餌が手に入る。そして向こうは獣の死体で下級に有るまじき戦力を持ってる俺達を雇える。


 ウィンウィンって奴だな。


「了解、仕事を受けよう。ただし道中にこちらが処理した獲物に関しては相談の余地なくこっちが貰うし、そちらが仕留めた物もある程度譲って欲しい。流石に獣数頭では拘束時間が割に合わない」


「ありがとうございます。その条件で構いません」


「いやぁ、悪いな兄ちゃん。実は俺達、中級っても成り立てでさ……」


 なるほど、そういう事か。


「ちなみに、成り立てなのは知ってて雇われたんです?」


「ええ、もちろん。望郷の剣は自分たちから申告してくれましたよ」


 ふむ、信用出来そうな感じかな。お陰で今度こそ人助けが出来たとポロも上機嫌だ。




「あたし、ムール! よろしくねっ!」


「ポロは、ポポロップ。十七歳で、もう結婚もしてるお姉さん。ムールの事も守ってあげる」


 自転車を海神の七つ道具オーシャン・ギフトに戻して幌馬車に乗った。周辺にはスカーレット五匹、ソードキャット五匹が泳いで周囲を警戒してる。


 馬車の中は驚く事に積荷がほとんど無く、各員が食べる食糧とうまの為の水くらいしか乗ってない。


 馭者台の近くに座った俺は、幼女ムールと遊ぶ幼女よめを眺めながら、馬車を操るモノンに聞く。


「商人に見えたけど、なんで空荷なんだ? 仕入れに失敗した訳でも無いだろう?」


「ああ、その事ですか。いえね、実は今これ、行商じゃないんですよ」


 聞くと、ムールを王都の学校に入れる為に移動中なのだとか。


 この国、中世的な文明の癖に学校とかあるの? とか思ってたら魔法学校っていう場所らしい。へぇ、そんなんあるんや。


 どうやら識字率を上げると権力崩壊するから積極的にはやらないけど、魔法使いの数は国の質に直結するから教育するって国の方針らしい。


 流石に権力崩壊云々は庶民には伝えないけど、商人くらいの頭があれば察するくらいはできるとか。


「そうなんだよっ、ムールはがっこーいくの!」


「それは凄い。ポロは守りの法術しか使えない」


「えっ、ポポロップおねーちゃん、まほー使えるのッ!?」 


 またドヤ顔ポイントを見付けて結界を作り、ムールの尊敬を一身に浴びるポロ。行動がやっぱ幼女なんだよなぁ。


「そういやポロ、水の魔法を覚えたいんじゃなかったっけ? その場合はやっぱ魔法学校行った方が良いのか?」


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