良い事。
「た、助けて下さいっ!」
狼を蹴散らした後もマウンテンバイクを走らせ、大きなカーブをグイーンっと曲がると、草原の先に続く街道から一人の女性が走って来た。
そしてその後ろから、身なりの汚い武装した五人ほどの男が女性を追い掛けて走ってる。
「む、お助け?」
「状況はな」
俺は自転車を止めて状況を確認する。一つ二つと見るべき場所を見て、そして早々に結論を出す。
「助けてっ、追われてる──」
「るっせぇな近寄んなっ」
俺は駆け寄ってきた女に蹴りを入れてゴロツキの方に吹っ飛ばした。
突然の事に荷台に乗ってるポロがギョッとして声を出すが、一旦無視して追い掛けて来た男達に声を掛ける。
「そら、返してやるからどけ。見逃してやる」
「か、カイト、なにしてる……?」
困惑するポロを他所に、俺は正面を見る。男達も俺の行動が理解出来なくて戸惑っているが、すぐに気を取り直して喋り出す。
「なんでっ、助けてっ……!」
「へっへっへ、ひでぇ兄ちゃんも居たもんだなぁ」
「だが残念、見られたからには生かしちゃおけねぇのさ」
「あっそ、じゃぁ死ね」
俺はライフルを取り出して、発言したバカ二人の頭を弾く。せっかく見逃してやるって言ったのになぁ。
「カイト……?」
後ろからひたすらの困惑を感じる。後で説明するから、…………いや良いや。今教えとこう。
「ポロ、今から良い事教えてやる」
「な、なに?」
「その女をよく見てみろ」
仲間を殺されて俺に「テメェ」とか「許さねぇ」とか言ってるアホを無視して、女を指さす。
女の身なりはザ・町娘って感じの服装だが、服に葉っぱがくっ付いてて、靴は泥に汚れてる。いかにも逃げてきたって感じの見た目である。
「ポロ、良いか? 良く考えよろ。どうして街道を走って逃げて来た女の服に草が引っ付いてんだ?」
「………………えっ?」
俺の言葉に、ポロ以外の全員が一瞬動揺した。
「え、でも、逃げてて、草原の草むらに入ったんじゃ?」
「そ、そうよ! 草むらを逃げただけっ……!」
ポロの困惑に便乗した女が、ゴロツキに腕を掴まれながら藻掻くようにして叫ぶ。まるで答えを間違ったら見捨てられるかのように見え、迫真の演技と言えるかも知れない。
「そうだな。その可能性はある。じゃぁ次だ」
俺は男の一人に腕を掴まれてる女の足元を指を差す。
「なんで草むら通って逃げたヤツの靴が、あんなに綺麗なんだ?」
「………………えっ、綺麗?」
女の靴は泥に汚れてる。とても綺麗とは言い難いだろう。ああ、でも、多分アイツは本当に町娘なんだろうな。
「おい女。お前は知らないんだろうがな、本気で草むらの中を走ったら靴の汚れ方は泥汚れじゃ済まねぇんだよ。もっと足に引っ掛かって引き千切れた草の汁とか、葉っぱの欠片とか水分とかでグッシャグシャになんだよ」
そう、ゴロツキに追われてる本気で逃げてるはずの女が草むらを走ったなら、そんなちゃちな泥汚れで済むはずがない。
「そもそも、ただの町娘が複数のゴロツキに追われて逃げ切れるかよ。もっと言うと叫びながら逃げるだろうが。もっと遠くから声が聞こえないとおかしいっつの。……その白々しいくっせぇ演技止めろや、目障りだ」
俺が三つの問題点を口に出すと、弱々しい態度だった女の顔が急変した。
「チッ、カモだと思ったのに……」
「ッ……!?」
一番ショックを受けてるのはポロだった。まさか助ける気満々だったのに女がゴロツキの仲間だったとは思わないだろう。ポロは良い子だもんな。
「ズラか──」
「逃がさねぇよ。チビドラァ!」
俺は今や五十を超えたチビドラを全召喚して半球状に展開し、中の人間を全員閉じ込める。
このまま逃がして近くの町で、あることない事吹聴されたら面倒だ。なのでここで殺す。
「な、なんじゃこりゃぁあっ!?」
「化け物だっ、悪霊だぁぁあッ!」
騒ぐアホを一匹ずつ射殺する。水鉄砲は今日もご機嫌な火力である。
「そ、そんな…………」
最期に残った、いや最期に残した女にライフルを突き付ける。
「大方、さっきの
ポロに言い聞かせるように種明かしをする。俺が居ない間に人の悪いに食われないように、こう言う奴が居るってしっかり教えないと。
「ゴロツキに襲われる女を見たら、普通は即逃げするとしても女は連れてく。そうなったらアンタがコケて足を引っ張ったり、もしくはすぐに裏切ってナイフで刺したりすりゃぁ仕事は終わりだ。人の善意を踏み躙るクソみたいな考えだな」
青い顔で震えるゴミ女の額にゴリっと水鉄砲の銃口を押し付ける。
「人数と装備から見ると、どうせ本職じゃなくて小遣い稼ぎとかだろ? お前自身は近くにあるどっかの町で普通に暮らしてる女のはずだ」
「そ、そうよっ、私はただの町民よっ! だから殺す事なん──」
「──誰が喋って良いって許可したよ」
ムカついたので耳を吹っ飛ばした。汚らしい悲鳴を上げて転がるバカの腹を踏んずけて固定する。
「まっ、待ってよ! 何でもするから! 私のことを好きにして良いか────」
聞くに耐えなくて、その頭を吹き飛ばした。
「最高の嫁が居るから間に合ってんだよバーカ」
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