今更だけど。



 二度目の出発はカラッとしてた。


 別に送迎会とか無く、お見送りも家の前でガム爺とテム婆が行ってらっしゃいと言うだけ。


 でもそれが逆に、家族になれた気がして嬉しかった。


 テムテムの村を川とは反対の方向、つまり村に繋がってるか細い街道に向かって自転車を漕ぐ。念の為にここからはバハムート達は消してる。見られると説明が一々面倒だから。


 後ろにはポロが居て、別に必要も無いのに俺の背中にしがみついてすりすりしてくる。


 このポロがやるすりすりはなんなのか、気になって聞いてみたところ「思わずやってる。けど、意味を付けるとしたら匂い付け」と言われた。


 ふむ、マーキングされてたのか俺。


「ところでポロ、一つ良いか?」


「ん、どした? したくなった?」


「それは夜にな」


 もう一つ気になった俺は、ポロにとても今更だけど凄く大事な事を聞く。


「俺たちって結婚したじゃん? じゃぁ名前って、俺がカイト・エスプワープになったの? それともポロがポポロップ・カワノになったの?」


 聞いたら、後ろでポロがピシャーンと驚いてる気配がした。


「た、確かに。とても大事なこと」


「だろ?」


 人に名乗る時、結婚してるのに家名がバラバラだと変な邪推とか受けそうだし。


「カイト、どっちが良い?」


「俺はエスプワープに成りたいかな? カワノの名に未練とか微塵無いし」


 むしろ名前すらって気もあるくらいだ。


 俺の名前が「海人かいと」じゃなかったら、海の字が入ってなかったら、多分この世界に来て一番最初にした事は名前を捨てて新しく考えることだったと思う。


「じゃぁカイトは、カイト・エスプワープ?」


「ポロが絶対にカワノを名乗りたいって気持ちがあるなら考えるけど、特に無いならエスプワープに入れて欲しい」


 するとポロはんふふふふと笑い始め、カイト・エスプワープと何回も何回も呟き、きっとニヤニヤした顔になりながら俺の背中に特大のすりすりをする。


 そして最後に、何故かガブッと俺の背中の肉を思いっきり噛んだ。


「あ痛ぁいッ!? なんでぇッ!?」


 突然背中に走った激痛に気を取られてコケそうになる。神器化したマウンテンバイクはやはり速度が凄まじいので、今コケると大惨事だ。


「………………分からない。噛みたくなった」


「だからなんでぇッ!?」


 甘噛みなんて生易しいものじゃなかった。噛み千切られるかと思った。


 なに、女の子の事なんて良く知らないけど、好きな人のニクを噛み千切りたくなるものなのっ? 女の子こわっ!


「なんか、カイトが好き過ぎて、気持ちがぎゅーってなって、気が付いたら噛んでた」


「猛獣かッ!?」


 いや猛獣だってもう少し考えて噛むと思う。気が付いてたら噛んでたって中々ないと思うぞ。赤バスの刺身じゃあるまいし。


「でも、噛みたい。噛んじゃダメ? もっと噛みたい」


「どうしたのっ!? 突然の噛みグセ!?」


 どうしても、どうしても噛みたいと言うので、あまり痛くしない、噛み千切らないって約束で許可をする。


 嬉しそうに背中で俺の肉をあむあむと噛むポロ。シャツがポロの唾液でどんどん湿ってく。ちなみにジャケットを脱げと言われて脱いでる。少し寒い。


「………………美味しい?」


「ん。カイト美味しいはいほほいひい


 美味しいらしい。味がするとしたら多分それシャツの味だけど。


 それからポロはハマったのか、夜になるまでずっと俺の体の一部を口に咥えるようになった。耳とか指とか。


 テントを設営する時も珍しく手伝わずに俺にしがみつき、色々とあむあむしてるポロ。


 夕食の後など、テントの中でひたすら俺の指をあむあむちゅぱちゅぱと食べていた。


「…………カイト」


「ん、満足したか?」


 あぐらの上にポロを乗せ、空いた手で頭を撫でてると、指から口を離したポロに名前を呼ばれる。


 やっと飽きてくれたのかなと思えば、ポロは小さなお尻をグリグリと動かして、俺の俺を擦りながら、湿った吐息を漏らしながらチラッと振り向いた。


「ポロ、これも食べたくなった。…………ダメ?」


 …………………………え、齧らないよね? 大丈夫だよね?


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