鉄の馬。



「カイトしゅきぃ……」


 騒動のまた翌日、そろそろ旅に出るかと準備してるとポロに絡まれる。


 目の前の品を弄ってると抱きついて来て、頬や唇にちゅっちゅとキスをして、たまに俺の耳をハムハムちゅぱちゅぱと食べ始める。


 背筋がゾワゾワして淡い快感が走るので止めて欲しいとお願いすると、美味しいから嫌だと言われる。


 どうしてもお願いと言うと、じゃぁ自分の耳も食べてと言う。


 上等だこのやろうとふわふわのお耳をしゃぶったら、ポロは真っ赤になってぷるぷる耐えた後、五分ほどでギブアップして自室に逃げていった。


「…………で? 朝から孫との痴態を見せ付けられた老婆は、何を言えば良いのかねぇ?」


 居間だったのでテム婆に全部見られてた。


「仲が良いな、とでも」


「それで済むかい? あたしゃ目の前でおっぱじめるんじゃ無いかとヒヤヒヤしたよ」


「実際に始まったら大喜びで曾孫を見せろって言うくせに」


 反論すると爆笑しながら「違いないねぇ!」と膝を叩くテム婆。


「それで、カイトは何をいじってんだい?」


「王都に行くための足ですね」


 俺は今、乗り物をいじってる。生前、釣りの為に乗り回した愛車だ。


 と言っても自転車だけどね。マウンテンバイクとも言うけど。


「ほーん? そんなので乗れるのかい?」


「乗れるし、これでも馬より早いんですよ」


 流石に馬の全力疾走に勝てるかは分からないが、時間辺りの走行距離なら圧勝出来る。


 馬は常歩なみあし、つまり歩きで大体時速が6キロから8キロほど。早歩きくらいに当たる速歩はやあしで時速12キロ前後。


 ジョギングに相当する駈歩かけあしで時速20キロ前後。そして全力疾走かそれに準ずる物に当たる襲歩しゅうほは、馬の性能や品種によってバラバラだけど時速40キロから70キロほど。


 当然、馬は生きてるので走れば走るほど疲れる。疲れたら休むし度が過ぎると倒れる。速度的なスペックは走行距離とイコールにならないのだ。


 対して自転車である。最高速度を維持するには疲れて距離が伸びないのは馬と変わらないが、その代わり常歩や速歩くらいの気安さで駈歩くらいの速度が簡単に出せて、それを容易に維持出来る。


 一応マウンテンバイクは平均速度が時速25キロなので、殆ど疲れずに馬の駈歩より少し早く移動出来るのだ。


 それに最高速度も結構出る。思いっきり漕げばママチャリでも時速50キロくらいは出るし、舗装された道をロードバイクで走るならもっと出る。


 一応、自転車による最高速度のギネスで100キロを超える。どうやら走行距離で部門別の記録が有るらしくて詳しくは知らないが、112キロとか144キロとかって数字は見た事がある。


「…………でもカイト、あんた別にそんな鉄の馬みたいなもん使わなくても、海竜が居るだろう?」


「テム婆、ウチの子に乗ってみます?」


 テム婆の疑問は尤もなので、俺はバハムートにお願いしてテム婆を空の旅に送り出した。


「…………なるほど。少しなら良いけど、ずっとはケツが痛いね」


「でしょう?」


 そう、海竜は防御力が高い鱗があるので乗ってるとケツが痛い。立って乗れば気にならないが、移動中ずっと立ってるの嫌だし。


 海竜が一瞬で目的地に行けるくらい早ければ別に良いけど、実のところ海竜達はそんなに早く泳げない。


 いや早いんだけど、たぶん最高でも時速100キロ行くか行かないかくらいだった。それもずっと維持出来る訳じゃないので、だったらマウンテンバイクで良いやとなる。


 最近知ったのだが、精霊も疲れるみたいなのだ。思えばチビドラが俺をずっと乗せられない時点で予想出来た事だ。


「馬の背に鞍が必要な理由を思い出したよ。その子たちは精霊だから、大きくなったり小さくなったり、消えたり出たりで鞍を付けると具合が良くないんだね?」


「そうですね。毎回付け外すのは馬と変わらないんでしょうけど、大きさも変わる頻度を考えると多分、馬より手間かと」


 そんな訳で、俺は今このマウンテンバイクと格闘してるのだ。


「で、それは結局のところ何をしてるんだい?」


「ポロ用の座席作りですね。ほら、ポロは身長が……」


「…………あぁ、足が届かないんだね」


 そう、ポロはとても小さなレディなので、俺が自分用に買ったマウンテンバイクとか乗れないのだ。足が届かないから。


 気になって測ってみたんだけど、ポロの身長は139センチだった。ちっちゃぁい。


 まさかの140アンダーだとは思わなかった。マジで小さい。本当にロリっ子。今ではもうそれすら可愛いけど、俺は幼女趣味の誹りを免れないだろう。


「本人はいつか、バインバインになれると信じてるんだけどねぇ」


「現実はいつだって残酷なんですよ」


 というか今更大きくなられても。こっちはもうロリコンと罵られるの覚悟し終わってんだよ。小さいポロが可愛いんだよ。大きくなられたら戸惑っちゃうだろうが。


「よし、これで良いかな」


「見事なもんだねぇ」


 ぼっちだったので、自転車に後付けする後部座席とか買ったことの無い俺は、木とか色々削ってネジで締めたりして自作する他に無かった。


 船運ぶのに使ってたリアカーはあるんだけど、あれ付けると速度が出ないからなぁ。


 ちなみに神器化した自転車をあとから改造してる。どうやら改造しても神器は神器らしい。


 最後の枠を自転車に使って良いのか迷ったけど、チェーンの故障とかパンクとかを考え、更に神器化して性能が上がって速度も増える可能性を考えた結果、マウンテンバイクを神器化した。


 ボートのエンジンは速度上がってたし、もしかしたら神器化したマウンテンバイクも軽く漕いで時速50キロとか出るかもしれない。楽しみである。


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