目がイってる。
「決闘だ」
村に滞在して三日。世話になった子供達と遊んだり、ポロと一緒に害獣駆除に出掛けたりして時間を使ってる。
ちなみに、害獣駆除は色々と我慢出来なくなったポロが俺をお外に連れ出してそこで色々と遊ぶ為の口実だった。お外ですかぁ、ドキドキしますねぇ。
帰ったら匂いでそっこうバレた。テム婆さんからニヤニヤされた。いっそ殺せぇ……。
そんなこんな、そろそろ旅立とうかなと思いつつ、村の子供とチャンバラをして遊んでた時の事。
背後から重苦しい声が聞こえて振り返ると、そこには髪の毛がボッサボサになって目が血走り、正気とは思えない相貌をした男が居た。
余所者が牙羊族を狩りに来たのかと慌ててみれば、よく見ると見た事のある牙羊族だった。
俺が溺れたガム爺を助けて戻った時にメンチ切ってたアイツである。
実は俺、未だにコイツの名前を知らないんだよな。
「えと、なに? 決闘?」
「そうだ、決闘だ。受けろ」
俺は日本人なので決闘法が怖いが、まぁ異世界だから大丈夫だよな。意外とシャレにならない重罪で、下手すると現代で連座まがいに親族にまで影響がある刑罰なんだけど。
まぁ連座と言っても殺される訳じゃない。
「えと、何故? 俺にはアンタと決闘する理由が無いんだけど」
「俺にはあるっ!」
「いやだから俺には無いんだって。決闘ってお互いに譲れない物を賭けてやるんだろ?」
俺だってそのくらいは分かる。片方から強制するのは決闘とは呼ばない。それはただの暴力って言うのだ。
「ポポロップに、…………アイツに相応しい男は俺だ! お前じゃないっ!」
「………………………………あ?」
チャンバラで遊んでた子供達が見守る中で、俺も聞き捨てならない言葉を聞いて青筋が立つ。
「俺だ、俺だったんだ! あいつの隣に居るのは!」
うわ言のように、だけど大声で叫ぶので人が集まる。牙羊族の皆さんがなんだなんだと見物に集まる。
「決闘しろっ! ポポロップをかけて俺と! まさか逃げはしないよなぁ!?」
見れば、男はどっから持ち出したのか分からないけど剣を持ってた。刃がついた鉄の、真剣だ。
対して俺は、子供達とチャンバラで遊んでたから木の棒を持ってる。まさかこれで戦えとは言うまい。俺は木の棒を投げ捨てた。
「はっ! なんだ逃げるのか!」
「黙ってろ」
木の棒を捨てた事を逃げだと捉えた男が嘲りを見せるが、俺はもう譲れない一線を土足で何度も踏み越えて反復横跳びする男に容赦するつもりが無い。
現在、俺の神器枠は二つ空いてる。
エンジン付きボートで一つ。ロッド、リール、ラインのセットで一つ。結局ラインまで含めてセットで神器化したロッドは竜とかに使う用とした。そして
残り二つ、何を選ぶべきか。ずっと考えたけど今一つ決めた。
ショップはご存知、生前に俺が金を出して購入した経験のある物を経験値消費で購入出来る。
そして神器化は、俺が生前使ってた道具を選んで神器化出来る。つまり、条件さえ合えば購入経験が無いアイテムも選べるのだ。
使ってた、とはどこからが定義なのか。常用してたら? 所有してたら?
その答えは、『一度でも所有権を持っていた場合』をもって『使ってた』と見なされる。
「来い、
父方の祖父が持っていた居合刀。居合の練習をする模造刀では無く、本当に藁束を斬ったりする居合の演武に使う真剣の方。
俺が十歳を迎える前に父方の祖父母はどちらも亡くなったが、祖父は亡くなる前に俺を居合沼にハメたかった。
祖父は居合の達人で、田舎の道場には祖父を目当てに人が集まって演武を披露するくらいにはちょっと有名な人だったらしい。
その頃から釣り沼にハマってた俺だけど、どうにかして俺に居合をさせたい祖父は、誕生日プレゼントになんとマジの日本刀を持って来た事がある。書類付きで。
もちろん危ないし管理出来ないと母親が突き返したが、確かにあれは一度、俺の物になってた。
神器化して召喚する事で、手に懐かしい感触が生まれる。サイズが打刀くらいの比較的短い刀だが、子供にほぼフルサイズの刀を持って来た祖父は頭おかしい。
まぁ子供用の日本刀なんてこの世には存在しないから当たり前なんだけども。
「…………なっ、なんだそれはっ」
真っ黒い拵えの刀を見て、まだ鞘から抜いても無いのにビビり始める男に笑う。
「刀匠、
意外と祖父が嬉しそうに語ってた刀匠の名前も覚えてるもんだ。風の噂で、祖父が亡き後に行方不明になったらしいけど藤乃さん元気かな?
「テメェ、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって。ポロを賭けろだァ?」
シュラっと刀を抜いて、鞘を近くに居た子供に渡す。
ぶっちゃけ当時は鞘から抜きもせずに返したので初めて刀身を見たが、祖父が自信満々に持って来ただけあって綺麗な刀だった。
これは藤乃哲郎さんの技術力なのか、それとも神器化した影響なのか。とにかく、素人が扱っても折れないはずなのでそこは安心する。
「人の嫁を物扱いしやがって。…………そんなに言うなら賭けてやるよ。ポロじゃなくて俺の命をな」
そんなに欲しいなら、俺が居なくなった後に勝手に口説け。
「お前も同じ物を賭けて貰うぞ。まさか逃げねぇよな? 惚れた女の為にテメェの命も張れねぇとは言わさねぇぞ」
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