契約満了。



 港町エントリーでの一ヶ月を終えた俺達は、目標よりも遙かに多くの路銀を確保して、空き地の契約期間を満了した。


 常連客からも、雇った主婦の二人からも、そして土地を上手く使ってくれて嬉しい商業ギルドからも惜しまれつつ、カイシン食堂は堂々の閉店。


 いやぁ、本当に惜しまれた。常連客なんて圧が凄かった。


 お前らの店が無くなったら、俺達はどこでビールを飲めば良いんだっ!?


 ポンシュ、ポンシュが無いともう、生きていけない……!


 そんな声が半分もあったことに「お前ら酒抜けよ」としか言えなかったぞ。


 港町エントリーでのリザルト。黒貨百八十枚、端数切り。


 総取得経験値、14082ポイント。


 稼いだわぁ。すげー稼いだわぁ。お金も経験値も海竜のお陰で爆上がりだわぁ。


 まず海竜肉の買取りは銀貨四十五枚だった。竜の討伐依頼と考えるとクソ安いらしいが、買い取られた肉の総量から考えると割高って言う微妙なライン。


 だけど、俺が使わない海竜の皮とか爪とか骨とか内臓とか、使わない部分を全部売り払ったら黒貨が百枚近く貰えた。


 本来は最上級クラスの冒険者がやる仕事らしく、これが最上級の稼ぎかと思うとニマニマする。


 経験値の方も海竜一匹で七千くらいあったので、やっぱレベルアップに困ったらドラゴン乱獲とかそう言うインフレに行き着くんだなって知った。


「じゃぁこれお願いします」


「はい、受け付けました」


 そしてエントリーでやるべき事をほぼ全て終わらせた俺達は、じゃぁさっさと街を出るのかと言えばそうでも無い。


 なぜなら冒険者資格とは、一定期間も依頼を受けないと剥奪されるらしと知ったので、依頼を受けてデータを更新しないといけない。エントリーでやる最後の仕事だな。


 等級次第でその期間が変わるそうだけど、下級だと一ヶ月だとか。そも、下級に一ヶ月も時間のかかる依頼は来ないから、これでダメならやる気がないんだろって事になるとか


 ギルドの券売機お姉さんに依頼の受け方を聞くと、依頼を斡旋してくれるカウンターに案内された。そこで冒険者の実力にあった仕事をピックアップしてもらえて、受けるなら受け付けの人が書類を処理してくれる形になる。


 俺達は竜を倒しはしたが、記録の上では下級の冒険者であり、受けられる仕事なんてたかが知れてる。ドラゴンスレイヤーの下級冒険者なのだ。


「受けられるのは、納品依頼か」


 中級以上の依頼には赤髭の納品とかもあるそうだけど、本来あれは下級に倒せるモンスターじゃないらしい。なので俺達は、海辺で見付けられるザコモンスターを退治しないといけない。


「………あ、花鼠の納品ある。カイト、確か持ってたはず」


 お姉さんにズラっと並べられたオススメから、ポロが一枚の依頼書を取り出す。パピルス的な紙に書かれたそれは、花鼠とやらを納品して欲しいと言うものだ。


「あ? 俺こんなの持ってる?」


「カイトが、アナグマってよんでた」


 あ、こいつか! 分かったすぐ納品するわ。


 依頼を受けて、ギルドから出て裏手に行く。解体された川とか牙ならカウンターでも受け付けてくれるけど、死体を丸のままだと小さい獲物でも裏手の解体カウンターに行かねばならない。


「仕事終わっちったな」


「早く終わる、良い事」


 解体場にてアナグマを納品。ぷえーっと鳴いて周囲を泳いでる海竜の頭をこしこしと撫でながらギルド、解体場、ギルドとピストンして仕事を速攻で終える俺達。


 アナグマを納品して代わりに受け取った木札とギルドタグを一緒にカウンターに乗せて、書類に満了のハンコを貰えばお仕事終わりだ。


 今更ながらギルドタグは真鍮の鉄板を楕円に伸ばした物になり、中級が銀、上級が金、最上級が黒貨に使われてる黒い金属になる。


 黒貨に使われてるのは特殊な合金で、黒竜と言うモンスターの鱗と何かしらの金属を混ぜて作るアダマンタイト的なものらしい。


 名前は竜鋼だったか。これで武器とか作れると超凄い冒険者のステータスだそうだ。興味無いけど。


 いや竜鋼で釣竿作ったら強いかな? スプリングロッドは正直ちょっと気になってんだよな。海神ポセイドン様から神器の付け替え権を二つ貰ってるから、もし今使ってるシーバスロッドより強いなら考えるかもしれない。


 スプリングロッドって言うのは、文字通りに金属のバネを釣り竿に仕立てたものである。バネのしなりと弾性を利用してて、短く小さいのに大物用くらいの使いでがあるらしいんだ。


 それをヤバい金属で少し大きめに作ったら凄いんじゃないか?


「ふむ、釣具を作る為に冒険するのはアリかもしれない」


 モンスターを倒して俺つえー、みんなにチヤホヤされてワッショーイ、みたいな異世界生活に興味は無いが、そのモンスターを倒すことで素晴らしい釣具が作れると言うなら話が変わる。


 ふむ、良いな。どうせなら鈎とかも、その竜鋼とやらで作りたい。海竜を釣った時の鈎はあれ伸びかけてたんだよな。もう一時間も粘られてた外れバレてたかも。


 あとサルカンとか、重りとかも。とにかく竜種に負けない釣具が欲しい。もしかしたら竜だけじゃなくてクラーケン的なモンスターを釣るかもしれないし、無いよりはあった方が良いな。


「……よし決めた。ポロ、俺達の旅は最高の釣具を揃えつつ、釣りを全力で楽しむことだ」


「ん、わかた。今度はポロも、竜を釣る」


 そう来なくっちゃ。ここで危ないとか無茶はダメとか言わず、一緒にバカな事を全力で一緒にやってくれる嫁のなんとありがたい事か。


 日本のオスたちよ見てるか? これがガンプラ勝手に捨てるどころか、一緒になって遊んでくれるタイプの嫁だぞ!


「ところでカイト、結局どうするの?」


「ん、何が?」


 仕事もすぐ終わってしまったので、ギルドの酒場で二人一緒に昼飯を食べてる最中、ポロが主語のない質問をしてきた。


「目的地。結局、王都に行くか、迷宮都市に行くか、決めてない」


 ああ、そういやそうだった。


 悩むんだよな。俺も一ヶ月で色々と調べたんだけど、どっちも捨て難いのだ。


 と言うのも、王都は近くに綺麗な湖が有るらしいんだ。そんなん釣りしたいじゃん。


 そして迷宮都市、ここはダンジョンの中でダンジョンでしか存在しない魚が居るとか。そんなん釣りしたいじゃん。


 要するにどっちも行きたい。


「カイト、悩んでる?」


「そりゃなぁ、俺の存在意義みたいなものだし」


 構成成分が釣り一色な俺にとって、釣り場選びはとても大事なのだ。仮に王都は湖が無かったとする。そしたら例え王様に呼ばれてても俺は迷宮都市に行っただろう。王様より釣りの方が大事だもん。


「ふふ、カイトはバカ」


「ん、なんだと」


「悩んでるなら、どっちも行けば良い。ポロは、ずっとついて行く」


 きゅっと抱き着いて肩に頭を乗せるポロが、凄く愛しい事を言い始めた。


「先に行く方を、選べば良い。行かなかった方は、後で行く」


 周囲からリア充爆発しろって視線を貰う中で、俺はポロの頭をすりすりと撫でる。なんて出来た嫁なんだ。


「…………よし分かった。ありがとうな、ポロ。決心がついた」


 今回は王都に行こう。


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