ご奉納。



 この世の全ての加護は主神がたもうた奇跡なり。何人も感謝を忘れてはならぬ。


 信じ、敬えば救われん。海竜の肉は主神に捧げよ。罰が当たるから。


 当たるってば。バチが。ばちがぁ!


 とガチャガチャ煩いベネリをガン無視してヘレンと一緒にギルドを出る。しつこく後をつけてこようとするからチビドラでギルドの入口を塞いでやった。


「あの、良かったのですか?」


「別に良いよ。全ての加護は主神がどうとかって、確実に嘘だし」


 だって俺は直接スキルを貰ったもん。スキルの名前だって全部に海神って付いてるのに、今更主神がどうとかって有り得ないだろ。


 ポロを抱っこしてヘレンについて行く。黒貨の袋が重そうだから持とうかって聞くと、ありがたい重さなので大丈夫だと。


「…………その、カイト様は海神うみがみ様に加護を?」


「うん。多分デュープさんじゃ無いけどね」


「……海の神は、一柱では無いのですか?」


 ややこしい話である。が、信仰の問題なので嘘は付けない。


「そも、そのデュープさんも本当にデュープって名前か分からないよ? もし他の大陸で海の神様がアルレイヤとかベンポロロンとか別の名前だったとしても、集まる信仰はその仮称デュープさんのところに行くんだ」


「………………き、聞いた事のない話ですね」


「だろね。俺も名前の通りの神が別々に居ると思ってたもん」


 しれっと爆弾発言をする俺に、ヘレンがぎょっとして距離をとる。すわ敵対かと思えば、跪こうとしてるので慌てて止めた。


「で、でも、使徒様では……?」


「違うちがーう。少なくともデュープさんの使徒じゃない」


 面倒だが、神の子みたいな扱いを受けるのも嫌なのでしっかりと説明する。海神様から貰った知識には、ほんの少しだけその手の情報があるのだ。


「そうだな。例えばだけど、夜に見える沢山の星があるよね?」


「は、はい……」


「その星一つ一つにもし、海があったらどうする?」


「…………ほ、星に海、でございますか?」


「そう。その星の海を管理してるのは、デュープさんだと思う?」


 これはそう言う話。ヘレンも分かったみたいで、答え合わせのように口を開く。


「では、カイト様の崇める海の神は、こことは別の海を司る方なのでしょうか?」


「その通り。俺の崇める海の神様は、ネプチューンとかポセイドンって名前で呼ばれてたよ。俺は海神かいしん様って呼んでるけど」


「その方に、加護を?‪」


「そうそう。実はその方の司る海で死んじゃってさ」


 突飛な話に、腕の中でスリスリしてたポロもギョッとする。


「か、カイト、死んだ……?」


「そ、死んだ。その死に方が余りにも哀れだったから、助けて貰ったんだよね。その時に加護を頂いて、こっちの海に来させて頂いたんだ。ポロと出会った砂浜あるだろ? あそこが俺の降り立った場所なんだよ」


「…………ほ、本当に聖地だった?」


 俺は吹き出した。ポロはあの場所を聖地って言ったけど、思えば確かにマジで聖地なのかもしれない。


「で、この世界に飛ばしたからにはデュープさんと海神様も接点くらいはあるのかなって。だから海神様に感謝の海竜肉を奉納するんだけど、デュープさんを奉る教会だし、一緒にどうぞって感じ」


「なるほど……」


 信じられない話だろうし、場合によっては異端審問とか受けるかも知れない。でも俺は実際に海神の加護を三つも持ってるので、調べれば一定の信憑性が出てくるはずだ。


 そんなこんな、随分と寂れた教会に辿り着いた。


 多分この寂れ方も、アルマ教会のせいなんだろうな。明らかに邪魔してやるって感じがしてたし。


 俺は誰に聞くことなく教会の一番奥まで行き、他の信徒や聖職者が何かをしてる様子を全部無視してインベントリから海竜の肉を取り出し、厳かな雰囲気のある神の像が立つ場所の前に箱ごと置く。


 そして片膝を付き、両手を胸の前で組んで祈る。気が付くと、ポロも隣で祈ってた。




「良く来たな」


 そこはいつか見た、白い空間だった。


 そしていつかと違って、俺は最初から体がはっきりしている。そして目の前には巨大な二人の、いや二柱の神が居る。5メートルくらいある。


 更に何故か、俺の隣にはポロが居た。


 ポロさんなんでぇぇえ!?


「うむ、うむ。良き信徒である。羨ましいほどにな」


「そうだろう? まさか半年どころか一ヶ月と少しで海竜の肉など捧げてくるとは、敬虔である」


 目の前で会話をするのは、俺を助けて転生させてくれた海の神様、この際ポセイドンとしよう。隣に居るのも海神様だろうからややこしくなる。


「あの、お久しぶりですポセイドン様。それと、お隣はデュープ様でしょうか?」


「うむ、異界の海人うみびとよ。我がデュープである。アルレイヤでもベンポロロンでも無いが、確かに数ある名のひとつがデュープであるぞ」


 さっきの会話が全部モロバレしてるのちょっと笑う。


「大変失礼しました。分かりやすく説明するには、自分だとああする他なく」


「なに、怒ってなどおらぬ。こうして新しき信徒も生まれ、我が怒りが生まれる理由などなかろうよ」


 隣をチラッと見ると、ポロは信じられないくらいキラッキラのお目々で二柱の神を見ていた。


「良い、名乗れ」


「…………牙羊族が族長、ガムラン・エスプワープが孫。ポポロップ・エスプワープ。ごそんざん? おがみたてがみまつり?」


「ご尊顔そんがんな。あとおがたてまつりって言いたいのか?」


 拝みたてがみ祭りってなんだよ。


 くつくつと笑うデュープさんが手を伸ばすと、ポロがふわぁっと浮いて彼の神の元まで引き寄せられた。そしてデュープさんは巨大過ぎる手で優しくポロの頭を撫でる。


「無理に言葉を使わなくて良い。心根など、神の前では全てがつまびらかとなる」


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