間に合ってる。



 この港町には、教会が二つあるらしい。


 一つはこの国の国教であるアルマ教会。主神アルマを崇める方々の集まりだそうだ。


 もう一つはデュープ教会。国教では無いものの、海の神をたてまつる教会なので港町とかには大体あると聞いた。


 なんでそんな事を思い出したかと言うと、丁度目の前に趣きの異なる法衣を着た方々がいらっしゃったから。


 解体場を後にした俺は、ギルドの酒場で待ってるポロを拾って目的地に行こうとしたが、そこでポロがその法衣を着てる人に捕まってたのだ。


 捕まってる、と言っても法的にとかじゃない。単に話しかけられてるって事で。


「ポロ、どうした?」


「あ、カイト」


「おおぉ、あなたが竜を屠った無撃必殺様ですかっ!」


 あいたたた、その呼び名止めてくれねぇかな。


 俺は出鼻を挫かれた気持ちで声の主に向き直る。


「えーと、あんたは?」


はアルマ教会エントリー支部を任せれております、大司教のベネリと申します」


 真っ先に答えた男はパッと見で四十後半か五十代の、ほんの少しだけぽっちゃりとした宗教家だった。


 煌めく長い金髪をファサァと流すそいつは、白に金の刺繍がされたお高そうな法衣を来てらっしゃる。


「で、そっちは?」


「はい。わたくしはデュープ教会の司祭、ヘレンと申します」


 持つ一人居た人は女性で、三十代くらいだろうか。こちらも金髪で、髪型はポロに似てウェーブしたロングヘアだった。


 着ている法衣はベネリと違って薄水色がベースに白い刺繍で、清貧なイメージを受ける。


「ふむ、ちょうど良かった。海竜の肉を奉納しに行くとこだったんだよ。手間が省けた」


「おぉぉおお、なんと敬虔な! 主は喜んでおられますぞ!」


 俺が要件を先に伝えると、何故だかベネリが喜び始めた。とでも思ってる様子で、少し滑稽だった。


「そちらの要件は?」


「わたくしは────」


「私は無撃必殺様のお話を聞きまして、是非に主の祝福をと思いまして」


 ヘレンの発言をわざと遮るようにベネリが大声で主張する。なるほど、祝福ね。間に合ってんだよなぁ。


「ヘレンさんは?」


「…………カイト様が敬虔な方と聞きまして、どうかご寄付を願えればと」


「なぁんと! 浅ましくも竜殺しを成した英雄に金の無心ですかなぁ!?」


 うん、大体分かった。


 煩く捲し立てるベネリの横から、俺はボートを売って得た金の一部を袋に詰めて差し出した。


「はい、寄付。黒貨十枚くらい入ってる」


「…………なぁッ!?」


「よ、よろしいのですかっ……?」


 ベネリが仰天し、ヘレンは震える手で袋に手を伸ばす。


 それを横からベネリが「いやいや、捧げられるべきは主の──」とか言って伸ばしてくる手を叩き落として再度突き出す。


「海竜の肉もすぐに持ってくから、予定が空いてるならすぐに行こう。デュープ教会の予定は空いてる?」


「…………えっ、あの、捧げ物はっ」


「もちろん、海の神に捧げるんだよ。俺が崇める海の神はそのデュープさんじゃないけど、多分俺の崇めてる方と知り合いだと思うからついでにどうぞ」


「な、なぁにを言ってるのですかアナタはぁ!?」


 横でベネリが騒ぎ立てる。うるせぇなコイツ。俺の推しは海神様なんだよ。アルマなんて名前の神知るか。


「悪いが、アルマとかいう神の祝福は間に合ってる。俺の持ってる加護は海の神様から頂いた物だし、今更二君を戴くつもりも無い」


「な、なななななぁ!? ばっ、罰当たりなぁ!?」


「チカラをくれた神様に感謝してバチが当たるわけねぇだろ。何言ってんだお前? それともなに、アンタの祈る神はそんな訳わかん事でキレる訳分からん神なの? こわっ、近寄らんとこ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る