無撃必殺。
トラブルが起きた。
昨日、俺が突然の遭遇からそのままバトルを始め、そして最後には釣り上げて討伐しちゃった海竜。
これは結構な偉業であり、領主からもお肉食べたいと依頼があった大仕事。
ここで問題なのは、領主がお肉食べたいと言って冒険者ギルド、漁協ギルドの双方に同じ依頼を出てたこと。
………………ではなく。
俺が冒険者ギルドに登録し、漁業権も買ってる身でありながら、どちらの依頼も受けずに単独で海竜を手に入れたこと。
要するに、どっちの手柄? って事でトラブってるのだ。
始末に負えないのは、問題になってる俺に判断を委ねて責任を取らせようとする姿勢が見えたこと。
静かにブチ切れた俺は、「そもそも依頼外で取ってきた獲物だから納品する気ないぞ」と言って海竜をインベントリにしまった。
すると冒険者ギルドも漁業ギルドも大慌て。まさか個人で海竜を収納出来る加護を持ってるとは思わなかったらしい。
このまま街から出られたら大問題だと、手のひらを返して俺に擦り寄ってきた。
なので「領主が食べる分だけ、高値をつけた方に売っても良い。買う方が決まったら知らせてくれ」と言って放置してきた。
なので今頃、冒険者ギルドと漁業ギルドのトップが顔を突合せて会議してるはずだ。
「さてポロ。この海竜の肉を真っ先に食べるべきは誰だろう?」
「…………ポロ?」
「そこで最初に自分の名前が出て来るお前が大好きだよ」
「ッッ!? ま、まって欲しい。突然そう、デレると困る」
俺のプロポーズが刺さったポロはあれから暫くずっと顔を赤くしてニヤニヤしてた。そして観衆の元でキスしたから野次も凄かった。
俺もポロに対する好意を確信出来たので、もう我慢も遠慮もしない事にした。夜も自分から楽しむつもりだし、子供が出来たら大手を振ってテムテムに帰ろうと思う。
「でも、ポロ違う? じゃぁカイト?」
「最愛の嫁を差し置いて自分だけ食うつもりは無いよ。当たり前だろ?」
「……ッッ! だ、だからぁ!」
俺が攻性に出るのが余程予想外だったらしく、こう言う言動をするとポロはニマニマしてへにょへにょになる。
「んー、領主?」
「一応は『様』を付けような、相手貴族だし。でも違う」
ポロは「じゃぁ誰? ……お爺様と、お祖母様?」と悩んでしまう。
「決まってるだろ、ポロ。俺とポロを合わせてくれた海の神様だよ」
冒険者ギルドと漁協ギルドが話し合った結果、互いに買い取り金を折半する事で手柄も半分にしようねって仲良しな結果になったそうだ。
そんな訳で取引に合意出来たので、冒険者ギルドの横の小道を行って裏に回ると存在する、ギルドの解体場に海竜を預けた。
ズドーンと出て来た海竜に解体場は大盛り上がり。どうやら解体は場所の提供を冒険者ギルドが受け負う代わりに、解体の人員は漁業ギルドが多く出す事になってるそうだ。
「おう無撃必殺! 随分と綺麗に仕留めたんだな。その二つ名に誤りは無しって訳かい?」
「………………待って? なにその痛々しい呼び名。もしかして俺の事?」
「おうよ!」
どうやら、俺の釣りを一部始終見てたらしいオッサンからバトルの様子が伝わり、どれだけ攻撃されようと一切の反撃をしなかった為に『無撃』の名が生まれたらしい。
そして港で海竜に一撃でトドメを指した所で野次馬達が俺の事を『必殺』と呼び始めた。
その二つが互いに行き交って行き交って、最後は混ざって『無撃必殺』となったそうな。
あいたたたたたたぁぁぁあっ!? 痛っ、痛ぁいッ……!?
海竜との死闘よりもダメージでかぁい!
なにその中学二年生を思わせるネーミング! 俺は高校二年生なのですがぁ!?
くそっ、異世界に来て黒歴史が増えようとは。
「まぁ良いや。いや良くないけど、どうせ払拭出来ないんだろうしもう良いや。それよりおっちゃん、領主様に売り払う分よりも先に、一人前くらいすぐ戻してくんね?」
「おう! やっぱ仕留めた本人とあっちゃ、誰よりも先に食いてぇよな!」
「いや、まぁ食いたいけど違うんだよ。先に食って欲しい人が居るのさ」
「お、噂の小さな嫁さんかい?」
「嫁とは一緒に食うから良いんだよ。……それより、嫁と出会わせてくれた神様にね。ちょっと捧げ物をしたいのさ」
「………おうおうおう! そりゃ随分と敬虔なこったな」
ドワーフみたいなオッチャンに言って、速攻で海竜のテール肉を戻してもらった。竜の肉で一番美味いと言われてる部位である。領主が欲しがってるのここで、出来れば全部欲しいと言ってるそうだ。
悪いが最大でも三分の一しかやらん。俺とポロで残りを半分こするからな。
そして、領主には悪いが一番目もくれてやらん。こんなに楽しい釣りが出来たのも、ポロに出会えたもの、全部あの方のお陰なのだ。
捧げ物に相応しい品が手に入ったなら、お礼の一つくらいはするべきだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます