成竜。
「………………んぉ?」
カイシン食堂も順調に売上を伸ばし、その合間に釣りを楽しみながらの仕入れ時間。
チビドラの唐揚げを値上げした結果順調に在庫を増やすことに成功し、お陰でチビドラ釣りに精を出さずとも済むようになった昼下がり。
俺とポロは別のボートで少し距離も開けて、お互いに好きなように釣りを楽しんでる時の事だった。
ふと、声がした気がして周囲を見渡す。
海は少し風と波が出てるが、エントリー周辺の海は比較的穏やかな海流らしくて、流される心配も少ないので結構沖に出てしまってる。
そんな所で更に沖を見ると、1キロ以上遠くからこっちに向かってフルスロットルにボートを走らせるボスっぽい人、オッサンが居た。
何やら叫んでる様子で、耳を済ませると「にげろ」と言ってるようだ。
はて、逃げろ? 何から?
そう首を傾げた瞬間、ボートがズンっと沈む感覚を覚えた。
この感覚は知ってる。クジラにボートをぶっ飛ばされる時の────
「ポロ逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおッッッ!」
ドゴンッ。
俺のボートが真下からなにかにぶち上げられ、上空に吹っ飛ぶ。
流石に前回はここまで酷くはなかったが、二回目と言うだけあって冷静で居られる。
吹っ飛ばされる最中に真下を見れば、ああなるほどと納得した。
シルエットに面影はほぼ無いが、顔付きと鱗にだけ面影を残したチビドラの先、海竜の成体が波間の下にぼんやりと見えた。
何をどうしたらチビドラがその姿になるのか。それは某狩りゲーに出て来る電撃を操る海竜にそっくりだった。
テムテムで少し実験したが、神器のボートはやはり転覆はしない。ボートの縁に立ってジャンプしてみてもひっくり返る事は無かった。
だがこの場合はどうだろうか? 一度空にかち上げられ、真っ逆さまにひっくり返っても不思議パワーで転覆せずにいられる物なのか?
流石にそこまでは実験もしてない。俺はチャレンジする事なく可能性を捨てる。
そも、転覆しなかったとして、そのボートの上に着地出来るか否かは別問題であり、そして着地出来たとして俺が無事で居られる保証も無いのだ。
少し遠くに居たポロに逃走を指示し、俺は自分のボートに乗せてた道具類のほぼ全てをインベントリに仕舞い、そしてボートも七つ道具に回収する。
「チビドラァ!」
あとは落ちるだけとなった俺だが、身一つで落ちて無事なわけが無く、無事だったとしても海竜が居る海域に落ちたくないのでスキルを使う。
「わざわざ俺と遊びに来てくれたのかい!? だったら応えてやらねぇとなぁ!」
俺は神器のシーバスロッドを召喚し、リールを外して別の物に取り替える。
マグロを相手にしても戦える大型のスピニングリールをシーバスロッドに装着して、チビドラの上で素早くラインを
そしてラインの先に実用性すら疑ってしまいそうになる極太の鈎をガッチリと結び、水面からコチラに向かって大口を開けて俺を待ってる海竜の口に鈎をキャストする。
「フィィィイイイイッシュッッッ……!」
口に異物が入った事で口を閉じた海竜を見て、すぐさま竿を立てて思いっきりフッキングした。これで俺とお前は繋がった。
あとは、俺とお前の戦いだ。
「カイトッ……!?」
「ポロ、オッサンと一緒に離れてろッ! ここからは俺とコイツの闘争だッ! 絶対に邪魔すんじゃねぇぞ!」
心配で近くに来ただろうポロに対して、殆ど怒鳴るように叫ぶ。
釣りだ。釣りなんだ。釣りだけは邪魔しないでくれ。
俺には釣りしか無いんだから。
「しゃおらぁぁあッ! やったんぜゴルァア!」
気張れよタイワ製サルチガ8000! 中古で二十万したけど定価四十万超えリールのチカラを俺に見せてくれ!
大型のチビドラは3メートル級の奴よりも安定して飛べるらしく、俺は空を泳ぎながら海面でバタつく海竜と一騎打ちをする。
何が起きてるのか理解出来なかった海竜だが、やがて俺が犯人だと理解して魔法らしきチカラをぶっぱなしてくる。
「赤バス迎撃ッ!」
現在俺が呼べるだけの赤バスを全て召喚してブレスによる迎撃を試みる。でもやるのは迎撃まで。本体に当てることは絶対にしない。
赤バス達も俺の意を汲んでその通りにしてくれる。ありがたい事だぜ。見てろよ、今からお前らの主人がこのクソでかい獲物を釣り上げる勇姿を見せてやる。
「走れチビドラッ!」
今度はブレスで俺をぶち抜こうとする海竜を牽制する。チビドラを走らせてロッドを引き、首を真後ろに引っ張り倒す。
ブレスの発射は完全に邪魔をする。吐かれるとラインが切れる。
失敗した。切れないラインは釣りじゃないと神器に登録しなかったが、今は反省してる。
釣りの最中にリールは早々壊れない。海竜なんて相手が居るならリールじゃなくてラインを神器化するべきだった。
「こんど海神様に会うことがあれば、神器の交換をお願いしてみようかねぇっ」
チビドラを走らせて海竜の背後を陣取り続ける。正面に居たらブレスを吐かれて糸が切れてしまうから。
その代わり魔法はバンバン使わせる。ラインに当たらないように気をつけながら、俺に当たりそうな物だけを赤バスに狙わせる。
赤バスと海竜は竜としての格が違うのか、魔法一発に対して赤バス十匹くらいのブレスが必要になる。だが今この場には百に届かずとも五十を超える赤バスが居る。
それに乗ってないチビドラも盾として使える。ちょっとやそっとじゃ当たらないぞ。
「おら魔法使えよ! 魔力と体力は繋がってるから、撃てば撃つほど弱るんだろっ!?」
3メートル級より大きいとは言え、5メートル級のチビドラもずっと俺の事を乗せてはられないだろう。まぁその時は別のチビドラに乗り移って延長すれば良い。
「走らせねぇよ!」
バッシャンバッシャンと海面で暴れる海竜が潜ろうとする。チビドラの位置を調節して海竜の首を引っ張って徹底的に妨害する。
暴れるだけだった海竜がとうとう泳ぎ出した事でリールのドラグが悲鳴を上げるが、チビドラに海竜を追わせてラインの排出を何とか抑える。
「さぁ海竜、まだ遊ぼうぜ!」
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