肝っ玉母ちゃん。



「アンタが雇い主のカイトくんだね。あたしゃエーリン、ヨロシクね」


「私はハムドよ。今日からお願いしますね」


 翌日、朝から空き地で仕込みを続けて、お昼頃。


 インベントリに完成品を突っ込んでおけば少しは楽になるんじゃねって気が付いた俺が次々と料理を作ってはインベントリにスタックしてたら手配した主婦が二人来てくれた。


 二人とも優しい茶髪を腰まで伸ばした肝っ玉母ちゃんで、親に叩かれた回数より旦那を引っ叩いた回数の方が多いだろって貫禄がある女性だった。


「どうも。俺はカイト・カワノ。こっちは婚約者のポポロップ・エスプワープです。今日から一日置きにお店を開くんで、皿洗いとか食器の回収をお願いします」


「よろしく」


 俺とポロも頭を下げて挨拶をする。二人は仕事内容よりもポロが婚約者って所に反応し、だけどポロが小さい事とかには一切触れなかった。


「あれまぁ、随分とめんこいお嫁さんだねっ!」


「働き者の旦那様で羨ましいねぇ! うちの宿六やどろくにも見習わせたいよ」


「ふっふっふ、カイトは凄い。凄すぎてポロ、あんまり役に立てない」


「あらあら、そんな事無いだろうよ。男ってのはねぇ、隣に可愛い女の子が居るだけで頑張れるもんさ。ねぇご主人?」


 こったえにくいキラーパス飛ばして来んなよババァ。口に出したら殺されそうだから言わないけど。


「ポロ、俺は役に立って欲しいとか思ってお前と一緒に居るんじゃないぞ。お前だって俺が便利だから近くに居るんじゃないだろ? 打算的な事言うなよ、寂しいだろ」


「…………かいとぉ」


 俺がフォローを入れると頬を染めたポロが「すきっ」と言ってテーブルを迂回して抱き着いてきた。


「コラ、料理中は危ないから止めなさい」


「ん、我慢する」


「あれまぁ! 仲良しだねぇ!」


「うんうん、やっぱりこうでなくっちゃ! ウチの娘もこのくらいの男の子を捕まえてくれれば良いんだけどねぇ」


「ハムド、そりゃちょっと高望みがすぎるってもんさ。男なんて基本、みんな女の事を魚か宝石くらいにしか思っちゃ居ないよ」


「そうだわねぇ。手に入れるのに苦労しても、そのあとはほったからし」


「釣った魚には餌をやらないし、買った宝石は飾るだけさ。魚だって餌を貰えなきゃ死ぬし、宝石だって磨かなきゃくすむってもんだよ」


「本当にねぇ。娘も甘い顔にコロッと行ったみたいで、相手の男はあまり良い感じしないんだよぉ」


「やっぱちょっと痛い目を見て、男を見る目を磨くしかないんだよぉ。宿六捕まえたアタシが言うこっちゃないけどねぇ!」


 あっはっはっはと笑う奥さん達。おっと井戸端会議はまたの機会にしておくれ。


 ポロも「勉強になる」とか言って参加するな。俺は釣った魚にも餌をやるタイプだ。だって魚を見るのも好きだもん。部屋には水槽で釣った魚や熱帯魚も飼ってたぞ。


「それじゃ、そろそろ開店するんで準備良いですか? 基本的に客に手渡しする形なので、給仕役は要りません」


「はいよぉ、任せてちょうだいな」


「エントリーに居る冒険者なんて、みーんな私達の息子みたいなもんさ!」


 そりゃ頼もしい。


 すでに料理の匂いを嗅ぎつけて冒険者達が空き地の前で待ってるんだ。それとオイ舎弟ども、なんでそこに居る? お前ら仕事はどうしたコラ。


「それじゃポロ、受付よろしくな。俺は料理に専念する。赤バスとハモ付けとくからトラブルの時には使え」


「あいあい。ポロは出来る女だから、精算も完璧」


 実はちょっと不安だけど任せる。テムテムに居たちびっ子に聞いたところ、ポロは計算が少し苦手らしいのだ。


「ポロ、計算で分からない事があったら隠さず俺に言えよ」


「分かった。夫婦で隠し事は無し」


 まだ夫婦じゃないけど、もう突っ込むの疲れた。




「これ賄いです」


 二回目の開店は順調に周り、もう夕方。


 増量した上に値上げまでした子竜の唐揚げは未だ順調に売れ、だけど少し出る数が落ち着いてて非常に良い感じだ。


 その分他の料理が売れ始め、今日はガシラを味噌煮込みじゃなくて醤油ベースの煮付けにした物がかなり当たってる。ポロが大好きな料理である。


 俺は皿洗いと回収に専念してくれてる奥さんに賄いを出して、交代で休憩に入ってもらう。


「あら嬉しいねぇ! 美味しそうでずっと気になってたんだよ!」


「ハムドさんはもう少し待ってください。エーリンさんが食べ終わったら交代で」


「はーい! エーリン、早く食べちゃっておくれね。こっちも凄い気になって、正直お皿落としそうなんだよ」


「それは勘弁してください」


 買い付けたお皿は木製なので、落としても割れはしないけど地面が剥き出しだ。洗うとしても衛生的に良くないので気をつけて欲しい。


「うわっ、これ美味し……!」


「ちょっとエーリン、早く変わっておくれよ!」


 どうやらガシラの煮付けは主婦のお眼鏡にも叶ったらしい。海鮮パスタも食べ合わせを考えて作ってるので喧嘩はしないはず。


「………………フライ? 煮付けは食べない? 煮付け美味しい。……フライが良い? でも煮付け──」

 

 気が付くと、調子に乗ったポロが銀ナマズのフライを頼もうとしてる冒険者にガシラの煮付けをガンガン推してる。


「おいポロ、勧めるのは良いが注文にケチを付けるな。お前だってカレーの口になってる時に小黒の塩焼き出されたら、なんか嫌だろ」


「…………確かに」


「すいません、そいつは大口の煮付けが大好きなもんでして」


 大口とは灰ガシラの呼び方だ。


「いやいや、気にしなくて良いぜ! そんなに勧めんなら食ってみようかね。あんちゃん、その煮付けって奴も頼むよ。ああフライってのもよろしくな」


 ポロの暴走を謝ると、気前の良い若めの冒険者さんがフライと煮付けをセットで買ってくれた。もちろん酒も忘れない。


「嬢ちゃんも頑張ってな」


「うん、頑張るっ」


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