相談事。



「どうか、お前さんの船を貸しちゃくれねぇか」


「別に良いよ」


 俺も絶対にチビドラを確保する必要があるので、朝から取り敢えず漁に出て、昼頃に一回戻って来て話し合う事になった。


 そうして戻った港で待ってたボスっぽい人に案内されたのは、木造の粗末な小屋の中。いかにも漁師小屋って感じで俺は好き。


 銛とか網とか漁の道具が壁に掛けられた年季の入った小屋の中で、そこそこの人数に囲まれてる中でボスっぽい人が俺に頭を下げた。


「…………………………はっ? え、良いのか?」


 俺の答えが予想外だったのか、ボスっぽい人はバッと頭を上げて目を見開く。


「俺は別に構わない。…………と言うか、俺はあの船と同じ物を複数所有してる。その一つを貸すだけなら別に良い。もちろん見返りは貰うけどな?」


 チビドラを四匹釣ればビッグは買える。船外機付きなら五匹釣れば良い。相応の対価を貰えるなら別に貸しても良い。


「昨日見てただろうけど、こっちのポポロップが乗ってた船も俺が贈った物だ。海の神から貰った加護で用意した船だけど、人に譲る事も出来る」


「ほ、本当かっ!?」


 ちなみに、加護って言うのがスキルである。基本は生まれつきに神から貰えるって感じの不思議な力の総称で、あとは英雄さんとかが偉業を成すと貰えたりする。


 過去にその加護を研究して一般化した技術が魔法であり、ポロが使える守りの法術とやらも大昔にもっと凄い固有スキルを使える人が居たそうな。


「でも、理由くらいは教えてもらうぜ? こちとら信仰する偉大なる海神様から頂いた力だ。さっきの奴らみたいに海賊紛いの行為に使われて海を汚されたら顔向け出来ない」


 俺は小屋の隅っこで震えるバカ共を睨む。殺されかけた自覚はあるのか、完全に狩る側から狩られる側の反応になってる。


「そりゃ尤もな言い分だ。優男かと思ったが、存外に海で生きる覚悟が決まってるみたいだな」


「文字通り海に生きてくらいあるよ。俺は海神様を裏切らない」


 ボスっぽい人はバカ共を見るとやるせない顔をする。手塩にかけてた子分が海賊紛いの事をして、優男とバカにしてた俺の方が海の男っぽい事を言ってんだからそうもなるだろうよ。


「で、理由は?」


「実はな、ご領主様から依頼があってな……」


 聞けば、港町を治める伯爵様から「海竜の肉が食べたいなぁ〜」とご依頼があるんだそうな。


 そと依頼は冒険者ギルドと漁業ギルドの両方に出てるらしく、成果は早い者勝ち。


 つまり互いの組織が威信をかけた戦いになってしまってるんだそうだ。


「手漕ぎの漁船じゃ海竜が出る海域まで行けねぇ。どうしてもお前さんの船が必要なんだ」


 ちなみに、領主が求めてる海竜とは俺が釣る稚竜チビドラとかじゃなくてマジモンの成竜ドラゴンの事。


 成竜はチビドラと比べてプリっとした弾力に欠けるが、その分生きたまま熟成されてしっとりと柔らかい肉質になっていて、そして魔物特有の旨味も段違いなんだそうな。


 ……………………マジかよ釣りてぇ、食いてぇっ。


「沖に出れる大きな船は無いのか?」


「中型以上の船だと税金がかかんだよ。それに船がデカくても漁獲高は別に伸びねぇしな」


 ああ、現代だと船の設備もあるから大きくても量が取れるけど、手で網を引くような感じだと大差ないのか。船の中に積める量は変わるけど、それなら港に戻ってからまた行けば良いしな。


 港の近くで漁をするなら往復した方が効率良いのか。沖の方なら速度も大型船の方が出るけど、港の近くだと小舟の方が早いよな。大型船で爆走したら港が大惨事だし。


「小舟で海竜の相手とか出来んの?」


「分からねぇ。でもやるしかねぇんだよ。親方の顔に泥は塗れねぇ」


 親方ってのは、俺が漁業権を買う時にお金払った相手だよな。確かに人の良さそうなオッサンだっけたけど、随分と人望があるんだなぁ。


「それでも大きい船を用意した方が良いんじゃねぇの? どっかに借りるとかさ。小さい船だと沈む時はあっという間だろ」


「いや、借りた船は魔除けが邪魔になる。勝手に外そうもんなら賠償させられらぁ」


 よく聞くと、大きな船や港には魔除けの装置があるらしく、魔物が寄ってこないんだとか。なるほど、だから海竜とかの肉がレア物扱いされてんだな。


 馬車とかには詰めない大きさらしく、一度設置すると動かすのも難しい大型の装置らしい。だから港や中型船以上の船に付いてるんだとか。


「それに、デカいと小回りが効かねぇ。いきなり動こうとしても逃げられねぇから、やっぱ船の大きさは善し悪しだな。だがお前さんの船は一気に速度が出る。下手な中型、大型船を用意するよりも可能性があらぁ」


「ふーん、攻略法くらいは分かってんの?」


 ボスっぽい人は首を横に振る。本当は竜狩りなんて英雄の仕事だ。むしろなんで漁業ギルドに依頼が来たのか分からないと言う。


「俺の知ってる限り、とにかく海面には出さずに海底で疲れさせる事くらいしか思い付かないな。チビドラ、海竜の子供はそれで殆ど魔法が使えなくなったし、赤髭も攻撃してこなくなった」


「…………ッ!? お、お前っ」


 俺が知ってる攻略法を漏らすと、ボスっぽい人が目を見開いて口を開ける。


「その手の情報は秘伝だろう? 簡単に口にしちまって良いのかよ」


「海に生きる男がみみっちぃ事言うなよ。こんな事で食いっぱぐれるならそれまでの男だったって事だろ。そんの時は潔く海に散れば良い」


「…………おめぇ、男だなぁッ! あぁ、だから海神うみがみ様も加護を寄越したんだろうぜ。海は俺達を良く見てんだなぁ」


「ったりめぇだろ。見渡す限りの大海原を見てたら、懐の広さくらい分かんだろ。小舟でも竜を相手にしようって漢を前に、セコい考えで攻略法を黙ってたら海神かいしん様に顔向け出来ねぇよ」


 俺は海の神様を海神かいしん様と呼ぶけど、オッサン達は海神うみがみ様と呼ぶらしい。


 多分、貰った翻訳機能があれこれした結果だと思うけど、言語的にはどうなってんだろうなコレ。


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