予定は未定。



「カイト。疲れた」


「お疲れ様。お陰で助かったよ」


 やっぱり夜まで持たなかった。開店初日の夕方に、疲れきった俺とポロがテーブルに突っ伏す。


 開店が早すぎて、つまみ食い出来なかった魚も多い。獲得出来た精霊は全量に対して半分以下だ。


 海竜と赤バスだけは何とか全部を確保出来たけど、ガシラとナマズはかなりロスした。まぁ赤バスだけでも超強いから良いけどさ。


 あまりにも盛況すぎて、明日の開店が危ぶまれてる。


「…………海竜が品切れは痛い」


「ポロの、唐揚げが……」


「ポロのじゃない」


 インベントリの中にあった魚はスッカラカンだ。実験で残してあるアナグマと、ビニールに入れて避けてる海竜の内臓だけがインベントリの中で存在感を放ってる。内臓売るの忘れてたぁ。


 うーん、一日釣りして翌日にお店って感じにしようかね? 流石に朝から昼までの時間で一日分の魚を確保出来るとは思えない。


「考えが甘かった」


「でも稼げた」


 それはそう。めっちゃ稼げた。


 専用のコンテナにぶち込んだ硬貨を見ると、夥しい枚数のコインがジャラジャラしてる。今日だけで黒貨くらい稼げたと思う。


 これ目標金額もちょろいな、そう考えてる俺がおかしいのだろう。一応は竜種であるらしい赤バスすら、こうも手軽に提供してるのだから稼げて当たり前なのだ。


「目標まであっさり行きそうだけど、念の為に沢山稼いでおこうか」


 王都も迷宮都市も内陸にあるから、しばらく海とはバイバイなのだ。予定の金額ギリギリだとトラブルがあった時に困る。


「ん。どうせ空き地の契約、一ヶ月」


「このペースで行くと黒貨何枚になるんだろうな」


 と言うか値上げしよう。少なくとも唐揚げは絶対に。


「よし、明日は一日釣りをする。その間は空き地に看板立てて値上げの告知をしておこう」


「ん、賛成」


 釣りは俺にとって休日と変わらないので、お休みの日は別に要らない。いやポロの事を考えると必要か?


「ああ、そうだ。人も雇わないと」


「屋台もしっかりした物作る」


「いや、一ヶ月後には店仕舞いだから屋台は良いや」


「そう…………」


 今はコンロとかを空き地の隅にずらっと並べて、その前にテーブルを置いてカウンター代わりにして商売をしてる。


 専用の屋台とか作ると、神殿に向かう時に処分が面倒なので店構えは今のままで良い。あくまで俺は釣り人なのだ。料理人じゃない。


「カイト。人を雇うなら、いつ? 明日は釣りするって言った」


「…………いつにしようね?」


 単純なタイムスケジュールをつつかれて言葉に詰まる。確かに明日釣りをして、明後日はカイシンを開くなら人を探すのいつだよって話だ。


「ちなみに、ポロは別行動しない。カイトのそばから離れない」


「…………了解。考えとく」


 ふわふわサラサラの髪を撫でて誤魔化した。手触りが本当に良くてずっと触ってたくなるのをグッと我慢して、俺は立ち上がって後片付けを始めた。




「というわけで、人を雇いたいんですけど」


「かしこまりました」


 困った俺は仕事終わり、業務終了ギリギリに商業ギルドへ駆け込んで相談した。


 対応してくれたのは前回のナイスミドルで、俺の言い分をすぐに理解して何かしらの資料を持って来てくれた。


「そういった場合に紹介出来る人材も登録されてますので、まずはそちらから見てみましょう」


「お願いします」


 商業ギルドにはこんな時に紹介してもらう為に、時間をもてあましてる主婦とかが登録してるらしい。その人達から二人ほど見繕って貰うことにした。


「こういう人材に当たり外れってあります?」


「無くはないですね。と言うのも、仕事柄相性と言うものがございますから」


 例えば肝っ玉母ちゃんを雇ったとして、すぐに煩い冒険者とかを引っぱたいてトラブルになったり、逆に物静かな奥さんが来て冒険者を相手に何も言えずにトラブルになったりとか、色々あるそうだ。


 とりあえず冒険者がトラブルの元なんだな?


 うちは客層を考えると肝っ玉母ちゃんの方が良さそうだ。物静かな人が来てセクハラされまくったら申し訳ないから。


 冒険者をぶん殴るくらいなら良いや。精霊を付けて護衛も出来るし、アイツらこっちが殴らなくても勝手に殴り合うし。


 要望と条件を伝え、明後日の昼から空き地に来てくれるように手配する。このナイスミドルが居なかったら俺は何も出来ない気がする。


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