目標金額。



 食器も鍋もコンロも用意して、七つ道具のショップからキャンプ用テーブルと椅子も買った。


 青空食堂の準備は万端と言っても良いが、今一度ポロと話し合う。


「改めて目標を確認しよう。俺達はなんで金を稼ぐ?」


「王都、または迷宮都市に行くため」


 その通り。ではなぜ金が要るか? 神殿の使用料と路銀だ。


 神殿を使うには一回で金貨五枚もの金が必要なので、俺とポロの二人分だと金貨十枚になる。


 そしてそこまで行くのにも金が要る。移動方法は自転車をショップで買えば良いし、食料も同じく。


 なら何に金が要るのかと聞かれたら、街に入る入場料だよ。依頼で出入りするなら値引きを受けられるけど、プライベートで行くなら街への出入りは全て実費。


 税金の側面もある入場料はけっこう高くて、王都か迷宮都市までに通過する街の全てで満額払ってたら今の手持ちじゃ間に合わない。


「商業ギルドで聞いたけど、王都なら諸々含めて黒貨こっか二枚くらいで済むらしい。迷宮都市まで行くなら黒貨四枚前後だそうだ」


「高い。世知辛い」


 ちなみに馬車のチャーターとか無しでコレだ。


 行商人とか特別な許可証を持ってる人なら免除されるらしいけど、俺達は完全に移動理由がプライベートなので無理だ。


「護衛依頼も受けれないからなぁ」


 冒険者に登録したものの、その権利を使って王都や迷宮都市には行けなかった。


 何故なら冒険者にはランクがあり、よく見るS〜Fとかの細かいランクでは無いものの、低級、中級、上級、最上級の四ランクあり、俺とポロは低級からスタートだった。


 駆け出しが低級。実績を積んで一人前になったら中級。そこから更に実績を積んでスーパーマン的なベテランになると上級。


 そして更に実験を積み、他の追随を許さない程の実力を身に付けて周囲を無条件に黙らせるようなバケモノだけが最上級になれる。


 護衛は最低でも中級から受けられる依頼であり、当たり前だけど大事なギルドの顧客をなんの実績も無い駆け出しには任せられないのだ。


 理由を聞けば至極真っ当で納得するしかない。俺だって護衛を雇う立場なら半人前なんて雇いたく無いから。


 そんなわけで、俺達は大金を積み上げて真っ当に街へ入れるようにしないと旅も出来ない訳だ。


「カイト。簡単な採取とかで街を出ちゃダメ?」


「無理だな。依頼ごとに渡される割符が違うらしい」


 採取とかの依頼だと、発行した都市への出入りにしか使えない割符が渡される。


 他の都市に入れるような割符は相応の依頼にしか発行されず、当たり前だけど割符の偽造は重罪だ。速攻で捕まる。


 神様から貰ったスキルを使えば抵抗も出来るだろうけど、推しから貰ったスキルをそんな事に使いたくないからなぁ。


 海神様は俺に「異なる世界の海でも生きてみせよ」ってスキルをくれたんだ。秩序をぶっ壊して好き放題する為にくれたチカラじゃない。


 もちろん理不尽な事だったら抵抗するけど、自分から悪い事って理解して無法を為し、スキルで暴れるとか有り得ないだろう。


「というわけで稼ぐぞ。目標金額は二人分で黒貨四枚」


「ん、頑張る」




 翌日、またもツヤツヤしてるポロと一緒に一ヶ月借りた空き地に来た。


 冒険者ギルドは両脇に小道があるのだが、その道を挟んだ場所にある空き地であり、小道に面した方向以外は全て建物に囲まれてる。要するに大通りに面してない。


 立地は悪いが、青空食堂と言ってもスペースの広い露店である。屋台とは匂いで客を寄せてなんぼだから、やりようはある。


「問題は酒なんだよな」


 ギルドの隣なので冒険者がターゲットなのは語るまでも無い。そうすると、飯を出すと酒の存在がどうしても切り離せない。


「まぁ買えるんだけどね」


 嬉しい事に、七つ道具は俺がお金を出して購入した者が範囲であり、ネットで買った物も購入出来る。


 じゃないとネットで買ったテントもボートもエンジンも買えやしない。


 そして両親にまだ希望を抱いてた頃に父の日とかお酒を買ってプレゼントした事があり、ショップのラインナップには数種類だけお酒があるのだ。


 種類はビールと日本酒、そしてウィスキーの三種類。魚をメインに扱うからウィスキーは合わないと思うので、今回はビールと日本酒で戦うつもりだ。


「そういやポロって酒飲める?」


「多少」


 飲んでみるか、と聞こうとして止めた。ポロが酔ったら絶対に食われる。俺が。何とは言わないけど。


 地平線から朝日が昇る中で設営を進める。予定としては、お昼頃から屋台を始め、夜までやる。そして次の日からは朝に釣りをして仕入れ、昼からは青空食堂をする感じになる。


「ポロ、そっちにテーブル並べてくれる?」


「任せて欲しい。ポロはだーりんを支える良妻」


「まだ妻じゃ無いんだけどなぁ」


「どうせ、遅かれ早かれ」


 そうなんだけどさ。


 俺も既に、ポロに絆されてる。こんなに可愛い女の子にこれだけ好意を寄せられ、求められ、今更ちゃぶ台をひっくり返せるような人間性は持ち合わせてない。


 今もちょっとした反抗を口にするのは、ささやかな照れ隠しに過ぎない。それをポロにも把握されてるので、俺はもう蜘蛛の巣にガッチリ絡め取られた獲物なのだ。


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