青空食堂。



 釣りをしまくった翌日。商業組合ギルドと言う場所に来た。


 システムは冒険者ギルドと一緒なので、端に行って要件を伝えると木札が貰えた。


 漁業組合ではこのシステムじゃなかったので、ギルドごとにバラバラだと思ってたけど違うらしい。漁業組合だけ使いにくかった。


「お待たせしました。露店を始めたいとの事ですが、お間違い無いですか?」


 しばし待ってから呼ばれ、ナイスミドルが居るカウンターで対応される。冒険者ギルドと違って女の人じゃないんだな。


「はい。自分で水揚げした魚を、どうしても自分で調理してから出したいんです」


「なるほど、何か事情があるのですね」


 黒髪に白髪混じりのオールバックなナイスミドルは、懇切丁寧に事細かく相談に乗ってくれた。


「ふむ。屋台とはそれに特化した者や、足掛かりとして始める者が多いのですが、カイト様は少し違うようですね」


「そうですね。あくまで釣りの方が目的と言うか、手段も目的も釣りというか……」


「そこに矜持があり、釣った魚は出来るだけ自分で食べたいから水揚げした魚を卸したくは無い。だから調理しながら自分でつまみ食いが出来る露店を選んだと」


 ふーむ、と悩んだナイスミドルは色々と提案してくれた。


「そうなりますと、カイト様自身は料理がお得意なのでしょうか?」


「ん。カイトの料理は最強」


 聞かれた事にポロがドヤ顔で答える。まぁ本人が答えるのも身内贔屓の回答も変わらんだろう。


「なるほど。でしたら、露店そのままだと少し具合がよろしくありませんね。多くの料理を提供出来ないという事は、カイト様が釣った魚を全て出せる訳ではないのですから」


 最終的に勧められたのは、青空食堂だった。要は少し大きめで機能が充実した露店の近くにテーブル等を並べて、座って食べて貰う形態だ。


 これなら皿も使えるので焼きも揚げも煮込みも出せるし、味見と称してつまみ食いも出来る。


 自分が釣った魚を皆と分けて食べる形なら少しは納得で出来るし、これなら海神の強襲オーシャン・レイドの手駒もちゃんと増える。


 せっかく釣ったのに売り飛ばしちゃったら、海神の強襲オーシャン・レイドで召喚出来ないもんな。


 特にチビドラは空飛ぶ絨毯みたいに使えるし、目の前に壁として召喚して防御障壁代わりにもなる。赤バスみたいに攻撃も出来る。使い易い万能選手だ。積極的に手駒にしたい。


「空間を普通よりも使うので、許可を出せる場所は限られていますが……」


「あ、こことか空いてます? 宿の近くだから都合が良い」


「………………いえ、もしお泊まりの場所から近いのでしたら、オススメ出来ません。仮にカイト様の食堂が大盛況になった場合、宿から客を奪う可能性がありますので」


 最終的に、冒険者ギルドの横にある空き地を借りることになった。


 そこは場所が場所なので冒険者が多く、トラブルが多発する為に人気が無い場所なんだとか。


 土地が限られてる街中で不人気の空き地を抱え続けるのもアレだから、そろそろ土地を売り飛ばそうかと考えてたらしい。


 でも空き地は狭く、青空食堂なら良いけど実店舗を建てるには小さ過ぎてなかなか売れないので、借りてくれるなら助かると言う。


「ちなみに、この空き地を買うとしたらいくらです?」


「黒貨二枚ほどでしょうか。本当に買って頂けるなら、色々とご相談に乗りますが」


 手持ちが足りな過ぎるので保留。取り敢えずは一ヶ月に銀貨三枚で空き地を借りる。


 銀貨三枚は決して安くないので、これは結構利益を出さないと赤字になるかも知れない。


「テーブル等も貸し出せますが、いかがしますか?」


「いえ、自分で何とかします」


 チビドラを二匹も釣ったから余剰ポイントがある。キャンプ用の折り畳みテーブルと椅子を並べるだけで事足りる。


 現金とポイント、どっちを使った方が良いのかを良く考えて上手くやっていきたい。


「ありがとうございました」


「いえ、お店が出来ましたら食べに行こうと思います。ではまた、次のご利用をお待ちしております」


 空き地の一次使用権を意味する木札を貰ってから、お世話になったナイスミドルに挨拶をして商業ギルドから出る。


「カイト、次は」


「んー、厨房設備を揃えるかなぁ」


 流石に店をやるならカセットコンロじゃ回せない。あれはあくまで家庭用の装置だ。


 選択肢は二つ。炭火焼きコンロで全部賄うゴリ押しにするか、こっちの世界で使われてる設備を買うか。


「どっちにしろ大きい鍋とかはコッチで買わなきゃ」


 キャンプ用の道具はもちろん、家で使ってた鍋もそんなに大きくない。店で使うような寸銅とか買ったことないので、ショップでは買えない。


 まだまだ出費が必要らしい。収支が合うと良いんだけどな。


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