縄張り。
「テメェさんが親方の言ってた新顔かい」
「はんっ、そんななまっちょろい体で漁が出来んのかよ」
港町に到着した翌日。妙にツヤツヤしたポロと一緒にある場所へ来た。
そこは昨日の内にお金を支払って使用許可を得た港の桟橋であり、今俺を囲んでるのはムッキムキの漁師達だ。
彼らからしたら、俺は確かに生じろいモヤシ男だろう。それに新顔の余所者がぽっと出てきて海へ出ると言う。気に入らないだろう。
海は広いと言っても、魚が取れる場所はある程度決まってる。つまり漁師にも縄張りが存在するのだ。
「どうも。邪魔はしないので」
「ふんっ、ったりめぇだボケがよぉ。邪魔なんてしやがったら海に沈めてやる」
睨みちらして消えてった男達を尻目に、俺は使用許可を得た桟橋にボートを召喚する。
「カイト、ポロもやる」
「ん? 自分の船で行くのか? 珍しいな」
「だって、海も人が居る」
……………………? あぁ、漁師が海に出てるから、いつもみたいに誰も居ないからって船の上で俺を襲えないから?
え、プレゼントしたボートを久し振りに使う理由がそれ?
「まぁ良いか。利用許可も漁業権もチーム単位だったし、ボート二台あっても大丈夫っしょ」
ポロのボートは最初から荷物を全部乗せてるので、呼び出すだけで良い。
お互いに慣れた手つきで準備をして、颯爽と沖に出る。手漕ぎボートで漁をしてる人達の驚く視線を受けながら。
帰ったら多分何か言われるんだろうな。まぁ面倒だから桟橋を避けても良い。欲しかったのは漁業権だし。
「ふっ、いい気味」
「おっとお顔が怖いぞポロちゃん」
「カイトのことバカにした。ポロ、あいつら嫌い」
二人でどんどん沖に出る。海流に負けて流される程まで行くと遭難するが、手漕ぎボートじゃ絶対に来れない場所なら余裕である。
何より俺の方はエンジンが神器だから馬力が違う。最悪は流されてもポロをこっちに乗せて帰れば良い。
「この辺で良いか。だいぶ離れたけど、波が少ないな」
「ん。ここだと、どうする? 教えて欲しい」
ポロのボートにも釣具が詰まったコンテナが置いてある。あれは俺のと中身が一緒なので、使い方さえ知れば同じ事が出来る。
「小物を狙ってコマセでもやるか、大物狙ってルアーやるか……」
「色々ある?」
「そうだな。釣りって色々あるんだよ」
「じゃぁ色々やる」
…………そうだな。別に一つしかダメって事も無い。餌もルアーもやり尽くそう。
幸い、港町だから釣った魚が食えるか否かはすぐ聞ける。今までみたいな実験とかギャンブルなんてしなくて良い。
「ポロは何したい?」
「んー、びゅんびゅん投げたい」
「よし。じゃぁポロはルアーにしようか。使い方は適宜教えるから」
俺はその間にコマセでもやろう。…………そう言えば、
ちょっと意識してやってみる。…………………………あ、出来たっぽい。
マジか、今どきの魚探は魔法で済むのか。電子とかもう古いのか。
「か、カイト……!」
「お、さっそく来たか?」
ポロがボートの上で格闘を始める。この世界の魚、すぐ食いつくんだよな。そして重い。
「ぐぅう、これっ、…………ちびどらぁっ」
「え、マジ? いける?」
「がんばるぅ……!」
ポロがチビドラ級の何かを掛けたらしい。でもポロはまだチビドラ釣ったこと無いはずだから感触とか分からないはずだろ。
俺はその間にコマセで小物を狙う。するとよく分からないのが釣れた。体型はスタイリッシュな銀のナマズである。分からないけど絞めてインベントリへ。
同じ物だったらスタックしてくれるからそのまま入れる。
「か、カイト、もうむぃ……」
ポロからヘルプを貰って手伝う。ボートを乗り移って後ろから支えると、体越しに竿先の感触が伝わってくる。うわマジかホントにチビドラだ。
「んへ、共同作業……」
「実は余裕あるだろ?」
二人して二時間使い、チビドラを海面まで上げる。そしてお決まりの魔法攻撃が飛んでくるが、チビドラ精霊が目の前で盾になってくれたので無傷。
「しゃおらぁぁあ!」
ボートに寄せてフィッシュグリップを口に突っ込んでランディング。そしてランディングしたならもう『釣った』判定だ。ライフルで額を撃ち抜いて殺し、インベントリへ入れる。
今更だけど、インベントリは生き物が入らない。生物が身体に持ってる魔力に抵抗されるっぽいから。だから仕留めてから入れてるのだ。
「ふぅ、ちょっと休む……」
「おう、お疲れ様。その間にこっちも釣っとくわ」
そしてお昼もボートの上で済ませ、日が暮れる寸前まで釣りをしてた。
その結果、チビドラ二匹。赤バス十四匹。灰ガシラ四十匹。銀ナマズ六十匹。
そこそこ良いんじゃ無いかな?
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