カレー食べる。



 カレーにルゥを投入したあと、弱火でじっくり煮込む間にご飯を炊き始める。


 カセットコンロを二つ出して、三合炊きメスティンで二合炊く。


「それと、この間は手抜きしたけど……」


 カレーにはやっぱりサラダが要ると思うんだ。そう思ってレタスをダンボールで買ってひと玉取り出し、残りをインベントリへ。


 昔、スーパーで仕入れミスったレタスが投げ売りされてた時に箱で買った経験が生きた。流石にひと玉に1ポイント使ってられない。菓子パンだって五百円くらいのクソ高い奴を選んで買ってるのに。


 幸い、ドレッシングは一本千円くらいする高い和風ボトルを買った事があったのでそれを購入。


 レタスを千切って千切ってボウルに盛り付けたら、あとはご飯を待つだけだ。ドレッシングは掛けて放置すると野菜が吸っちゃって味が変わるので、直前に掛ける。


 自分はドレッシング吸った野菜も好きだけど、ポロがどうか分からないので最初はプレーンな状態を提供したい。


 ご飯が炊けて、蒸らしも終わってメスティンの中で掻き混ぜる。


「そこにトロットロのカレーをドバー!」


「どばー!」


「シャキシャキレタスのサラダをドーン!」


「どーん!」


 夕食の完成だ。


「「今宵の恵に感謝を」」


 二人して食前の祈りを捧げ、カレーライスにスプーンを突っ込む。


「ッッ……! たしかに、前のより美味しい……!」


「だろ? 野菜を皮ごと使うのがポイントなんだ。香り高くなるし、栄養価も上がる」


「…………えーよーか?」


「そ。まぁ食べ物が持つ滋養の種類だよ」


 一口含めば野菜の風味をスパイスが援護して口の中を駆け巡り、鼻に抜けて行く。咀嚼すれば夥しい程に濃縮された旨味が舌を襲う。


 上も下もノックアウトしながら体を蹂躙する侵略劇こそがカレーの真骨頂。日本人は慣れ過ぎてるが、これだけ旨味が濃縮した食べ物をなれない者が食べたらド肝を抜けるに決まってる。


 カレーとは、それほどに完成された食べ物なのだ。


 ある種、料理の理想系を一つ体現したとすら言える。だから多種多様な派生料理が生まれても、カレーはあくまでカレーなのだ。


 料理は時々、名前も姿も変えて変形する事がある。例えばタルタルステーキと言うユッケみたいな料理があるが、これが面影だけ残して原型をぶっ飛ばした変形先が、みんな大好きハンバーグだ。


 本当はハンバーグの名前とは、「ハンブルグ風ステーキ」からハンバーグステーキになったとされてる。料理って時にそのくらいの変化を見せる。


 だけど恐らく、カレーだけは未来永劫そんな事にならないだろう。だって完成してるもん。


 スパイスの香りと素材から出る脂が反応を起こして昇華する。野菜も肉も米も、全てがカレーと最高の相性を叩き出して胃袋に落ちていく。


 何より、ただでさえ美味いカレーにチビドラの肉が使われてるのだ。未知の旨み成分がカレーに溶け出して意味分からないくらい美味しいのだ。


 もう、なんだろうコレ。ポロが言う通り神の食べ物かもしれん。


「…………ふぅ、くったぁ」


「おなか、くるし……」


 気が付けば、全てを食べ終わって鍋もきっちり空である。


 途中でご飯が減ったメスティンの中に鍋から継ぎ足し継ぎ足しで食べて、最後はほぼカレーになってた。


 サラダもひと玉を二人で分けたらからそりゃ多い。でも俺達は満足してた。余韻が素晴らしいから。


「なぁポロ」


「……どした?」


「実はカレーって、200種類あんねん」


「……………………ッッ!?」


 ごめん嘘、適当言った。でも多分それくらいあると思う。


 日本で化け続けるジャパニーズカレーと、本場で進化を続けるカレー達を派生系まで全部入れたら、多分それくらいにはなるでしょ。


 俺の言葉に世界が終わるぞとでも言いたげな顔で驚愕するポロが可愛くて頭を撫でる。婚約したから触れるようになった角も右手でスリスリする。


「美味かったか?」


「んっ、おいしかた」


 その日、「お礼」と言われていつもより激しく絞られた。


 ポロは上で動くのが好きらしい。何とは言わないけど。


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