食われる。
村に来て一ヶ月経った。
大体の常識は学び終え、文字も習って簡単な読み書きなら出来るようになってる。牙羊族は識字率高くて誰にでも教われたから助かる。
害獣駆除でポイントを稼いで道具類も大体完璧になったし、もうそろ村を出て行く事にした。
「ずっと居ても良いんだけどねぇ」
「ごめんなさい。やっぱ俺は海が好きなんで」
川も良いし、湖も捨てがたい。でもやっぱり最後は海なんだよな。
俺の服はポロがいっぱい作ってくれたし、素材になった牙羊毛生地がかなり性能良くてポカポカなのに蒸れないって言う素敵な服になった。
俺は刺繍入りのカジュアルなワイシャツに民族衣装っぽい灰色のジャケットを着た感じになって、下は使い易いカーゴパンツ。
ポロはワイシャツ風ワンピースに刺繍入りストールを肩に巻いたコーディネートだ。
「で、ポロはやはりついて行くんだな?」
「もちろん。まだ口説き落としてない」
「よし分かった。しっかり口説いて来ると良い。次来る時は曾孫を連れて来ても良いぞ」
「良いぞ、じゃ無いんだよなぁ」
俺が旅立つという事で、昨日は村で送別会を開いてもらった。その時にあのメンチ切ってくる男に絡まれたのだが、目の前でポロが俺の唇を塞いだらギャン泣きしてどっか行った。なんなんだアイツは。
「して、カイトくんやい」
「なんでしょうやい」
最後にガム爺に呼ばれた。どうやら俺にも何かお言葉をくれるらしい。
「カイトくんはどうやら、
はい、正解です。親の事もあり、俺自身が経験も無いから女性から逃げる傾向があるのは間違いない。ボートの上でポロにキスして見せたのも、かなり無理をした精一杯だった。
「自分が相手に何をするのか、どんな影響を与えるのか、もしくは与えるべき影響を与えられない可能性、そんなことを考えて手を引いてしまってるのだと思う。…………カイトくんや、ポロは全てを受け入れる気だから何しても良いぞ。めちゃくちゃしてしまえ。そして曾孫を連れて来ておくれ」
「おい爺さん」
シリアスな話からコレだよ。テム婆もうんうんと頷いてるし。
「流石に
「爺さん、おい爺さん止まれ」
「ポロも乗り気じゃて、好きなだけヤッてしまえ。そしてワシらに曾孫を抱かせておくれ」
「言葉を選べよジジィ!」
遂に俺は敬意を捨てた。本人を前にして吐く言葉にも限度があるぞ。
「大丈夫じゃて。別にヤッたから即結婚とか、そんな煩いことは言わんから。ヤッた後に別れようと文句は言わん。でも曾孫が出来たら一時的にでも帰ってきて欲しいが、村長になれとも言わんさ」
「ヤるヤるうるさいなッ!? 男がみんな猥談好きだと思うなよ!?」
そんな見送りを受けて桟橋からボートに乗る。ポロにも専用のボートをプレゼントしたけど、結局二人旅なら一緒に乗ろうって事になった。
ポロは操船が好きなのか、一緒に乗ると大体やりたがる。
ボートにコンテナをいくつか積んで、それを椅子替わりにして乗り込んだら、ポロがエンジンを始動してる間に桟橋とボートを結んであるロープを解く。
「お爺様、お祖母様、行ってくる。必ずカイトの子供産む」
「任せたよ。老い先短いババァに可愛い曾孫を抱かせておくれ」
「期待してるからな、ポロ」
「あんたらもうそればっかりじゃん」
ポロがアクセルを捻ってボートを出発させる。今度は流れに沿って川を下るから、来た時よりも早く海に帰れるだろう。
──ブルルルブスンブス……ブス…………。
そう思ってた俺は、村が見えなくなって暫くしてから突然切れたエンジンの音に驚き、振り返るとエンジンを切ったポロが居た。
「…………ポロ、どうした?」
ポロは何も言わず、
「ふふっ、逃げ場は無い」
「………………ぽろ、さん?」
清々しい旅路が始まると思ってた矢先、淫靡な笑みを浮かべるポロの姿に背筋がゾッとした。え、なに、突然の裏切り?
「カイト」
ロリにしか見えない同い歳の女の子が、プチプチとボタンを開けて、ワンピースの前を開いてく。
目的は分かった。そして俺は嵌められた事を悟る。そうか、操船を進んで担当してたのはこの為か。
周りは急流の川。ど真ん中でアンカーを落とされたから逃げ場が無い。泳いで逃げようにもボートには勝てない。
エンジンを再始動させようにも、ポロに邪魔されず出来るわけが無いのだ。
つまり、確実に食われる。
「………………お、お手柔らかに」
「善処する」
…………ッアー!
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