服ゲット。
村に滞在して一週間程が過ぎた。この世界の常識とかなんも知らなかったけど、村の皆に教わりながら少しずつ覚えて来た。
あと読み書きも教えて貰ってる。言葉は神様の力で色々上手いこと変換してあるらしいが、文字と言葉は別のカテゴリーだった。
日本語は表意文字だが、この辺りで使われてる文字は表音文字らしい。新規で覚えるならこっちの方が楽だが、その代わりに注意するべきことが表音文字と表意文字で様変わりする。
表意文字とは文字一つ一つに意味がある言葉であり、組み合わせで変化する言語のこと。
例えば「川」は単体でも「かわ」と読めるし、山から海に向かって流れる水源の事を意味する文字である。そしてそこに「口」を足すと「
対して表音文字は文字一つ一つはあくまで文字でしかなく、組み合わせる事で初めて意味が生まれる言語だ。英語とかがそれに当たる。
あくまで「A」は「A」でしか無いが、組み合わせて「Ace」にしたらトランプの札やゲームの初回得点、最優秀選手や手練の特記戦力など、様々な意味が生じる。
表意文字は文字の意味を理解すれば知らない単語でも理解出来るが、その代わり文字一つ一つの意味から既に膨大で、覚えるべき文字が多すぎる事が問題になる。
代わりに表音文字は文字を簡単に覚えられるが、文字に意味が無いので組み合わせを知らなければ何も理解出来ない事が問題点となる。
どれだけ文字を読み込んでも答えを知ってないと答えに辿り着けないのだ。なので文字を覚えるのは簡単だけど代わりに用法の全てを知らないと事故る可能性すらある。
簡単に比べると、英語なら愛してるを伝えるのに『I LOVE YOU』と八文字の羅列を正確に覚えないと意味が無い。
日本語の場合なら、文法が分からなくても「我 君 好」とか並べるだけでも意味を伝える事だけは叶う。そのためには大量の文字を覚える必要があるけど。
要するに、しっかり覚えるのなら表音文字の方が楽。カタコトで良いなら表意文字の方が楽。
まぁ俺の個人的な意見だけど。
「ふむ、つまりここは……」
「ええそうよ。そこは前の言葉を繋ぐ意味で使われる事が多いけど、この場合は完結するためのものだわ」
村の子供に混ざって勉強中。ポロと違ってバインバインのお姉さんから手とり足とり文字を教わっている。
勉強の基礎を知ってるので覚えるのは早いが、それでも子供に混ざってると集中し難い。
いや、正確には俺が集中出来てても周りの子供がソワソワしちゃって集中出来ないんだ。その結果、子供にちょっかい出されて俺も集中出来なくなる。
「なぁなぁ兄ちゃん、ポポロップ姉ちゃんと結婚するんだろ〜?」
「ゼフ、婚約と結婚は別物だからな。それより勉強しろ、ニーナ姉さんが睨んでるぞ」
隣に座ってるちびっ子にからかわれる。多分「えーお前、○○の事好きなんだぁ〜!?」みたいなノリだろう。小学生から中学生くらいまで特有の…………、いや、良く考えると人間って何歳になっても似たような事してるな?
まぁ良い。今はお勉強だ。
「なぁなぁ兄ちゃん、ポポロップ姉ちゃんのこと好きなのかぁ?」
「ん? あぁ大好きだよ。可愛いし働き者だし、嫌う理由が有るか? 良いから文字を書け。めっちゃ睨まれてるぞ」
「なぁなぁ、もうちゅーはしたか? ちゅーしたか?」
「ああしたよ。船の上でちゅっとな。良いから勉強を────」
隣のちびっ子を注意してたら、突然周囲のちびっ子も騒ぎ始めてビクッとする。何事か。
「ねぇ今の聞いた!? 船のうえでちゅーしたんだってっ」
「ポポロップお姉ちゃんいいなぁ〜! 私も素敵な旦那様に二人っきりでちゅーされたいなぁ〜!」
「お船の上で二人っきりだよぉ〜、すてきぃ〜!」
どうやら盗み聞きしてた女の子達が一瞬でヒートアップしたらしい。その後先生役のニーナお姉さんから全員仲良くゲンコツを貰って静まった。
俺までキッチリ殴られたのは解せぬ。凄い解せぬ。
今日の授業が終わると、ちびっ子達と共に建物の外へ。勉強してた場所は村の集会所に使う大きな建物だった。
「カイトおにいさん、服見せて〜!」
「見せて〜!」
村では子供も労働力、なんて常識はこの村に無く、シルク並みの品質を誇る牙羊を特産にしてるから裕福であり、子供は学ぶ余裕があって遊ぶ時間もある。
しかし村社会では娯楽に乏しく、男の子はすぐにチャンバラを初め、女の子は花を集めたり繕いものをしたりする程度の遊び方しか知らない。
そんな中で俺と言う
「やっぱりすてき〜」
「ポポロップお姉ちゃん、今までは男なんて知るかって感じだったのに、カイトお兄ちゃん来てからは服を縫ったりして一途だよねっ」
ポロは色気より食い気な女の子だったらしく、身長と言うコンプレックスも相まって「男? 要らんくだらねぇ」って感じだったらしい。
それが今では俺にベッタリで、俺が今着てる服もポロが自分で縫った物だ。
「ポポロップお姉ちゃん、今まで縫い物なんてしなかったのに、凄い上手だよね〜」
「この首のところ凄いよね、どうなってるんだろう?」
服をよく見る為のマネキンと化した俺は、抵抗せずに女の子たちに服を見られてる。
ポロはワイシャツがとても気に入ったらしくて、牙羊の布を使って自分なりのワイシャツをゼロから縫い上げはじめた。
牙羊の毛は機能的には
細長く繊細で艶があり、紡いだ糸で布を織ると本当にシルクの反物みたいになる。
それをせっせと縫うものだからめちゃくちゃ手触りの良い最高級のワイシャツになった。それも牙羊族特有の刺繍とかも入って、奇抜で先進的なのに村で浮きすぎないデザインに落ち着いてるのがまた凄い。
自分にもワイシャツワンピース型の服を俺とお揃いで作って、一緒に着てはふにゃふにゃ笑って抱き着いてくる。
最近では、このワイシャツ型の服が村で流行り始めてるくらいだ。縫い物が得意な奥さんが旦那に着せて、いち早く着れた旦那さんは村でドヤ顔してたのを見た。
だから女の子達も早く自分でワイシャツ型を作ってみたくて、オリジナルの標本である俺を捕まえるのだ。
生成りの牙羊生地はクリーム色をしてて、そこに金色っぽく染まった糸と緑色に染めた糸で刺繍をするのが牙羊族風の服になる。
「あ、カイトおにいさん、ポポロップおねえさんが来たよ」
「ん?」
言われた方へ顔を向けると、にぱーっと笑ってこっちに来るポロが居た。その手にはバスケットがあり、多分昼飯が入ってるんだろう。
「だーりん、ご飯持ってきた」
「誰がダーリンじゃ」
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