公認夫婦?



「まぁ要するに、孫としっぽりする分には何も咎めないって事さね」


「ポロもカイトくんを気に入ってるようだしなぁ。それにあの立派な船があれば、たまに帰って来れるだろう?」


 村長の座どころか、村を出ても良い。ポロは好きに連れ回して良い。そも、妻とは夫を支えるものだから、俺が望むならポロはそれを支えるべきだ。


 そんな事をつらつらと語られていき、気が付いたら外堀が完全に埋まって平野になってた。


「えーと、仮に俺がポロを貰うとして、その場合は村長の座はどうなるんです?」


「気にしなくて良い。ポロの親に責任を取らせる」


 …………そう言えば、ポロの親はどこにいるの? ガム爺とテム婆は祖父と祖母だろ?


「ポロの親、つまりワシの息子はなぁ…………」


「外で冒険者をやってるよ。途中、良い相手と巡り会ったと言って仲間の女にポロを産ませて、そして冒険の邪魔だと村に置いていったのさ」


 ……………………ふむ。つまり、冒険者仲間と子供作ったは良いけど、赤ちゃん連れて冒険は出来ないから村まで来て置いてった?


「随分と豪快な育児放棄ネグレクトだなぁ」


 要するに、責任放り出しまくった親に最後は支払い義務を負わせるって事なのか。


 確かにポロは親から養育を放り出されたのに、村長になる義務だけ負わせられるのはおかしい。それは親が負うべき責任だ。


「もちろん、村長になりたいって言うならそれでもいいさね」


 無茶を仰る。高校を卒業すらしてない子供には村を治めるとか無理だよガム爺。


「すぐには決められん、と言うなら婚約はどうじゃ? 破棄したくなったらそうすれば良い。その時は煩い事も言わん」


 こうして、俺とポロは婚約する事になった。そしてその瞬間、宴じゃ宴じゃと村が騒ぎになる。


 聞き耳を、立てられていただとっ!?


「………………しゃおらっ」


 俺が釣りしてる時の言葉が移ったらしいポロが、静かに立ち上がって力強いガッツポーズをした。


「ふむ。ポロよ、喜ぶのはまだ早いぞ? 婚約は破棄できるのだから、お前がしっかりとカイトくんを口説かんと」


「お爺様、任せて欲しい。それはポロの得意分野」


 嘘つくんじゃねぇよロリっ子が。


「ポロは大人の淑女れでぃ。絶対に落としてみせる」


 淑女れでぃは「絶対に落とす」とか言わねえよ。それは肉食女子けものが言うセリフだ。


「今まで色恋の『い』の字も無かったポロが、随分と入れ込んだもんだねぇ。悪い子では無いだろうけど、どこがそんなに気に入ったんだい?」


「ん、カイトは凄い。まずサカナ取り、釣りが得意。とても美味しいサカナ、魚を釣ってくれる。それと料理も凄い。神の食べ物が作れる。あとあと…………」


 首を傾げるテム婆に、ポロが必死に俺の良いところを伝えてる。


「同衾しても、何もしなかった。奥手だけど紳士。村の男と違う」


「ああ、村の男なら機会があったらがっつくだろうねぇ。それに女へ気遣いなんてしやしない。だから尻に敷かれるってわからんのかねぇ?」


「ん。ほんとにそう。でもカイト違う。とても紳士。気遣ってくれる。ポロ、海に流されて、カイトが最初に用意したの、食事と湯浴み。お外で立派な湯浴み場作ってくれた」


 とても嬉しそうに、自分の事のように自慢しながら語るポロを見ると背中が痒くなる。俺はそんなに立派な人間じゃ無いんだけどな。


 ポロは親から放置されても、ガム爺とテム婆さんが居た。でも俺は両親に半ばネグレクト同然で放置されて、誰も居なかった。


 頼ったのは海だ。海はいつでも俺を歓迎してくれた。釣り竿を持って遊びに行けば、沢山の魚が俺と遊んでくれた。


 俺は親の愛情を知らない。仲の良い夫婦というものを知らない。親が親だったから、俺は結婚と言うものに消極的だ。


 釣りをしてる俺が良い人に見えたなら、それは俺が釣りに対して真摯だっからだ。ちょっと砂浜にシャンプーとかの石鹸水を捨てるって言う暴挙を犯したが、それも出来るだけ森側の砂浜に捨てた。


 あとは自然浄化される事を祈るばかり。


 でも釣り人としての俺と夫として見る俺は違うはず。その時、そのギャップを感じたポロがどう思うのか。


 この婚約を破棄して良いってルールは、俺だけじゃなくてポロの為にもなる。俺が思ったよりもクズだったとか、一緒に居られないと思ったら容赦なく破棄すれば良い。


 ぴょんぴょん跳ねるポロを見て、この先どうなるかを思う。あと跳ねる度にチラチラする彼シャツの向こう側が気になって仕方ない。本当に見えてしまうぞ。


「…………ポロ、そろそろ着替えろよ」


「む? カイト、この姿好きなはず」


「好みと倫理は必ずしも結びつかないんだよ。それは人前でしてて良い格好じゃないの」


「………………はっ!? そうだった、これはカレシャツ。カレにだけ見せるシャツ。だからカイト以外、見せちゃダメ。忘れてた」


「そう言う事じゃ無いんだけどもうそれで良いや」


 一般論として普通の服を着ろって言ったのに、「その格好は、俺以外に見せるなよ」的な受け取り方された俺の気持ちを誰か代弁してくれ。


「さて、仲が良いのはもう分かった。だがカイトくんはポロを送り届ける為に何日も旅をしてきたのじゃろ? ポロよ、そろそろ恩人を休ませてやらねば牙羊の誇りが廃るぞ」


「ッ! 確かにそう。カイト、働きっぱなし。すこし休むべき」


「じゃぁ部屋に案内してやりな。ポロの部屋で良いかい?」


「いや良くないっスねぇ。年頃の女の子が住む部屋に男を入れるのは如何なものかと」


「野営とは言え同衾しといて何言ってんだい。手を出したってその子が喜ぶだけさね」


 そうなんだよな。倫理的にダメって言ってもポロが喜ぶからセーフって論調に負ける。俺が嫌だって言うとポロが悲しみそうだし、状況的に詰まされてるんだよな。


「カイト、こっち……!」


 手を引かれて立ち上がる。自分の胸よりも低い位置にあるポロのつむじを見ながら案内された部屋は、扉とか特に無い六畳くらいの場所だった。


 他と同じく土間に敷物があって、その上で過ごすらしい。ベッドがあって、テーブルや椅子などの家具も細々と置かれていて、見た感じは普通の部屋だ。


「カイト、宴始まるまで寝ると良い。カイトのお世話は、ポロがやる」


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