ぺんぺん。



「まったくこの子は!」


 ぺしーん、ぺしーん。いやバッシーン、バッシーンと表現した方が良いか。


 ガム爺に案内されて入った家屋は某狩りゲーの主人公宅って感じだったが、中も結構そんな感じだった。


 土間にカーペットを敷いて、その上で履物を脱ぐ。そんな生活様式らしいその場所で、お尻を丸出しにされてぶっ叩かれるポロと、そのお尻をぶっ叩いてるムキムキの老婆が居た。


 えぇぇえ、何あの妖怪…………?


 ガム爺が普通のオッサンと言うかお爺さんだったから油断してた。なんだあの筋肉ゴリラ。


 お尻が紅蓮に腫れ上がるポロはギャン泣きしたまま老婆の膝に抱えられていて、お尻をリズミカルにぶっ叩かれる度に「ひぐっ、うぐぅ」と呻いてる。


「これこれ、テムよ。客人の前だぞ」


「あらそうかい? あぁ、あんたがカイトかい。孫が世話になったねぇ」


「あ、どうも。カイト・カワノです」


 挨拶を交わしながらも叩かれ続けるポロのケツ。本人も恥ずかしいのか真っ赤だった顔を更に赤くしてシャツを伸ばし、なんとかお尻を隠そうとする。


「か、カイトぉ……」


 見ないでぇと弱々しく呻いたポロが可愛くて少しきゅんとした。おかしいな、俺はSっ気無いはずなのに。


 と言うか着替えは!? なんでまだ彼シャツ状態なの!?


 混乱してると、ちょうどガム爺さんがその事に言及してくれる。良いぞガム爺、言ってやってくれ。


「おいテム、カイトくんはポロに着替えさせろと言ってたはずだぞ?」


「ふんっ。自分の服を捨てちまうような孫に、着せる服なんてあるもんかね。暫くは素っ裸で反省すれば良いのさ」


 …………あぁ、そうだよな。俺が洗って乾かして着替えろって渡した民族衣装を「汚い」って捨てやがったもんな。そりゃ怒られるよ。て言うか怒られろ。


「これこれ、そんな事したら貰い手が居なくなるだろうが」


「それこそ反省のし時だろうに。そこのカイトが貰ってくれなかったら、ボロズにでもくれてやれば良いのさ」


 おっと、ここでまさかの飛び火だと? やっぱ村社会って外から血を入れる事に躍起なのだろうか。俺もポロの事嫌いじゃ無いけど、まだ人生を捧げて良いほどじゃ無いから勘弁して欲しい。


「助けてほしい……」


「いや、服を捨てた点については俺も完全に同意だから怒られてろ」


「そんな……」


 裏切られた、みたいな顔をするな。


「しかしテム? 客人の前でポロの尻を出しておくのが牙羊の礼儀か? ワシも助けて貰ったから、ポロだけの恩人では無いのだぞ」


「…………ちっ、それを言われると痛いねぇ。分かったよ、仕置は一旦ここまでにしておくさ」


 ガム爺の説得が成功して、ポロは一時的に許された。腫れたお尻が痛いのか、上手く座る事が出来ずにしなっと崩れた座り方になってる。妙に艶かしい座り方なのはなんなんだよ幼女の癖に。


「さて、改めて名乗ろうかい。私はテムロップ・エスプワープ。そこのガムランの妻だよ」


「そして村長のガムラン・エスプワープじゃ。流されたワシを助けてくれてありがとうな、カイトくん。孫を貰う気になったらいつでも言っておくれ」


「あの、本人を前にそう言うのやめません? 仮にお互い気になってたとしても、周りから色々言われたら気まずくなって離れちゃいますよ、そう言うの」


「おおお、それはいかんな! 気を付けるとしよう」


 俺も別にポロが嫌いな訳じゃないんだよ。一緒に釣りしてて楽しいし、作った飯はキラッキラした目で美味しそうに食べてくれるし、性格も大人しいからそばにいて疲れないし、殆ど不満がない。


 そう、ただ身長だけがネックなんだよ。いや小さい女の子が嫌いな訳でも無い。ただ小さい女の子と結ばれた場合、同時に発生するロリコンのレッテルが問題なのだ。


「…………カイト、ポロのこと、きになってる?」


「おいポロ、例え話に突っ込んでくるな。答え難いだろ」


「でも、気になる……」


 胸の前で人差し指をつんつんして俯くポロ。数日付き合って知ったが、ポロのこういう仕草は半分が天然だけど半分は確信犯だ。


「………………あぁあぁ、もう。分かった答えるからしょんぼりするな。気になってるよ。俺はポロのこと可愛いと思うし、気に入ってる。だけどまだ人生を捧げて良いほどじゃないから明言を避けてるの」


 なんだこの公開処刑。ガム爺もテム婆もニヨニヨして俺たちを見守ってるし、ポロも俺の言葉を聞いた瞬間にぱあっと花が咲くような笑顔になる。


 くそっ、その顔は卑怯だろ……。


「人生、捧げて欲しい」


「邪神みたいな事を言うな」


 俺はため息を吐き出して、ポロに真剣な話をする。同い歳なのに小さいから子供に言い聞かせるような気分になる。


「…………仮にだぞ? 俺とポロが結婚する場合、ポロは村長の孫なんだろ? つまり俺はこの村の一員になって、ゆくゆくは村長になる可能性もある。そんな大事な事を、恋だの愛だのだけで決めて良いわけが無いだろう?」


 ポロの想いをスルーしてるのは身長がネックだったけど、この村に来てからは更に一つ増えた。そう、村長の一族だってことだ。


「いや、別に構わないよ? 村に住めだなんて煩く言わないし、このバカ孫を連れ去っても文句なんて言わないさ」


「あれぇ〜? おかしいな前提がぶっ壊されたぞ」


 なのにまさかテム婆から土台に蹴りをいれられた。


「えと、居なくなって心配してたんじゃ……?」


「バカだね。川に流されて消えたのと、気の良い若者としっぽり良い仲になって消えるんじゃ、全然違うだろう?」


「ふむ。ワシとしては若くてもそこまでしっかり考えてるカイトくんに村を任せてみたいがなぁ。しかし、人族が村長になると一部から不満も出るか……」


 気が付くとガム爺とテム婆があーでも無いこーでも無いと、俺に村やポロを任せた先の未来について語り始める。


「いやいやいや待って待って待って、外堀を埋めるの止めて。なに、既成事実を作ろうとするのは血筋なの?」


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