呼び方。
オッサンをボートに乗せて帰って来た。もちろんその間に自己紹介は終わってる。
オッサンの名前はガムラン・エスプワープ。一応は村の村長らしい。
名前から分かる通り、当然ながらポロの身内であり祖父に当たる。
「いや、助かったよカイトくん。孫の事も含め、礼は必ず」
「気にしないで下さい。ポロと一緒に旅出来て、俺も楽しかったんで」
桟橋に二度目のエントリー。素早くロープを括ってボートを固定する。
ビショビショのガム爺さんだけど、ポロに始めて会った時よりはマシだ。一族の特性なのかポロと同じく毛量が凄いが、ボートに上がった後は髪の毛を雑巾みたいに搾って脱水してた。
「さぁ、そのままじゃ風邪引きますからね。さっさと帰って着替えましょう」
「うむ。世話を掛けるなぁ」
桟橋に上がってガム爺の手を引いって上陸を手伝う。
ふと、後ろから足音がして振り返る。ポロかなと思ったら全然違う人だった。
一人は歳上のオバ、いやお姉様で、もう一人は少し離れてこっちを睨んでる同い歳くらいの男性。いやなんで睨んでるの? こわっ。
「お待ちしておりましたカイトさん。そしてご無事で何よりです村長」
「フェナリスか。心配を掛けたな。カイトくんがすぐに助けてくれたから大丈夫じゃ」
フェナリスと言うらしいとても歳上のお姉さんは良いんだけど、その後ろで俺にメンチ切ってるアイツはなんなんだよ。全員なんかシレッと見ないことにしてるし
「えと、ポロはどうしましたか? まだ着替え────」
「ポロだとぉぉぉぉぉぉおおおおっ?」
フェナリスさんにポロの所在を訪ねようとした瞬間、ガン見して睨んで来てた男が大声を上げながら接近してきた。なんだコイツ。
「お前、今ポポロップをポロと呼んだのか!?」
「…………そうだけど?」
「いったい誰に断ってそう呼んでいる!? その名は特に親しい者だけが呼べ────」
「本人だけど」
「────はっ?」
「いや、だから、本人にそう呼んで良いって言われてんだけど」
突然の爆上げテンションについていけない中で何とか答えると、今度は突然フリーズする男。何がしたいんだコイツ。
視線でガム爺に「何コイツ?」と問う。するとガム爺が「バカ」と視線で教えてくれた。なるほどバカなのか。じゃぁ仕方ないな。
「それで、俺はこの後どうすれば?」
「もちろん、ポポロップのところまでご案内しますよ。村長も着替えないとダメですしね」
「うむ。さすがに風邪を引きそうだ」
フリーズした男を無視して三人で歩く。村の様子はなんとも不思議で、イメージで伝えるなら「某狩りゲーの村」って感じだろうか。
普通の村のイメージは無いけど、狩りゲーの村感が強過ぎて逆に親しみやすそうな感じ。
木造平屋ばかりだけど、皮を
家同士の感覚は広くて村の道は全部が大通りって感じになってるけど、それでもメインストリートは決まってるのか、特に太い道を歩いて進んでいく。
途中、柵に囲まれた場所に羊が見えた。羊が羊を飼うのか…………。
「あの羊、可愛いですね。村の特産とかですか?」
「おや、分かるかね? あれは牙羊と言って、肉食の羊だ。毛の質がとても良くてね、我々はアレを飼育する一族だから牙羊族と呼ばれる」
ほへぇ、急になんか色々と知れた。肉食の羊、って事はガヨーは『餓羊』か、『牙羊』か?
牙羊の羊を飼う一族だから牙羊族。ふむふむ。もしかして、たまたま羊被りしてるだけで、牙羊と牙羊族にはこれといった因縁とか繋がりは無い感じ?
「我々の服も牙羊の糸から作ってるのだよ」
「…………え? それって綿じゃ無かったんです?」
自慢気なガム爺を見る。生成りをベースに所々に染めた布を使った、露出の少ない民族衣装だが、とても
そこで、撫でたポロの頭を思い出す。ふわっふわで包み込むような手触りだったが、あれはウールだったか? どちらかと言えばシルクだった気がする。
やっぱり牙羊と牙羊族って関連性あるよね? それとも偶然?
落ち着いたら牙羊族と牙羊の関係と歴史を調べるのも楽しいかもしれないな。そのうち考えとこう。
「ほら、あそこが家じゃ」
牙羊族の皆様から受ける好奇の視線を一身に浴びながら、案内に従って辿り着いたのは周りとあまり差がない平屋。
ガム爺さんは村長らしいので、もう少し立派な場所に住んでると思ったのだが。
「さぁ歓迎するよカイトくん。孫も待ってるだろうし、妻にも紹介しよう」
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