村見つけた。
「カイト、そろそろ責任を取るべき」
「…………一応聞く。なんの?」
川の遡上を初めてから三日。俺はボートの上でポロからそんな事を言われてた。
「こんなにも毎日、美味しい物食べてる。ポロはもう、カイトの食べ物無しだと生きれない。責任を取るべき」
「それもしかして口説いてる?」
餌付けの結果、元々かなり懐かれてたけど最近はとても顕著だ。かなり露骨に夫婦の証とか責任取るべきとか、それっぽい事を言ってくる。
「ポロはもう、ポポロップ・カワノになるか、カイトの事をカイト・エスプワープにするしかないと思ってる」
「飯食いたいだけなら普通に言えよ。
ぷいっとするポロと一緒に今日も今日とて川を登る。男は曖昧な誘いに乗れない生き物なんだよ。勘違いしたら死ぬからな。
責任を取れって言われてプロポーズしたら、そう言うんじゃ無いって振られた人とか見た事あるし。単純に
ほんと女の子って怖いわぁ!
「そろそろ川幅がヤバいな。もうほとんど渓流って言えるような場所だぞここ。今日でも見覚えのある場所が見付からなかったら、海まで戻って別の川を探すか?」
撤退を提案した丁度その時、ポロが進行方向の一点を指差した。
「……………………カイト。見付けた」
渓流を少し進んで曲がった所に、何やら
「あそこから落ちたのか?」
「違う。あそこから降りて、川の中で探してた。そしたら、足滑った」
「なるほど」
ポロが慣れた手付きで操船して、桟橋にボートを寄せて行く。
桟橋は有るけど船が見当たらない。もしかしたら生活用水を得るためとか洗濯する為だけの桟橋なのかも。
用途は分からんが桟橋が有るなら使うだけだ。ポロの華麗な操船で桟橋に寄せたボートからロープを投げて、桟橋に素早く固定する。川の流れが早すぎて放置すると流されてしまう。
「……………………帰って来た」
「おぅ、おつかれさん。長旅だったな?」
ボートの上から見る村は、牧歌的な空気が感じられる
見た感じは深い森に囲まれた村、と言う印象を受ける。
パッと見は五十人から百人規模くらいだろうか。木造の平屋が並んでて、最初に見たポロと同じような服を着てる人ばかりだ。
下手したら全員がポロみたいに小さいのかと思えば、全然そんな事無かった。普通の人達だった。
ボートのエンジン音を聞き付けた人が何人かこちらを見ているが、その全員がポロと同じようにクリーム色の髪がふわふわとウェーブして、頭の横から捻れた角がクルンっと巻かれてる羊の獣人。
「村の名前は?」
「────牙羊の村、テムテム。…………ようこそカイト、歓迎する」
◇
「ポロォォオオッッ…………!」
大声が響いて、桟橋に上がった俺達に向かって突撃する影が一つ。
「心配したぞぉぉおッ!」
「暑苦しっ」
「あ、おま避けたら────」
ボートで遡上して三日。つまり往復でも最低六日。普通に考えればそれ以上の日数を失踪していた者を心配した人物は、ポロを抱き締めようと突っ込んで来た。
そしてポロが思わず避ける事で空振りし、俺達が今いる場所は桟橋の上。
「ぬぐぅおぉおおあああっ!? 助けてくれぇぇええ!?」
見事に空振って川に落ちた男性が、流されていく。
しっかりと足を付けてゆっくり動けばギリギリ大丈夫だが、一度でも足が滑ったりして体が浮くと一気に流される。ここはそんな感じの川だった。
あ、やべって顔してるポロを置いて颯爽とボートに乗り、桟橋に巻いたロープを解いてリコイルスターターを引っ張る。
「ポロ! 助けて来るからお前は居なくなってた間の事情を説明しとけ! あと服着とけ! そろそろシャツ一枚はダメだ!」
始動したエンジンを動かして流れていくオッサンを追い掛ける。ポロは何故かシャツを気に入ってて他の服を用意しても着なかったが、流石に故郷なら着れる服も有るだろう。
元々着てた服は洗って乾かすか? と本人に渡したらいつの間にか捨ててやがったし。
「オッサン大丈夫か!? 手を伸ばせ!」
「ガボぼボバばばぁぁあ!」
川の流れだけで進むオッサンと、川の流れプラス馬力で進むボートじゃ速度が違う。水面にさえ居てくれたらすぐにでも回収出来る。
「ほら捕まれ、全身の力を抜いて身を任せろ! 水の中で力むと逆に沈む!」
追い付いき、手を掴めたオッサンの体を一気にボートに引き上げる。下手な動きをされてボートが転覆するかも知れないから、力を抜いてダルんとしてもらう。
神器だから多分大丈夫だとは思うが、まだ確定情報じゃ無いしな。用心はして置くべきだ。
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