唐揚げ。
結局、その日はポロが見覚えのある場所など見つからずに日が暮れた。
昼は船の上でパスタを茹でて食べ、それもポロは美味しいと喜んでくれたがまだ甘い。
夕方過ぎ、もう少しで完全に暗くなると言う頃に岸辺に設営を終えた俺達は、もうすぐ夕飯の時間である。
「今日は先に予想してご飯大量に炊いとこうな」
「そんなに、美味しいの……?」
「今日はな、自信作だ」
ごくり、と生唾を飲むポロ。俺はその期待をけして裏切らない。
何せ今から作るのはベビドラちゃんの肉を使った唐揚げだからなぁ! どの角度から見ても美味いに決まってる!
三合炊きのメスティンに三合の無洗米をぶち込んで炊飯開始。
その間に大きめの鍋を二つ用意して、そのどっちにも油をたっぷり入れて火にかける。
「買う度に口が足りなくなるよな」
四口使っても足りなくなったので、カセットコンロを更に二つと、カセットガスをショップで購入。
いつものアラ汁風の味噌汁もコンロ一つ使って作る。食料コンテナから白菜を取り出してバリバリ手で千切って鍋に入れた。
油も温まったら、下拵えしていたベビドラの肉に市販の唐揚げ粉をぶち込んでから揉む。良く揉む。揉み揉みしたら、温まった油の中にインしていく。
ジュワァッと音が広がり、ポロがまた生唾を飲む。
「こ、これは暴力……! 匂いの、暴力!」
「分かる。めっちゃ分かる。匂いの時点でもう美味いの卑怯だよな。こっちはまだ食ってねぇのにさ」
「よだれ、止まらない……!」
「これはご飯も三合要るだろ?」
「要る。もしかしたら足りない」
ポロにもご飯の量を一合二合で教えてあるため、意味はちゃんと通じてる。
羊耳がピコピコして期待に揺らいでる。未だに彼シャツなのでチラリズムの天国だ。焚き火に照らされる肌が艶かしい。幼女のくせに。
「たべ、たべたぃ……」
「ダメ。まだ二度揚げ前だから」
アニメ的な表現じゃなく、本当にヨダレをダバダバ流し始めたポロが限界を迎えそうなので急いで作る。カラッと揚げていく。これを見越して鍋ふたつ体制なのに足りないとかあるのかよ。
さすがにクッカーやメスティンの蓋じゃ盛り付けられない量なので、調理にも使えそうなボウルを二つ買ってそこにキッチンペーパーを敷き詰めて唐揚げを盛っていく。
三合炊いたメスティンは既にポロが下ろしてた。それを互いに持って、俺たちはご飯を食べ始める。
「良いか、お互いのボウルには手を出さない。それを破ったら戦争だ」
「分かった。平和が一番」
二人で手を合わせていただきます。
俺は割り箸で、ポロはフォークで唐揚げを一つ取って口に放り込む。
カリッ、サクッ……!
そして中からジュワァ、プリップリの鶏肉が衣のサクサク感をバックにやりたい放題だ。口の中で鶏肉と脂と旨味が駆け巡りながら衣の上で踊ってる。
この良く分からんけど強烈に美味い旨み成分が今までで一番強く感じる。こんなの手が止まるわけが無い。
塩もレモンも何も用意してないプレーンな唐揚げを、ただそれだけを口に放り込んではご飯を頬張る。
ぐしゃぐしゃと乱暴に
だからまた食べたくなる。ボウルの中にある唐揚げをひたすら食べたい。口の中で衣のカリカリと鶏肉のプリプリが永遠に仲良しだ。
「んんんんんんんめえぇえええええっ……!」
「ッッッ! ッ!? ッッ!」
あまりの美味さに俺は叫ぶし、ポロは美味すぎて言葉を失ってる。
俺達はとにかく食べる。もうそれしか俺達には許されてないんだ。だから食べる。唐揚げを食べる。たべ、たべる。たべて、たべ…………。
ダメだ一瞬正気を失った。なんて凶悪な存在なんだこの唐揚げは。
本当に恐ろしいのは、まだこの肉は三分の二くらい残ってると言うこと。本当に恐ろしいしけしからんと思う。
「おいしっ、カイト、おいしい……!」
「おう、食え。俺も食う」
カリッと齧ってはご飯を掻き込む。この二動作だけで世界の幸せを全て得たような気になれる。
「唐揚げうっまぁ……!」
「…………至高。これが、至高っ」
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