安眠枕。



 自分としては背中合わせに寝るつもりだった。なのにポロは俺の背中にくっついて来てぎゅっとしがみついてくる。


 ワザとかぁぁぁあ〜〜?


 近くて良い匂いするとか、体温感じるとか、早々に限界を迎えそうになる。


 俺は寝返りを打って振り返り、ポロを引き剥がそうとすると胸に飛び込んで来て胸板にすりすりと頭を擦り付けてくる。


 ワザとですかぁぁあぁあぁあ〜〜?


 俺の理性を殺しに来てる。確実に既成事実を得ようとしてる。そう思って顔を覗いて見れば、コイツとっくにすやすやとお眠りだった。


「……………ふはっ、ばっかみてぇ」


 気が抜けた俺はポロを抱き枕にして寝た。ぎゅっと抱き寄せると甘い匂いがして、シードラベビーとの死闘で疲れてたのもあって一瞬で落ちた。




 翌朝。結構明るくなってから目が覚めた。朝まづめを逃すとは釣り人として不覚。


 だけど昨日が昨日だったので仕方ない。と言うか筋肉痛が酷くてどうせ釣り出来なかったと思う。


「いちち……」


 痛みを堪えながら起き上がる。むにょむにょ寝てるポロを起こさないようにテントを静かに抜け出した。


「…………めっちゃスッキリしてるな。超快眠」


 ポロ、もしかして安眠枕の才能があるんじゃ? 相当スッキリしてるぞこれ。筋肉痛は痛むけど、睡眠の質が良かったからか結構マシになってる。


「これならシードラベビーも解体出来るかな」


 動けそうなので、手と顔を洗ってからシードラベビーを取り出して解体を始める。


 まず皮膚にナイフの刃が通らないので、ぶち抜いた頭の穴を起点に腹を裂いて内臓を掻き出した。


「ドラゴンの内臓って売れるのが創作の常識だよな……?」


 念の為に取り出した内臓をビニールに詰めてインベントリにしまう。時間停止するらしいので、いつまでも新鮮な内臓のまま保管出来るだろう。


 表面は切り難いけど内側からなら切れると分かったので、少しづつ解体してく。


 魚じゃないから勝手が違うけど、基本的に骨と肉を分けてパーツ別にするだけだから何とかなる。


「ふーん、見た感じは鶏肉に近いのかな? それとも豚?」


 一時間くらい解体した後、テーブルに乗せたお肉の肉質を見る。


 やっぱ鶏肉が近いかな。まぁドラゴンって言うなら爬虫類なんだろうし、豚か鳥かって言われたら鳥だろ。


「じゃぁコイツは下味付けて置くか」


 かなり大量の肉になったので三分の二はジップロックにしまってインベントリに入れた。


 残りは一口大の大きさに切り分けて、醤油とニンニク、酒、しょうがを入れたジップロックにぶち込み揉む。


 インベントリに入れると時間停止だから、漬け込みは出来なくなる。けどそこまでしなくても良いから容赦無くインベントリへ。


「さて、次は朝飯かな」


 何食べようか。赤バスは残ってるしまた刺身にするか? うん、刺身で良いか。


 どうせポロも食べるだろうからご飯を二合ずつ炊く。その間に赤バスを四匹ほど一気に捌いて、アラと身と内蔵に分けて内臓は捨てる。


 三枚に卸したサクをいくつか皮を引いて使える状態にしたら、刺身包丁で切り分けていく。


 余った分はいつでも刺身に出来るようにジップロックに入れておく。さっきインベントリに入れた竜肉を一回出してから食料用コンテナにぶち込んでインベントリに仕舞い直す。


「…………コンロが足りねぇんだよなぁ」


 二人分のご飯を炊きながらあら汁風味噌汁も作りたい。コンロ二つじゃ足りない。


「でも普通のカセットコンロしか買ったこと無いから、これしか選択肢無いんだよなぁ」


 仕方なくもう二つほどカセットコンロを買う。お値段3ポイント。


「…………いいにおい」


「お、起きたかポロ。そろそろ飯炊けるから、顔洗っちゃえよ」


 目をもしょもしょと摩する幼女が起きて来たので、海神の神術オーシャン・レアで水を作って浮かす。


「みず…………」


 しかしその水にかぶりついて飲み干す幼女。…………顔洗えってんだよ。


「…………んんっ、しっこ」


 ブルっと震えてテントの裏の方に逃げていくポロ。ああ、あっちにトイレ穴あるのか。後で俺も済ませておこう。


 だいぶ魔力も増えて来たのか、人の顔くらいの水球を浮かばせておく程度は出来るようになった。さっきは握り拳くらいの水だったから飲み干されてしまったが、これなら大丈夫だろ。


 俺がそれを浮かべてると、戻ってきたポロが水球に手を突っ込んでパチャパチャと手を洗い、そのまま顔も洗い始めた。


「ほれ、飯だぞ」


 テーブルにご飯と味噌汁、赤バスのお刺身を並べて朝食の時間だ。


「……やっぱり美味しい」


「だよなぁ。これはちょっと信じられないくらい美味い」


「サカナを食べようと思ったポロ、やはり賢かった」


「間違いない。むしろ食べた事ないのに美味しいと知っていた分だけ天才だろ」


「…………ところでカイト」


「どうした?」


「向かい合っての同衾どうきんは、夫婦の証」


「そりゃそうだよね! 言われてみればそれはそう!」


 向かい合って男女が一緒に寝るなんて、夫婦の証とか言われても否定出来ねぇわ。


 でも一緒に寝るって言い始めたのポロだからな? 時間差で言ってこないでくれますかねぇ?


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