お前は何者なの。



 河原に倒れ込む俺。もう体力が限界です。


 俺と一緒にやり切ったポロも、凄まじいドヤ顔を空に向けて胸を張る。その胸は平坦だった。


「…………ところでさ、ポロ」


「ん。どうした」


「………………………そいつ、なに?」


 俺はぷるぷる震える手を釣った魚に向ける。


 釣ってる最中はもう限界でそれどころじゃ無かったけど、今みると何ソイツって見た目に戸惑ってる。


 色は真ん中から外に向かって黒から灰色へのグラデーション。そこは普通に魚っぽいから別に良い。


 奇妙な点は、その見た目だ。3メートル近い大きさを無視すれば、シルエットだけならエイに見える。


 …………見えんだけど、なんか顔が厳ついんだよな。少なくとも俺の知ってるエイはそんな顔して無い。


 そして背中には装甲っぽい鱗? 鱗にしてもデカ過ぎるから甲殻? とにかく装甲っぽい物が見えてる。


 その見た目をあえて描写するなら、平たく潰した水竜にメカっぽい甲殻のダイオウグソクムシを乗せた感じ。


「ポロ、ソイツひっくり返せるか? あぁ、トドメは…………」


 まて、トドメを譲ったら経験値ポイントが手に入らないな。仕方ないから自分で刺すか。


 幸い、のはヘソより上の筋肉だけなのでやりようはある。


 モーラナイフをポロに持って貰い、エイっぽい奴の額に当ててもらう。それを俺がゆっくりと踏んで…………、刺さらない。


「しゃらくせぇなテメェこのやろう!」


 キレた俺は震える手で水鉄砲ビームライフルを召喚してエイの額をぶち抜いた。もう釣り上げた後だからライフルだって使うぞ馬鹿野郎。


 釣り人の矜恃が有効なのは釣るまでだ。釣った後は腹減ってるだけの獣なんだぜコッチはよぉ。


「経験値は…………、五十!?」


 くそ化け物じゃねぇかコイツ!


 ポロに手伝ってもらってエイをひっくり返すと、裏側に小さな手足が見えた。うん、コイツ魚じゃねぇわ。


「水棲生物で、エラはあって、鱗っぽい物もあって、手足がある?」


 うんうん、俺知ってるよそれ。シードラゴンって奴だよね。タツノオトシゴじゃなくてガチのヤツ。ラギア的なクルスなドラゴンとかそっちのヤツ。


「なるほどね。コイツは海竜の稚魚、いや稚竜なのか」


 どうしよう。お前は何者なのって聞きたかったのに「どうも、ドラゴンです」って返された。俺ドラゴン釣っちまったよ。


「なぁポロ、竜って美味いのかな?」


「…………これ、竜?」


「多分」


「……カイト、凄い。竜の子供捕まえて、倒した? 凄い」


 ポロによると、竜は美味しいらしい。マジかよ絶対食べるぞ。


 取り敢えずもう今日は疲れたので、エイ改めシードラゴンベイビーはインベントリにしまっちゃおうねぇ。


「今日はもう止めとこうか。テント張ってゆっくりしよう」


「賛成」


 優しいポロが全部やってくれると言うので、テントやその他諸々を出してお願いした。もちろん組み立て方や使い方が分からないとどうしようもないから、指示は出す。


 ポロは操船を覚えた事をきっかけに、俺の持ってる道具に興味を持ったらしい。俺が何か言う前に「これはなに?」と細かく聞いてくる。


 昼にはここで飯にするって言ってたのに、もう夕方近いのだ。ポロも腹減っただろうに、文句も言わずに作業してる。


「カイト、もう分かった。寝てて良い。お腹減ったら起こす」


「…………悪い、頼んだ。赤バスと黒ハモを置いとくから、魔物に襲われたら使ってくれ」


 実はパッシブだった海神の強襲オーシャン・レイドで呼べる精霊を全部呼び出し、ポロの命令に従うように指示してから河原に寝転んだ。




「カイト。もうそろそろ、お腹限界。起きると良い」


 揺らされて起きた。身体中が痛い。筋肉痛なのもそうだけど、河原に寝てたから関節バッキバキだ。体も冷えてる。


「うぅ、いてぇ……」


「大丈夫?」


「まぁ、さっきよりはマシかな。あんまり力が入らねぇけど」


 これは早いとこ神殿とやらを探してステータスをあげた方が良いかも知れない。


「うーん。本当は釣った魚……、じゃなかったな。竜を食べたいんだが、今から捌くと時間掛かりすぎるよな」


 見上げると三つくらいある月が夜空に輝いてる。なんじゃありゃ。


「じゃぁ、アカバス?」


「それでも良いけど、ちょっと手抜きしよう。今日は俺の故郷の飯を振る舞うから、魚は我慢してくれな」


 シードラベビーから得た経験値でインスタント食材を買う。みんな大好きなレトルトカレーだ。俺は大食いなので一回で二パックは使う。


「これ、食べ物……?」


「丸ごとは食わねぇよ。その中に食べ物が入ってんだ。見た目はちょっと悪いが、めちゃくちゃ美味いのは保証する」


 ご飯を炊くだけならポロでも出来る。台数を増やしたカセットコンロに三合炊きメスティンを並べて二人分の飯を炊く。火加減と時間さえ守れば失敗しないのだ。


「こっちは焚き火で沸かそうかね」


 ポロが用意してくれてた焚き火に鍋をセットしてお湯を沸かす。レトルトカレーを四つ入れて一気に温める。


 手抜き飯だけあってすぐ出来上がる。メスティンの中で掻き混ぜたご飯の上にレトルトパックを開封し、乗せる。


「…………ッッ!? い、いいにおい、だけどっ」


 そう、慣れてる人から見るとカレーはカレーでしかない。でもそんな人達ですら「カレーとう○こ」を関連付けるのを嫌がるくらいには似てるのだ。


「違うぞポロ。これは小麦を茶色い香辛料で味付けしてドロドロになるまで煮込んだだけのスープだ。パンとかだって茶色いだろ? 肉も焼けば茶色いだろ? 別に変な食べ物じゃないんだよ」


「う、うん……」


 明らかに引いてるけど、まぁどうしても嫌だと言うなら無理強いはしない。


「無理そうなら別の物を用意するよ。ポロの分も俺が食べるから、ポロはこっち食べな」


「…………いや、食べる」


 俺が菓子パンを差し出すと、それを受け取りつつもカレーに向かう。いや菓子パンも受け取るんかい。


「カイト、美味しいって言った。ポロは信じる」


 スプーンを握りしめたポロが、意を決してメスティンの中に突っ込んで掬いあげ、そのままパクー「うみゃぁぁああッッ!?」した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る