死闘。
「カイトは、ポロをどうしたいのか。…………こんなに凄い物を貰っても、ポロはなにも返せない」
「別に良いよ。頭撫でて良いんだろ?」
「………………けっこんする?」
どうしてそうなった?
「牙羊族、本当は頭撫でるの家族だけ。ずっと撫でるなら、それは親と兄弟と
「知らぬ間に既成事実作んの止めて貰えますかねぇ!?」
慌てる俺を見てくすくす笑うポロ。その仕草だけは年相応だったので少しドキッとした。
止めてくれよ、突然同い歳の女の子ムーヴされると免疫が無い。見た目ロリの癖に。
「よし、この川がポロの住んでた場所に繋がってますよーに!」
「…………繋がってなくても良い。そうしたら、まだ一緒にサカナ取り出来る」
「だから魚釣りな」
思わせぶりな事言うの止めてくれませんかねぇ。男ってそう言うので酷い目にあうんだぞ。女の子って基本的にどんな状態でも伝家の宝刀「私、そんなつもりじゃ……」を抜けるから、大体男が泣く羽目になるんだ。
一回クソ親父に聞いたクソ事件だと、ノリノリで一緒にホテルに入ったのに、いざ事に及ぼうとしたら伝家の宝刀を抜かれたらしい。
いや合意でホテル入ってるやんって流石に俺も思ったよね。そればっかりはクソ親父に同意したよね。
でも女の子は「ラブホ女子会みたいなノリだった」とか言うんだってさ。もうその場面ですら使えるなら最強武器じゃんって思うよ。
そこまで行ったらさ、もう合意の上で挿入しても伝家の宝刀で斬り殺される可能性すら出てくるじゃん。そんなん怖くて恋愛とか出来ねぇよ。
俺は神器のシーバスロッドにルアーをセットして遠投する。赤バス狙いなら表層から中層をタダ巻すれば釣れそうだけど、他の魚も見てみたかったので少し待つ。
メタルバイブがグングン沈んで行くのを待って、着底した瞬間にヴェール、──スピニングリールに付いてる半円の棒みたいなパーツを下げて竿をしゃくる。
そこから二回しゃくってからリールを巻いて、二回しゃくってからリールを巻く。
「…………それは、なにしてる?」
「魚を誘ってんのさ。餌が美味しそうに見えるように演技させてんだ。ポロだって不味い飯より美味い飯が食いたいだろ? 魚だってそうなんだよ」
「……ッ! なるほど…………!」
一投目はスカしたので巻き戻してから二投目、すこし狙う場所を変えて投げる。
背後でポロが見よう見まねでジャークしてるのが見えて、そのうちちゃんとした釣り方を教えてあげようと思った。
「…………ッ、来たぜ来たぜっ。…………乗った、フィーッシュ!」
ガッッッツンと手応えが来てフッキング、思いっきり乗ったくさいのでしゃオラァァァとリールを巻き上げる。
「ッッ……!? いや重すぎるだろバカかテメェっ……!?」
しかし乗ったは良いけど全く寄ってくる気配を感じない。ドラグが悲鳴を上げてラインもガンガン持っていかれる。
「いやこれマズイ……! ポロ、悪いけどルアー回収してくれ! 船ごと魚追い掛ける!」
「あい、分かった……!」
ポロがルアーを巻き切ったところで片手でエンジンのリコイルスターターを引いて始動する。
「ポロ、それ動かせるか? ハンドルを捻ると前に進む……!」
「なんとなく、分かる……!」
運転をポロの任せ、俺は魚に集中する。この感じ、覚えがあるぞ。
「テメェ、エイかなんかだろ! 横に平たい奴特有の引き方してんぜぇ!」
エイ。意外とどこでも釣れるお手軽怪魚だ。普通の竿でチャレンジすると悲惨な目に遇う魚の筆頭。
ラインブレイクだけならマシな方。リールのライン全部もって行かれてからブッツリ切られてもまだマシ。最悪はバッキリと竿をへし折られる事すらあるので、カーボンロッドではなるべく相手したくない魚だ。
「岩礁地帯が近かったから根魚でも居ねぇかなって思ったのに……!」
まぁ良い。この竿は神器なので(多分)折れないし、船も(多分)転覆しない。
ラインが切れなければ何とかなる。最後に笑うのは俺だぜ!
そう思ってから、既に三時間が経ちました。
「はぁ、はぁ……」
「カイト、頑張る……!」
幸い、この辺の海はそこまで深くないらしい。ラインが切れない様に船で魚を追い掛け回しながら死闘を続け、なんとか三時間耐えている。
「そろそろ潰れろやテメェ……!」
どんだけスタミナあんだよコイツ。三時間は流石に化け物過ぎる。
腕の感覚がもう無い。脇とか肘とか上手く使って竿を保持してるけど、もういつ竿を手放してしまうか分からない。
でも泣き言も言ってられない。俺の細かい指示に従って操船を頑張ってたポロの応援を無駄にする訳にはいかない。
この三時間でポロも操船をマスターして、俺の指示が無くても良い感じにポジション取ってくれるようになったのだ。
その成長と頑張りに応える為にも、俺はコイツに負けやしない。
「……っ!? いっ、まぁ……! 浮いたなぁあ!? ここだオラァァァ!」
一瞬、竿に魚が海底から浮いた感覚が伝わってきた。釣り人は竿に伝わる振動で全てを判断する生き物だ。ちょっとした変化も逃しはしない。
「オラオラオラオラァァア!」
もうスタミナ的には声も出さない方が良いのだが、それでも吠えなきゃ折れそうになる。
タダ巻きして、竿を必死に持ち上げて魚を浮かせ続けて十分弱。
「見えた! やっぱエイ────」
海面に出て来たエイっぽい魚が見えた瞬間、その魚から何かが俺目掛けて飛んでくる。
ふと、赤バス精霊がブレスで木を抉った時のことを思い出した。
「────あ死」
死ぬ、そう思った瞬間だった。ギンッと音がして魚の遠距離攻撃が弾かれる。俺の背後から何かが飛び出して弾いたように見えたが、少し振り返ればそこに赤バス精霊が浮いていた。
「……
赤バス精霊がオートでブレス攻撃による迎撃をしてくれたらしい。なんて便利なスキルなんだ
「カイト、反撃……!」
「要らぁぁあんッ! これは釣りだっ、戦闘じゃねぇええ! 赤バスも助かったがそこで見てろよぉ!」
エイの反撃は尤もだ。何せ釣られたら命が無いんだから。
でも釣り人から遠距離攻撃を仕掛けるのは絶対に違う。釣り人がしていいのは限界まで寄せた後の銛打ちくらいだ。それが釣りだ。俺は今釣りをしてるんだ。
一発撃った後は攻撃も出来なくなったのか、それとも赤バスが牽制してくれてるのかは分からないが、とにかく純粋な引き合いになった。
釣り人は、魚のスタミナを削り切って寄せる以外に勝利条件が無い。そして他の勝利なんて必要ない。それが許されるなら、最初から釣り竿なんて持たずに地引き網でも引けば良いんだ。
「ポロ、河口まで頼む! コイツは陸に揚げる!」
「わかた!」
そうして数時間に及ぶグッドファイトを制して、俺たちは河原にエイっぽい魚を引き揚げた。
「俺達の勝ちだぁぁあああ!」
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