ポポロップ。



「もぐもぐ救援もぐもぐもぐもぐもぐもぐ感謝すもぐもぐもぐもぐもぐ名前もぐもぐポポロッもぐもぐもぐもぐもぐありがもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」


「なんて?」


 助けた幼女に、追加で炊いといたご飯で天丼を作ってご馳走した。今はその小さな体で天丼を貪ってる最中だ。


 長い髪の毛が全身にベタベタと張り付いてるので未だにバケモノちっくな見た目だけど、改めて見るとそれなりに観察出来た。


 髪の毛が長すぎて絡まってるけど、顔だけは何とか外に出してずっと天丼を食べてる。


 その顔は常に半目で眠そうだけど、パーツが綺麗に整ってる。汚れてなければそれなりに可愛いのだろう。耳はふわふわの毛に覆われて少し長くてエルフっぽい。頭の横に生えた捻れ角と合わせると、羊の獣人なんだろうか。


「けぷぅ〜……、この世でいちばんおいしいしょくじだった」


「気に入って貰えたなら良かったよ。それで、土左衛門幼女のお名前は?」


 残った天ぷらをサクサクしながら聞いてみる。生憎ともぐもぐしか聞けて無いからね。


「む、ポロはドザエモンヨージョじゃない。ポロの名前はポポロップ・エスプワープ。牙羊がよう族の淑女れでぃ。助けてくれたお礼に、特別にポロの事をポロと呼んでも良い」


「そいつはどうも」


 ふすーっと鼻息を吐く幼女。見た目はこれ、何歳? ごめん子供の年齢とか見ただけじゃ分からないよ。多分十歳以下だとは思うけど。


「ポロは名乗った。アナタの名前、なに?」


「ああ、これは失礼した。俺の名前は河野海人かわの かいと。家名が後に来る文化ならカイト・カワノになるかな?」


 名前を聞くなら自分からと言うが、名乗るのを忘れていた。文化が分からないけど失礼に当たるかもだし、今度から気を付けよう。


「カイト。うん、ポロは覚えた」


「それで、ポロちゃんはどうして海に? 下手したら死んでたと思うけど」


「それは、とても深い訳がある」


 なにやら厄介事だろうか。人命救助は人として最低限の事だと思って助けたけど、面倒事は勘弁して欲しいんだよな。


 俺は釣りさえしてれば満足なんだ。逆に言うと釣りが出来なくなる事態はどんな理由であれ許容出来ない。もし面倒な頼み事とかされたら断ろう。


 そう思って続きを待つと、ポロの口からその『深い訳』が語られた。


「ポロは、サカナと言うものを食べた事が無い。だから、サカナを食べてみたくて、川で狩りをした」


「………………ふむふむ。なるほど?」


 のっけから随分と深い。踝くらいまでは浸かるかな?


「川で狩りって言うのは、漁の事で良いのか?」


「? 分からない。とにかくサカナを取ろうと思った。木で作った槍で刺せば取れると思った。リョーって言うのは、サカナを狩ること?」


「まぁそうだな。サカナを取る行為をそう呼ぶかな」


 この世界に漁と言う概念が無いのか、それともこの子が単純に知らないだけなのか。それはこの先、この世界で生きてれば分かるだろう。今は続きを聞こうか。


「それで?」


「うん。それで、ポロはリョーの途中で、足を滑らせて川に流れた」


 めっちゃ深ぇな。足裏くらいは濡れるだろうか。水たまりよりは深いと思いたい。


「死にたくなかったから、守りの法術で身を守った。そしたらここに居た」


「要するに川に流されたら海まで来ちゃったと」


「………………うみ?」


 どうやらこの子は、ここが流されたら先の川だと思ってたらしい。どんだけ流されてんだコイツ。


「うみ、海? もしかして、塩がとれる、海?」


「その海だな。ほら、見てみろよ。川に見えるか?」


「……………………っ!? くらいけど、ひろいっ」


 暗くて地平線までは見にくいけど、それでもこの大海原を見て川だとは思えないだろう。


 見ていて反応が面白い。でも事態はシャレになってない。良く死ななかったな。


「守りの法術ってのは?」


「ん。ポロは大人の淑女れでぃなので、魔法が使える。これ」


 聞くと、ブンッと音がして半透明な膜がポロを包む。結界的な魔法なのか? すげーじゃんカッコイイ。


 それで流されてる途中に岩にぶつかったりするのを防いで、息継ぎとか色々頑張って生き延びたのかな。外傷を防げるなら呼吸の問題だけで済むし。


「まぁ、不幸な事だったかもしれないけど、結果的には良かったかもな。初めて食べた魚は美味かったか?」


「………………? ポロ、まだサカナたべてない。見たこともない」


 ああ、今食べてた物が魚だって分かってないのか。


「これ、魚を使った料理だぞ?」


「…………ッッ!? これ、サカナっ!? おいしかた! カイト、サカナ取れる!?」


「むしろ魚しか取れん。俺は魚を取るのが大好きで、いつもずっと魚ばっかり取って食べてるんだよ」


「ッ! す、すごい、カイトすごい! すごくすごい! ポロ、川で探しても見付けられなかった!」


 今はポケットなモンスターに出てくる触手玉みたいな見た目だけど、段々可愛く思えて来た。何こいつ飼いたい。


「ぽ、ポロもサカナとりたい! どうすれば良い?」


「だったら明日、道具も貸してやるし教えてやるよ。あと川で溺れたって事は、その近くに住んでた場所があるんだろ? そこまで船で送ってやるよ」


「か、カイトはかみさま……? いいひと?」


「神様はもっと優しいよ。俺は海の神様に助けて貰ったことあるけど、俺なんかとは比べ物にならない良いひとだったよ。ポロも祈れば魚が沢山取れるかもな」


「んっ! ポロも祈る。海の神様、ありがとう。サカナおいしかた……」


 何故か旅の道連れが出来てしまったけど、送り届けるくらいならしても良い。川ならボートで遡上出来るだろし、移動の問題は無い。


 問題は、ポロが流れて来た川を見付けられるかって事だけど、それはまぁ見付からなくても俺のせいじゃ無いし。


「取り敢えず、ポロの見た目を何とかするか。髪の毛ぐしゃぐしゃで人には見えないもんな」


「…………ん。ポロは大人の淑女れでぃなので、みだしなみ? には気を付ける」


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