無事だった。
「おはよう異世界。生きてたよ俺」
赤バスはどうやら毒が無いらしく、俺は夢の国から生還した。
しかし中途半端な時間に目が覚めたので、今から海に出るのもちょっと微妙だ。
「んー、じゃぁ夜に
少し落ち着いたので、良い機会だからアイテムを整理したり新しく買ったりする。一旦ポイントを使い切ろう。
まず料理関係。良く使うだろうクッカーとカセットコンロは買っておく。
やっと気付いたのだけど、経験値って1ポイントで千円くらいのレートらしい。ただ下限がそれなので菓子パン一個も1ポイントで買うはめになるのだ。
だから最低でも千円くらいする量がセットになってる物を買うのが良い。と言うか2ポイント以上の値段が付いてる物が良い。1ポイントだとそれ以下も入ってるから凄く損してる。
要するに千円以下の値段は一律で1ポイントなのだ。一円の物も九百円の物も同じく1ポイント。
「取り敢えず25ポイントでコンテナを五つ買う」
コンテナは中身が違うとスタック出来ないらしいが、コンロや調味料、包丁食器クッカーカセットガスその他諸々、バラバラでインベントリに入れるよりずっと良い。
「悔しいのがルアーだよな」
ルアーは基本的に単品で売ってる。そして俺は高校生だったのでなるべく安くて性能の良いルアーを使ってた。そうなるとルアーの値段は大体、百円から五百円くらいに収まる。
つまりルアーを買う時は最低でも五百円くらいは損するのだ。ちくしょう。
まぁ良いや。一律で千円に値上げされたって思えば良い。生前にもっとお高いルアーも沢山買っとけば良かったと後悔してるけど、安いルアーでも釣れるんだから別に良いやもう。
さて、経験値ウォレットがきっちりゼロになるまで買い物をした。
クッカーやメスティン、カセットコンロにカセットガス、多目的ロープ、毛布等々、折り畳みテーブルと折り畳み椅子。先に買っておいた物も合わせて色々と。
食料も用意した。まず水を2Lペットボトルのカートンで数箱買ってインベントリへ。同じ物ならスタック出来るから。
チルド系のパックや徳用ソーセージ、諸々の野菜やパスタ、無洗米、そして各種調味料とスパイス、その入れ物。
あと釣具。シーバスロッドが神器化してるけど別の竿を使っちゃいけないルールは無いので、格安の鱒ライダーを数本購入。百円ショップで売ってる五百円リールも数個用意。
今度こそライフジャケットも用意した。これで夜に
それぞれ買ったものをコンテナに詰めてインベントリへ。品物は確実に五十は超えてたけど、コンテナにしまったら枠五つで済んだ。
コンテナはそれぞれ雑貨、キャンプ用品、釣具、食料、調味料と名前が付いてるので分かりやすい。
「…………そう言えば、この黒猿って餌になるかな?」
放置してた黒猿を見る。これでも釣れるなら餌代浮くなぁとか思う。
鱒ライダーにラインを巻いたリールをセットして、仕掛けも付ける。
使うのは単純に鈎と重り、そして糸と糸を繋ぐサルカンと呼ばれる八の字型金具で完結してる「ぶっこみ」と呼ばれる仕掛け。
凄くシンプルに海へぶっ込むだけの仕掛けなのでそう呼ばれる。地域によって呼び方が変わるけど、ぶっ込みは確か関西の方だっけ?
俺は関東人なんだけど何故かぶっ込みで固定されてるんだよな。
チヌ鈎にナイフで切り出した黒猿の肉を刺して海へとぶん投げる。何も釣れない可能性もあるけど、釣れたら良いな。
「釣れなかったらショップで買った普通の食料で飯なんだよな」
その時はパスタでも茹でようか。………………なんて思ってたらフィーッシュ!
「入れ食いが過ぎるぞ異世界!?」
投げてから放置するので竿を置くスタンドが必要で、それを設置しようかと思ってたら釣り竿がグイングインと引っ張られる。
何が釣れたんじゃい!
急いで竿を持って強めに立てる。これは
「よっしゃ乗った……!」
鈎が上手く刺さる事を「乗った」と言う。そうなったら釣り人と魚の勝負だ。
「いやいやいやいや重い重い重い……! なんでもデカいぞ異世界さんよぉ!?」
鱒ライダーは三千円くらいで買える安物で、フルグラス素材なのでとても重い。だけどフルグラス素材だからこそ滅多な事じゃ折れないので、信頼性の高い竿でもある。
「緩んだぞ今だ行け行け行け行け……!」
糸を伝って魚の油断が感じられ、その隙に捩じ込むようにリールを必死に巻く。ドラグが糸を吐き出してもガンガン巻いてプラマイをプラに傾ける。
「っしゃおらぁぁぁあっ!」
最後は俺の勝ち。砂浜を引きずるように細長い魚が…………、いや長過ぎるな?
「なに!? ウナギ!? ちがうハモか!?」
そもそも異世界なので地球に居たウナギもハモも居ないんだけど、見た目がちょっとでも似てたら暫定的にそう呼ぶ。他に呼びようが無いからね。
釣れたのは2メートルくらいある黒いハモ。ハモは元々牙とか凄い魚だけど、異世界のハモは半端なく凶悪なお口をしてる。
「これで噛まれたら大惨事だろ…………」
怖いのでフィッシュグリップと言うアイテムを使ってハモの口を挟む。簡単に言うと魚の口を持つ為のペンチみたいな道具だ。
「夜通し釣るつもりだったけど、一発目で来たな。…………ハモかぁ、天ぷらが良いかなぁ?」
完全に日が落ちて来たので充電式ランタンを付けて灯りを確保する。
コンテナを出して道具を準備したらハモを捌いてみる。フィッシュグリップを持ってハモをマナ板に乗せたら、首の後ろを思いっきり切断して殺す。
「…………経験値二十か。赤バスより強いのかお前」
ウォレットを確認して経験値を見ると、赤バスより高かった。ウツボみたいな海のギャング的ポジションなのかな。
「鱗は無いし、見た目は大分違うけどやっぱお前ハモだよな? よし、黒ハモって呼ぼう」
日本では既にクロハモと呼ばれる魚は居るけど、そいつハモじゃないし。深海魚だし。イラコアナゴって言うんだけど。
ハモはウナギ目ハモ科で、アナゴはウナギ目アナゴ科だ。イラコアナゴはウナギ目ホラアナゴ科で、全部違う魚である。
「まずは包丁でぬめりを取るか」
調理を続ける。今日の夜は思ったより豪華な食事になりそうだ。
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