初フィッシュ。



「────っしゃオラァァア! 釣ってやったぞコノヤロウがぁ!」


 三十分の格闘を経て、ついに魚を釣り上げた。


 異世界の魚は見た事無いので、種類が全く分からないけど超嬉しい。コイツ食べれるのかな?


 見た目は赤いシーバス。ただ背鰭がカジキ並にデカくて、全体的に赤い。透き通った紅の鱗だ。


 皮膚が銀色で鱗が紅いんだろう。その組み合わせがこの魚をより美しくしてる。銀と紅の重なりに太陽が照らしてコントラストが凄まじく綺麗だ。


 銀色の効果によって光の加減次第で黒っぽくも見えるし、やっぱり光の加減でピンクっぽいグラデーションも見える。本当に綺麗な魚だ。


 口にはナマズやコイみたいな髭も生えてて、そのパーツが俺にこの魚の種類を教えてくれない。シーバスの見た目でヒゲがある。よく見ると口の中がサメみたいな乱杭歯。お前はいったいなんなんだ。


 と言うかこの牙みたいな歯があって良くライン切れずに釣れたな。綺麗にルアーだけ齧ってくれたのかな。


 鱗が一枚一枚尖ってるので、手に持つと痛そう。ただサイズが1メートルくらいあるので持たない。下手に暴れられたらボートが転覆しそう。


 小さなボートの上に水揚げしたので足の踏み場もない。ここで暴れられると突き落とされそうなので、ショップからナイフを買って魚の額にグサー! 脳を壊せば大体絞めれるんだ。


 無理やり絞めてから浜辺に戻る。お魚見たらお腹減ってきた。


「食べれるか分からないけど食べよう。まずは食べようそうしよう」


 開きっぱなしのショップを見ると、この魚を絞めた時点でウォレットの経験値が十五点増えてる。あの黒い猿と同じ経験値なのか。


「やっぱ的当てより釣りの方が楽しいな」


 そんな事を考えながら浜辺に戻ると、テントが黒猿に壊されてた。何してんだテメェ死ねっ!


「クソが! そのテントはお前ら四匹分の値段なんだぞ!? たった三匹で襲ってくんじゃねぇよ! もう一匹連れて来いや!」


 レーザーライフルで三匹とも頭を吹っ飛ばす。マジでふざけんなコノヤロウ。


 上陸してボートを引っ張って浜に上げる。ぶっ殺した猿共を蹴飛ばして壊されたテントを確認する。


「…………ん? あぁ良かった、骨組みが外れただけか。これならまだ使える」


 幸い、壊れたと思ったテントはまだ使えた。黒猿の血で汚れたけど海で洗えば良し。


「まだ寝泊まりするなら、本格的にベースキャンプ作らないとダメだなこりゃ」


 柵とか作らないと黒猿がウザイ。釣りに行く度にイタズラされるとストレスで禿げると思う。


「まぁ今は良いや。テント直したら魚を捌こう」


 この赤い魚、…………見た目はシーバスだし赤バスとでも呼ぼうか。


「追加でポイント手に入ったし、大きなマナ板とテーブルも買おうか」


 さっそく買ってインベントリから取り出し、その上に赤バスをドン!


 取り敢えずお腹を裂いて内蔵を取り出してから鱗を剥ぐ。一枚一枚がデカくて固くて尖ってるので、隙間にナイフを入れてベリってする感じになる。


 鱗剥がすのダルっ……!


 十分くらい使って鱗が全部取れたら、一回海に持って行って海水で洗う。付着した鱗と内蔵の欠片、血合いなんかを全部綺麗にする。


 その後海神の神術オーシャン・レアで呼び出した真水で海水を洗い流す。魔力を使い過ぎると倒れるので慎重に使う。


「…………ん? あら、もしかして魔力増えたかな?」


 体感、少し増えてる気がする。昨日の無茶と、水鉄砲に補給したのが良かったのだろうか。鍛えると増えるなら、頑張って使っていこうと思う。


「ふぅ、やっぱデカい魚を捌くの大変だわ。刃物変えよっと」


 モーラナイフじゃ限界があったので刺身包丁をショップで買う。


「…………この調子で買い足して行ったら、あっという間にインベントリが埋まるな。今のうちにコンテナ買っとこ」


 大き目のコンテナを購入した。小物はこれに入れたらインベントリの枠が一つで済むだろう。


 気を取り直して魚に取り掛かる。刺身包丁で赤バスの頭を落としてエラを取り、尻尾から刃を入れて三枚に卸してみた。


「わぉ、赤身魚やったんかお前…………」


 捌いて見ると、なんと赤バスは赤身魚だった。しかも身が少し白っぽいのを見ると、全身トロとか言うふざけたステータスなのか?


「…………ちょ、ちょっと味見。味見するだけだから」


 少し刺身にして見る。ショップで急いで醤油ボトルを買って刺身に掛ける。


 そしてパクリ。


「────────んんんんんッッ〜〜!?」


 美味い。


 ただ美味い。


 俺はこの美味さを知らない。未知の旨み成分が入ってる。なんだコレなんだコレなんだコレなんだコレ────




「はっ!?」


 気が付くと、1メートルあった赤バスを全て刺身にして食べていた。


 もうアラしか残ってない。内臓は捨ててある。


「あ、やっべ……!?」


 まずい。とてもまずい。いや赤バスは死ぬほど美味かったが、その『死ぬほど』が比喩じゃ無いかも知れないのが問題だ。


 初めて食べる魚なので、少し食べては時間を置いて、少し食べては時間を置く、と言う方法でセルフ毒味をするつもりだったのだ。


 なのに気が付いたら全部食べてしまってる。これで毒味持ちなら俺は死ぬ。


「………………まぁいっか。美味しかったし」


 美味しい海の幸を食べて死ぬなら別に良いやと思い直した。お腹いっぱいで眠くなって来たので、余ったポイントでマットを出してテントの中に置く。


 もし毒が無いなら目覚めるでしょ。毒持ちだったらご愁傷さまって事で。


 俺は開き直って昼寝を始めた。


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