第五十三話 緑禍の聖殿 エピローグ

 緑禍の聖殿のあれこれが一段落して。


 破壊の力に酔いしれるラセリアさんのお世話をしながら、自己研鑽の日々。

 多少の変化は在れど、いつもの日常が戻ってきた。

 それは彼女達との別れを意味するものでもあった。


「サトル殿には世話になってばかりだったな」

「本当にな」

 遺跡の調査。その撤収作業も終わり。

 騎士団の任務は終了。

 今日は、トリエルの村から騎士団が撤収する日である。

 本国へ帰還すれば、俺と彼女の接点は無くなる。

 結構良いところの貴族らしいミルキィ=ローデリオ。

 本来は平民の俺と、軽々しく話をするような存在ではない。

 ミルキィとは、最後の会話になるかもしれないのだ。

「サトル殿には迷惑も沢山かけているというのに、貸しが積み重なっていくな」

「本当、早く返せよ。期待はしていないが」

 少し寂しくもあるが、人との出会いなんてそんなものだ。

 俺はドライに対応する。

「うぐ、勿論だ。この礼は必ずしよう。だから……機会があればまた力を貸してくれ」

 しかし彼女は違ったようだ。

 平静を装っているが、未練たらたらだ。

「ほんと、お前さぁ」

「だ、だめか?」

 必死な顔で、俺との縁が切れない様にしている。

 頼れる部下や上司がいそうなものだが、ミルキィが求めているものは別だろうな。

「ほんと、友達とかいないんだな、お前って」

「うにゅ」

 図星を刺されて、しょんぼり俯くミルキィ。

 その頭をポンと一撫でして。

「俺の手に負える範囲でなら、貸してやるよ」

 優しくしておく。

 ポンコツ気味だが、個人としては信用も出来るし、嫌いではない。

 何よりも、その戦闘能力。敵対させないだけで、こちらにメリットがある。

 ミルキィはゆっくり顔を上げると、ぱぁっと笑顔を浮かべ。

「サトル殿! あり、ありがとう、わたし、ありがとう、うれしい!」

 俺の両手を握ってピョンピョン跳ねると、まとまらない言葉で礼を言ってくる。

「落ち着け! 嬉し過ぎて、はしゃぐ犬か。お前は」

「帰ったら手紙書く。あ、でも、手紙は届くの時間かかる。そうだ、通信の魔道具送る。それならいつでも!」

 元に戻らない。嬉ションとか、してないだろうな? こいつは。

「だから落ち着け。とう!」

「みゃっ!?」

 チョップを落として、正気に戻す。

「落ち着いたか?」

「……うん」

 無事に正気に戻ったようだ。

 頭を両手で抑えて恥ずかしそうにしている。

「まあ、何だ。気軽に連絡してこい」

「うむ、必ず!」

「じゃ、元気でな」

「サトル殿も。ではまた、会おう!」

「ああ。また、な」

 こうして、長いようで終わってみたら短く感じる、緑禍の聖殿に纏わる話は終わった。

 後日、ミルキィから通信の魔道具が送られてきた。


 これが、とても重要な物だと知ったのは後の話である。


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