第五十二話 一つに

 不死身の敵を相手にして、奇跡的に勝利を収める事が出来た。


 本当に奇跡だったのか?

 というのも、あまりにも限定的なスキル【創成分解】で勝てたからだ。

 偶然、俺がそのスキルを持っていたというのも、怪しいところではある。

 何らかの意図を感じざる得ない。創力という同系統のものが関わっていたのだから。

 殺されかけたが、代行者というシステムは過去の残滓。

 俺に対する悪意は感じなかった。


「むしろ託すとでもいうか、うーん、何だろうな?」

 未来の創力使いへの贈り物だろうか。

 種が分かっていれば、【創成分解】で労せず莫大な創力を得る事が出来るからだ。

「効率はとんでもなく悪い筈なんだが、それでもこれか」

 代行者を創力に分解吸収して獲得した創力は一億を超えていた。

 吸収効率は創造に使用された量の、十分の一以下なのに、この凄まじい獲得量である。

 システムを作った創力使いが、どれほどの高みにいるのか想像も出来ない。

 遥か昔の人物だろうから出会う事も無いのだろうが、その系譜がいるとも限らない。

「気に掛けておくべきかもしれないが、今気にする事でもないか」

 気にするべきは、見知らぬ創力使いでも、創力一億でもない。

 新たに得た謎のスキルた。

 大量の創力と同時に獲得したものである。


【収穫の代行者】――眷属に制限付きの技能を貸し与える。代行者となった眷属が一日に使用できる創力量は(眷属のレベル×1000)まで。


 スキル説明は理解できるが、眷属って何だよという話である。

「スキル名もアレな感じだし、俺が望んで得た力では無いのは確かだな」

 悪いものでもないから有難く貰ってはおくけど、使い方は後で検証しよう。

「とにかく、これで全て解決かな。奇麗さっぱりと」

 すべて消えた。地上の木竜も消滅した筈だ。

 一人最下層に残された俺は、調べ直してみたが、特に新しい発見は無かった。

 破壊されて原形を留めていない謎の機材とガラス片。

 情報の記された書類や資料的なものも落ちていない。

 少女の姿をした代行者と呼ばれる存在が、何故こんなところに封印されていたのか。

 どんな理由で、あれを創ったのか、全く分からなかった。

 まあ、俺では分からないと言うべきか。専門家が見れば、また話は変わるのだろうが。

 これ以上は特に見るべきものは無い。

「サトル殿! 無事か!」

 後の事は騎士団に押し付けようかと考えていたら、タイミングよく責任者がやって来た。

「ああ、死にかけたが無事だ。その様子だと、上の奴も消えたみたいだな」

「という事は、やはりサトル殿がやってくれたのだな。一体ここに何があったのだ?」

「それは――」

 創力の事もある。一瞬、適当に誤魔化そうかとも考えた。だが止めて置いた。

 自分だって分からない事が多いのに、下手な嘘をつくと、後で何か新事実が判明した時に整合性が取れなくなる。

 創力に関する事だけを隠して、代行者の存在を正直に話すことにした。

「その謎の少女を倒したら、敵が全て跡形もなく消えたという訳か……」

 流石に、代行者を倒したのは【創成分解】だとは言わない。

「ぱっと、な。木竜はどうだった?」

「同じだな。正直言って……今も、あの不死身の竜が本当に消滅したのか、信じられない」

 あれだけやって殺せなかったのだ。それが馬鹿みたいに呆気なく目の前で消えたら、そう思うのも無理は無い。

「気持ちは分かるが、実際に消えたしな。ま、不安なら暫くは、念の為に見張っていれば良いんじゃないか?」

「そうだな。そうしておくか」

「そうしてくれ。俺は疲れたし、こんな場所で話し込むのもなんだ、上に戻るぞ」

 返事は聞かずに、上に通じる穴の元へと歩いていく。

「私も一緒に戻ろう。調査員を降ろす準備もしないといけない」

 そしてミルキィと一緒に俺は地上へと戻った。


 騎士団の連中とは違い、緑禍の聖殿で俺のやる事は無い。

 ミルキィに一声だけ掛けて、先にトリエルの村へと帰ってきた。

 夜だったし疲れていたので、その日は就寝。

 一夜明けてから、ラセリアとミゲルさんに、事のあらましを語る。

「なるほどの。余計なものを起こして、危うく手が付けられなくなるところじゃったのか」

「ですが、その脅威は永遠に取り除かれた訳です。結果だけ見れば、未来への憂いが無くなったとも言えます」

「本当に結果論だけどな。この時代に俺がいなかったら、どうなっていたのやら……いや違うな。緑禍の聖殿を発見したのは自分だ。つまり俺がいなければ、今回の件もこんなに拗れなかったか?」

 今回の件。ひょっとすると俺が一番悪いのかもしれない。

「そんなことはないじゃろ。騎士団も、いずれは聖殿を見付けておっただろう。発見が、少しだけ早いか遅いかの違いしかなかろうよ」

「そうですよ、考え過ぎです。しなくてもよい苦労を散々したのに、そんなつまらない事を気にしたらいけません。悪い癖が出てますよ」

 ミゲルさんからはフォローされ、ラセリアからは窘められてしまった。

「ありがとう。二人がそう言ってくれるのなら気が楽だ」

 じゃあ、俺は悪くない。決定。

 その話は一旦終わらせて、次の話題は新しいスキルについてだ。

 本題でもある。【収穫の代行者】を試してみたい。

「眷属になるのですか? 私がサトル様の?」

「ああ、特に危険は無い。自由に解除する事も出来る。当然だが無理にとは言わない」

「そこは信頼しているので構わないのですが。それで、どういう変化が起こるのか想像が出来ませんね。もしかして黒い角や羽が生えたり、黒い魔法が使えたりするのでしょうか? それとも黒い――」

 興味はあるようだ。ラセリアは人差し指を顎に当て色々と夢想している。

 その内容には触れないでおくが。

「というか、わしが聞いて問題ないのか? よければ席を外すぞ?」

「いえ、ミゲルさんにも知っていて欲しいです。知る事による危険より、知らない事による危険の方が大きいと判断しました」

 情報機密意識の高いミゲルさんが気を使ってくれたが、今回は同席してもらう。

 極僅かだが、他にも創力使いがいる可能性があるのだ。

 ミゲルさんが、それに関わるとも思えないが、可能性もゼロではない。その時に正確な知識が無いと適切な対応が出来ない。

「そういう事ならば、聞いておこうかの」

 俺はミゲルさんの為に、先ずは創力の仕組みを。

 次に【収穫の代行者】の能力を説明した。

 調べてみた感じでは、眷属にするのは簡単だった。

 俺が眷属にすると思えばよいだけである。解除も同じである。

「ではお願いします」

 了承が貰えたので、早速ラセリアを眷属にしてみた。

「眷属にしたけど。見た目は何も変わらないな」

「残念ながらそうみたいですねぇ……」

 何が残念だったのかな? 聞かないけど。

「創力を使える筈なんだが、もしかして使い方、分からない?」

「ええと……ああ、分かります分かります! 理解しました。意識を傾ければ自然と」

「そこはスキルの理解と一緒か」

「あとはサトル様が創った魔法が頭に浮かびますね。使い方も。これらは創力でしか発動できないみたいです。自前の魔力では使えません」

 無理矢理形にした魔法ばかりだ。普通の魔力では製品規格が合わないとかじゃなかろうか。

「制限付きとあるから、本来のものより劣る筈だ。性能実験も必要だな」

「ですね。攻撃魔法は使えなかったので楽しみです。うふふ、これで邪魔するものを残らず黒焦げに出来ます」

 頬を赤らめ物騒な事を言うラセリア。

 色っぽい表情で、穏やかでは無い事を仰らないで下さい。怖い。

「くれぐれも安全にね?」

「森で早く試してみましょう。火属性も小さいものなら平気でしょう」

 既に席を立って、出掛ける準備をしている。

 ねえ、聞いていますか?

「安全にね?」

「ゴブリンも数が戻ってきましたので、試し撃ちに丁度良かったです」

 これはやってしまったのか?

「ラセリアさん?」

 何とかに刃物を持たせたとは思いたくは無いが。

「サトル様、置いていきますよ?」

「あ、うん……ミゲルさん。行ってきます」

「おう、気を付けてな。その娘の代わりに」

「はい」

「うふふ。プラズマ・レイジス。一度撃ってみたかったのです」

「待って。置いて行かないで」

 こうして俺は、アグレッシブモードのラセリアと共に、森の浅層で魔法の試し打ちをするのであった。

 そういえば迷宮探索はしたことがあったけど、一緒に狩りをするのは初めてか。


 これもデートになるのかな?

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