第五十話 隠された階層
木竜に創力が関わっている疑惑が生まれた。
魔力を使っていないから創力では? という子供のような発想なのだが、俺の少ない知識では他に思い付くものが無いので、この線で調べていく事にする。
調べると言っても漠然としているから、方向性を明確にしてみる。
まずは、何を、何処を、どうやって調べるのか、の三つに絞ってみるか。
何を、に関しては木竜と封印くらいか。
封印は既に失われていて、そういえば聖剣はどうしたんだ? ミルキィに聞いてみた。
「既に本国に送られたぞ。討伐にも再封印にも必要ないからな」
との事なので、これについては調べられない。
でも多分、創力とは関係ないと思う。
木竜は能力しか分からない。これ以上調べても時間の無駄だ。
何処をに関しては、この緑禍の森……は広すぎるから緑禍の聖殿になるか。
そこは崩壊した迷宮になる。数キロに亘ってすり鉢状に凹んでいるので、再度中に入って探索するのは困難だろう。
「そういえば、あの穴は何だ?」
すり鉢の真ん中に深い大穴が開いている。深くて底は見えない。
「ああ、私が封印を解いて脱出する時に開けた穴だ。討伐対象が巨大なのは予想されていたのでな、迷宮から全員退避させた後に、私一人が残ってそうしたんだ」
「な、何てことしてんだ、この女は。遺跡の学術的価値とか無視か? 迷宮が崩壊したの、お前が原因じゃないか!」
「だ、だって、それが一番確実で安全だったし! そもそも作戦を立てたの上の方だし!」
「おーおー、自分の行いから眼を逸らして上層部批判ですか?」
「ち、ちが――」
「機会があったらチクるか。脳筋騎士がこう言ってましたよーって」
「みゅ!?」
ミルキィの言い訳を黙らせてマップを見る。
確かに、あそこが封印があった塔の真上だ。マジでどうかしている。
個の力で階層をぶち抜くとかされたら、迷宮として機能しないわ。この世界にダンジョンマスターとかいたら震えて眠れないぞ。
因みに、木竜は普段、あの穴付近にとぐろを巻いて待機しているそうだ。
「やっぱり穴の底が怪しいのか?」
どうやって調べるのか? 俺の足で、になるよな。
迷宮が残っているかは分からないが、穴の深さ分は調べてみるか。
「他に手掛かりもないしな。行くか」
「む、どうしたのだ?」
方針を決めて動こうとする俺に、気が付いたミルキィが聞いてくる。
「どうも穴の底が気になる。木竜も、あそこを定位置にしているのは不自然だしな」
「おお、確かに。では私も同行しよう」
「いや、ミルキィは上で木竜を抑えていてくれ。万が一、狭い穴の中まで追いかけて来られたら厄介だ。頼む」
もしも本当に創力が関係するのなら、他人はいない方が良い。俺の手に余れば別だが。
「それもそうか。分かった。こちらは任せて気を付けて行ってくれ」
「ああ、じゃ、時間も勿体無いし、とっとと行ってくる」
そして俺は穴に飛び込んだ。
その際に木竜が邪魔をしようとしてきた。
予想通りだ。こいつは、この穴の下を守っていたのだ。
だが、ミルキィにボコられて、それは叶わなかった。
垂直に落ちていく。
途中途中で落下速度にブレーキを掛けながら、何百メートルもの真下に到着。
「塔があった所より下だな。封印のある場所が最下層じゃなかったのか」
穴の底は、以前の最終探索場所の下層。
未発見、未到達の場所だった。
降ってきた瓦礫で埋まっている部分もあるが、相当に深い所にあったお陰か、階層自体は無事のようだ。大きな石造りの空間がそのまま残っている。
「もしかして封印していたのは、この空間なのか? 何かの巨大実験施設か……」
地下六階。壁がぼんやりと光っているので真っ暗闇ではないが、薄暗くはあり、視界が良いわけでもない。
ライト・ボールで光源を増やして、警戒しながら、ゆっくりと奥の方へと歩を進める。
なんちゃらドームが一つ分くらいの広さか。
壊れた謎の機材とガラス片以外は何もない。
マップの光点にも人の反応は無い。
否。それはいた。奥の方。壁を背に。
病的なほどに白い肌と髪の毛。一糸纏わぬ姿で、ぼんやりと佇んでいた。
気配が無かったので気付くのが遅れた。
「女の子? 当然、普通のじゃ、ないよな」
目の焦点は合っていない。しかし顔はこちらを向いているので、俺を認識はしている。
マップには人間として反応はしていない。
選定して見た方が早いか。
代行者:???(レベル15)
人間ではないのが確定した。
謎も増えた。突っ込みどころも。
名前が無いのは百歩譲るとしてだ、種族を表示しろ、種族を。
まあ、今は置いておこう。大事なのは、こいつが敵か味方かである。
味方は無いか。今日が初対面である。話し合いが出来るかだな。
人形のように生気を感じない女の子は、無言で見ているだけ。そこから身動き一つしない。
見た目通りの無害な存在だとは思わないが、乱暴な真似は気の引ける容姿なのは確か。
問答無用の先制攻撃は止めて、対話からの接触を図る。
「君はここで何をしているのかな? こちらに危害を加えるつもりはないんだ。少し話を聞きたくてね。まずはお互いに自己紹介でで――」
「ひと。はっけん。しょり」
いきなりだった。俺の周囲に獣の群れが現れた。
木竜が一瞬で復活した時と同じように。
「ちぃ!? お前が問答無用かよ!」
咄嗟に体を回転させながらエア・ブレード乱発。
周囲を薙いで獣を吹き飛ばした。
獣は木で出来た狼のような形のものだった。木獣とでも名付けようか。
はい、木竜と同じデザイナーさんのものですね。
それが五匹だ。俺の攻撃で負った傷も、木竜と同じ方法で再生している。
「決まりか。お前が木竜を生み出していたんだな」
「しょり」
「俺の言葉は聞こえているか?」
「しょり」
獣が襲い掛かってくる。
「はぁ。まともな会話は出来そうもないな」
魔法で迎撃しながら溜息一つ。
結局、敵だったわけか。
何か聞ければと思ったんだが、この有様では期待出来ない。
仕方が無い。人の形をしただけの、人間とは別物の存在として扱う。
見た目に騙されるな。倒すしかない。
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