第四十九話 その違い

 木竜が不死身だとは聞いていた。


 でも、見たのは初めてである。

 それは一瞬だった。

 細胞が湧き出すとか、パーツが集まるとか、光が溢れてとかゲームのような演出は無し。

 唯、そこに現れた。

 圧倒的な力でミルキィが木竜を消滅させた。

 そして情緒もくそも無く、あっさりと復活した。

 特に見た目は変わっていない。弱体化しているようにも見えない。

 ミルキィがどれほど素晴らしい戦いぶりを見せても、結局状況が何も変わっていない。

 何日もこれを繰り返せば、俺の所へ藁にも縋りに来るか。


「ミルキィうしろうしろー」

 彼女の背後に現れた木竜が口を開けて襲い掛かる。

 心配はしていないが、念の為に声掛けをしておく。

 地面を削り飛ばして巨体が彼女のいた場所を通過する

 当然、そこにミルキィはもういない。

「サトル殿、見ての通りだ。何か分かったことはあるか?」

 俺の横に浮かんでいるからだ。

 取り残された木竜はキョロキョロしている。

 速すぎるんだよ。いきなり横から声が聞こえて、内心ビックリしたわ。

 木竜は結界の中で、消えた敵を探して暴れ回っている。

 ん? 【生贄選定】が外れているだと?

 僅かだが創力の獲得もあった。つまりそれは、一度は完璧に倒したという事だ。

 実態のある幻影でもなければ、身代わりの偽物ではない。

「本当に、完全に、間違いなく滅んでから、蘇ったのは確かだな」

 生贄に選定し直したら、全く同じ表示がされる。

「やはりそうか。毎回、仕留めた手応えはあるんだ。存在核を砕いた感触が」

「それで駄目だと、お手上げなんだが。あ、そうだ。いきなり全身を復元する様子を見せられたが、身体の一部分とかの場合どうなるんだ?」

「え、というと?」

「どのような種類の傷を負っても、同じ形で復元するのか調べたのか?」

 例えば火傷や部位欠損も、一瞬で治るのかという事だ。

「いやそんな事は気にしていなかったな。全身を消し飛ばし続けていたから」

「このっ、たわけ脳筋。思考停止して、無駄な作業を繰り返すんじゃねぇよ」

「みゃ!?」

 攻撃の多様性という点では、俺の方が適任か。

「どうしたもんかね。色んな方法で攻撃して、復元の様子を見てみるか。結界の高さはあるし、上から何とかなるかな……」

 接近戦は論外。空からやるのは当然。

 今度は俺が戦ってみる事にした。


「では気を付けてくれ」

「あいよ。これを身に着けているだけで問題ないんだな?」

「ああ、よほど身体から離さなければ大丈夫だ。結界は素通りできる」

 結界を通過するのに必要な腕輪を身に着けて、調査開始である。

「何か不測の事態が起こったら、援護は頼む」

「任せてくれ」

 結界内に入る。木竜がこちらに反応して近付いて来た。

 やはり小さな翼は飾りなのか、空を飛んだりはしない。

 代わりに、体を上に伸ばして咬み付いてこようとする。

 動きは単純だ。簡単に避ける。それが出来なければ死んでいる。

 余裕があっても、死が隣り合わせなのを忘れてはならない。

「不慮の事故も怖いし、さっさとやるか」

 様子見する必要もない。早速、木竜へ魔法攻撃する。

 バースト・ランスを四つ発動。胴体部に撃ち込んでいく。

 全弾命中し木片が飛び散る。

 当たった部分は、それなりに深く抉れている。

「普通に通ったな。で、どうやって治る? 違いはあるのか?」

 違いはあった。細い木の根のような触手が溢れ出して、傷を塞いだのだ。

 約十秒。触手の盛り上がりが表面に馴染むと、傷は完全に消えていた。

 怒ったのか最初よりも勢いよく、空へと首を伸ばしてくる。

 簡単に避けられるが、でかいので怖さはある。

「凄い再生力と言いたいが、全身のそれより遅いな。どういう事だ?」

 方法も性能も劣る、というのは不自然である。

「結界もあるし、盛大に火属性を使ってみるか」

 今度は焼いてみる事にする。

「フレイム・ウェーブで満遍なく焦がす」

 広域の炎で、相手の体当たりを避けながら燃やしていく。

 木だから簡単に燃えるかとも思ったが、直ぐに火は消えた。

「湿気っているのかね? 継続ダメージは期待出来ないか」

 それに残念ながら、中までは火が通らなかったようで、大して効いている様子はない。

 身体の表面を黒く焦がしただけである。

「お焦げはそのままです、と。ふむ、活動に支障がないからかな?」

 何でもかんでも治す訳ではない、というのが分かった。

 その後も色々と試してみたが、結果は同じだった。

 大きな傷は触手が埋めて再生し、小さな傷は無反応である。

「謎は、ここら辺にありそうなんだが、分からんなー」

 最後にディスペル・スフィアを使ってみたが、何の反応も無し。

「魔力で何かを強化している気配とかもない、か」

 思いつく事は粗方試したので、その場から離脱するとミルキィにお願いする。

「頼む。木竜をもう一度、完全消滅させてくれ」

「ん? 分かった」

 入れ替わりでミルキィが結界内に入って、先の再現。

 特に時間も掛けずに切り刻んだ後、消し飛ばした。

「結果は一緒。再生能力が弱体化していたのでは無かったと」

 再び一瞬で元に戻った。

「こんな際限無く瞬間再生する能力があるのなら、全部そうすれば良い。なのに、何で方法を分ける必要がある? ミルキィ理由は分かるか?」

「確かに変だな。魔力消費を抑える為に使い分けている、というのは……無いな。再生に使われている何らかの力は無尽蔵だ」

「何らかの力ね。魔力では無いのか?」

「魔術師であるサトル殿の方が分かるだろう? 木竜は一切の魔力を使っていない」

「そ、そうだな。まあ、念のため他人の意見を聞いただけだ」

 普通の魔術師ではないので、魔力の流れとか全く分からない。

 それが露呈しない様に慌てて誤魔化した。

 でも、そうか。魔力以外の力か……まさかね。

「いや、あり得る。勘違いするなよ俺」

 自分だけが、この世で唯一持っている力と思うのは間違いだ。

 そんな優越意識は状況認識の邪魔にしかならん。改めろ。

 俺以外にも創力を使う存在がいる。

 それも視野に入れないといけない。


 仮に予想通りだったとしても、倒し方は分からないのだが。

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