第四十二話 ゴミ処理

 この世界は殺意の高いイベントが多すぎる。


 村を拠点に動いてないし、人間関係も広くは無い。

 なのに、何だこれ。

 今日も、暗殺者が魔術師メタで来るし、馬鹿が無罪放免でリベンジしに来た。

 もう散々である。

 気晴らしをしないと、やってられないですわ、と。


 てい。

「うぎゃぁぁぁぁ!」

「ちょっと剣で刺されたぐらいで喧しい。もう片方も、よっと!」

 グサリ。右をやったから、今度は左。

 土壇場での逆転をさせない為に、両肩の付け根を深く刺して、腕を使えなくする。

「――があ、あ、あ、っ! っ!」

 大変に切れ味のよい長剣で、両膝にも切れ込み。これでよし。

 本当は切り落としたい。

 だけども今は我慢の子。ある程度は、口を聞ける状態にしておく。

 最後は、顔だけ残して全身を土魔法で固めて、完全に動けなくする。

 プラズマ・レイジスの持続時間は二十秒程度。

 弱まったら随時、追加して結界を維持しておくのも忘れない。

 出費が嵩む。

「っ、っ、きさ、ま、きさまぁ! 私にこんなことし――ぶフゴォ!?」

「死に際悪党の定型文を聞く気は無い。黙れ」

 踵で口を踏み付けて、不愉快にしかならない無駄音声を消す。その際に歯が何本か折れたみたいだが、どうでも良い事である。

 そして己の失敗に気付く。

「色々と尋問しようかと思ってたんだが、大体は察しが付くし、特に聞く事無かったわ」

「――っ!?」

 気を使っての作業に意味は無かった。

 殺すか。

「じゃあな。来世は、真面目な昆虫に生まれ変われよ」

 剣を振り上げ、恐怖に見開く少し下。首へと下ろす。

「お待ちください!」

「……」

 その前に、静止の願い。それを聞いてやる義理は無いのだが、寸前で剣を止めてやる。

 カルドは恐怖に顔を引き攣らせていた。

 その声は電撃結界の内側からのものであった。

 外にいた暗殺者の一人が、俺の前に転移してきたのである。

 攻撃の意思は無いと武器も持たず、両膝を地面に着いて頭を下げている。


 人間:アゼル=12番(レベル40)


 暗殺者の中で一番レベルの高い奴である。こいつが取り纏め役かな。

 反撃の機会は無し。考える時間も無し。恥も外聞も無く主を助けに来たか。

「貴重な転移術を、こんな使い方していいのか? 奇襲以外にも、まだまだ応用は効くし、他の手も残っているだろ?」

「どれも、貴方様を相手するには不足と判断しました。完敗です。お見逸れ致しました」

「そりゃどうも。素直に、その言葉を信じ合う、仲では無いけどな」

「重々承知しております。勝手な言っている事も。ですが何卒、こちらの――」

「嘆願助命は無理筋だぞ。暗殺失敗して、ごめん許してとか、受け入れる訳ないのは、お前にも分かっているだろう?」

「それでもです。恥は承知。私達の命は如何なっても構いません。ですが主は見逃して頂けないでしょうか。今後、貴方様に復讐なんてしないように説得します。それに主は大貴族に連なるハイドラント家の者。もし主を殺してしまえば、正当性に関わらず恨まれるのは必至。それは貴方様も望む所では無いでしょう? なればこそ、この件を、ここで収めて下さるのでしたら、そこも良きように計らいますので」

 もう恨まれてるし、ここから何やっても、もっと恨まれるわ。

「長台詞ご苦労さん。保証が何もない。以上終わり」

 再び剣を上に向ける。

「ひぃっ」

 再び恐怖と絶望に歪むカルドの顔。

「約束します! 魔術契約書も用意します! 必ず約束は守りますので!」

「転移を二回残して、隙を狙っている奴らの言葉を信じろと?」

 最後まで諦めないのは褒めてやるけど。

「な!? それ、ちが」

「おー、その反応。残り回数も当たったか。やっぱ一人一回だけ使える魔道具か」

 二回使っている奴はいなかったから、そう思ったのだ。

 エネルギー不足? もしくは体への負担かな?

 結界の外。転移未使用の二人に目線を向けてやると、ビクリと体を震わせた。

 そもそもだ、上空の魔道具も発動したままだ。

 行動に誠意が足りない。

 どこの世界でも同じ。その場しのぎの遣り取りは、逆算で狙いが透けて見える。

「降参して油断させる。そんで雷球が弱まるタイミングまで時間稼ぎ。からの二人が最後の奇襲。と見せかけて主を回収する。残りは捨て駒で俺を阻止。電撃が途切れた所を通って、撤退って感じかな? どうだ?」

「――――」

 作戦を言い当ててやると、男は言葉も無くパクパクしている。

 難しいだろうが、俺の意識がそこに向かなければ、やれない事ではなかった。

 もう完全に無理だが。

「忠誠心が高いのは悪くない」

 腕に力を籠める。

 そして今度こそ、最後まで剣を振り下ろす。

「だが、仕える主が悪かったな」

「やめっ」

 刃は軽い抵抗を残して、肉の筒を通り過ぎる。

 歯が折れ血塗れで醜いそれ。

 カルドの首が転がった。

「ああ……」

 暗殺者の取り纏めの男が、悲痛な呻きを漏らす。

 外の奴らもガックリと膝をついて、逃げる様子もない。

 ふむ? 思いの外、ショックを受けているな。

 カルドのどこに、そんな忠義を尽くす要素があるのかね?

 というか、次は自分の心配しておけよ? 命狙って来たのはお前らもだからな。

 まあ、そこはゆっくりと処理するか。

 何にせよ大きなゴミは掃除した。これで世界が一つ奇麗になったのである。


 いやーすっきりした。

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