第四十一話 一瞬の決着
ある日、森の中、クズさんに出会ってしまった。
端的に説明すれば、馬鹿が逆恨みしてやって来た。
暗殺者と同じ恰好をしているが、仮面はしていない。
武器も一人だけ長剣である。
マップでも表示されていたが一応確認。
人間:カルド=ハイドラント(レベル94)
そっくりさんではない様だ。残念な事に。
「答えなさい下民! 何時から私だと気付いていたのです!」
「それ聞いて何が変わるんだよ。ていうか、お前こそ何でここにいる? まさか脱獄か? 犯罪者野郎」
「誰が犯罪者だ無礼者が! ふん、貴様らとは違うのですよ。あの程度の些事で、この高貴な私が罪に問われるわけが無いでしょう」
「嘘くさい。お前がそう思っているだけで、本当は逃げて来たんじゃないのか? 犯罪者の強がりは後で恥をかくだけだぞ?」
釈放か脱獄か、突いて反応を見てみる。
「しつこいですね。下民には理解出来ないでしょうが、法というものは我々が行使するものであり、我々が、それに捉われる事は無いという事ですよ」
悪びれない態度を見るに、言ってる事は本当みたいだな。
こうなると予想はしていたんだが、実際に目にすると辛い。
「はいはい。分かった分かった。そういう事にしておいてやるよ。可哀そうだから」
「貴様はっ!」
この屑騎士カルドが村を襲った時。
あの時は運良く、死人や大きな怪我人を出さずに、事を収める事が出来た。
被害者も加害者も、死者はゼロ。
出来過ぎと言っても、過言ではない結果である。
だが、一歩間違えれば、大惨事だったのは疑いようもない。
あの場にいた被害者からすれば、絶対に許せるものではない出来事だ。
罪を犯した者に、厳しい処罰を求めるのは当然だろう。
所属を同じくするミルキィ達でさえ、そこに異は唱えない筈だ。
だがそれは、その場にいた者の感情。心の熱が原因でもある。
人間、どんなに正確な情報でも、遠い地の出来事は冷めて見てしまうものだ。
距離の遠さに比例して、人の心は届かない。
比例して、真実も無味無臭になっていく。
結果だけを文字にすれば、村と揉めて騎士団員に怪我人が出た。である。
行政への報告書はもっと無機質だ。
毎日届けられる書類。その中の一枚。取るに足らない小事。
ということにして、カルドの馬鹿親は、大バカ息子の無法行為を処理したってことだ。
完全な隠蔽は無理だとしても、せいぜいが減俸処分くらいか?
実質、お咎め無しである。俺のいた地球でも良くある話。
どこの世も末だな。
「ま、どっちでも良いんだけどな。最後、殺せば同じだし」
「はん、そちらこそ、強がりを言ってなさい。お前達、攻撃が通じないのなら、私の盾にでもなりなさい! 全員で掛かりますよ」
残り三人の暗殺者が姿を現す。
計五人の暗殺者とカルドが俺を囲む。
人間:アゼル=12番(レベル40)
人間:イゼル=13番(レベル28)
人間:ソロン=31番(レベル38)
残りの奴らも能力は似たようなもんか。
六対一。向こうの五人に決定打が無いとはいえ、不確定要素には、なる。
ならば攻撃の結界で動きを制限する。
自由に連携を取らせる必要はない。
「プラズマ・レイジス! 多重発動!」
意図を察したのか、俺が範囲魔法を準備すると同時に、全員が向かってくる。
自分の頭上に浮かべた二つの雷球で、全周囲を薙ぐ。
よりも早く。
内側。
「な!?」
正面からカルドが、長剣の届く間合いへと踏み込んできた。
暗殺者達は後方。
一流のそれと言える凄まじい速さで、誰よりも早く俺に攻撃。
転移術に意識を向けすぎて、正面からの、まさかのそれに反応が遅れた。
仲間を盾にするような発言をしていたので、虚を突かれた。
俺にも原因はあるが、カルドが上手だった。
人格は最低だが能力は高い。
ムカつくが、そこは認めるしかなかった。
「ふはは、もらった!」
辛うじて目で追える剣閃。
狙いは首元。回避は間に合わない。
そしてレベル94騎士の近接攻撃を、障壁で受け止められる気もしない。
刹那の時間。
俺に出来た動きは、剣と首との間に、掌を差し込むだけ。
「やった、なにいっっ!?」
それで十分だった。掌で剣の刃を受け止める。
魔力が込められているのか青く輝く剣。
それを、傷一つ負う事無く掴んで見せた。
剣を掴んで止まった動き。好機は逃さない。
密着から魔法を叩き込んだ。
「残念だったな。エア・ブレード!」
「ぐああっ!」
飛び散る鮮血。
カルドは剣を手放し倒れた。
遅れて雷球が発動し、俺達の周囲を薙ぐ。
取り残された暗殺者達は、中に入ってこれない。
俺とカルドだけの空間である。
これで二人きりになれたね。
「動くな。おかしな真似を見せたら殺す。これ以上、気分がムカついても殺す」
「ぁ、うぐ、ぐぐ」
倒れたカルドを、踏みつけて動けないようにする。
そして奪った剣を首筋にあて忠告する。
「暗殺者共、お前らにも言っている。主が大切なら奇麗な雷でも眺めて、大人しくしていろ」
そしてプラズマ・レイジスで雷球を二つ追加。電撃結界を盤石にする。
何も出来ないだろうが念の為。
「ぐぅ……馬鹿な、一体どうやって……剣を、受け止めたのだ!?」
「ひみつの魔法だ」
種明かしは簡単。創力のゴリ押し。
咄嗟に、創力十万をぶっこんだ力場魔法で、受け止めただけである。
トラクター・ビームの元となった、単純な光属性魔法だ。
「そんな、魔力拡散の魔剣だぞ、それを……」
何かまた、魔術師に厳しい名称を耳にしたが、魔力百万の暴力の前には無意味だったようだ。
うん……創力をケチらなくて良かった。
一瞬で決着がついたが、紙一重であった。
初手で、こいつが転移術を使って来ていたら危なかったな。
いや、何か理由があって、使えなかったと見るべきか。
ん? あー、あれが原因かも? 心当たりは一つある。
実は、こいつの能力値は凡そ知っていた。
何時もありがとうの、ラセリアさんである。
あの村での出来事の際に、確りと覗いていたのである。
まあ、敵だしね。遠慮はせんよな。
で、ラセペディアによると、カルドの能力値は軒並み700強。
スキルも身体強化系から情報偽装系まで、そつなく揃っている。
数値だけで見れば、欠点が無くバランスの良い優秀な騎士である。
あくまで数値だけを見れば、だが。
健康で優秀な肉体に、健全で品性のある精神は宿らなかった。
よくある話だ。そこまでは。
神様も悪ふざけは、ここで止めとけばいいのに、やってくれたのである。
カルドには、強力な固有スキルがあったのだ。
その名も【天魔の恩寵】である。
効果は、自分に悪影響を与える魔法を防ぐ、というものである。
だから以前にチェイン・ボムを食らっても平気だったし、今も超至近距離で魔法を受けても生きている。
ただ、防ぐのにも限界はあるのだろう。完全には無効化出来ていない。
そして魔法の悪影響が、何処までを含むのか?
転移術を使えなかったのは、この辺が関係していると見ている。
転移トラップとかあるので、見方を変えれば転移術は攻撃魔法であるからだ。
高い確率で当たっていると思うが、今更どうでもいいか。
そんじゃ、お仕置きタイムと行くか。
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