第三十九話 予感と備え
情報提供から数日。
様々な準備を終えた騎士団が目的地へと向かっていく。
何事も無く終わってくれたらいいのだが、嫌な予感しかしない。
ミルキィの表情が芳しくなかったからだ。
度々顔を合わせる機会はあったが、何かを言いたそうにしては、グッとこらえていた。
チラチラと俺に、謝罪か、助けを求めているのか、よく分からない表情を向けていたのが印象的だった。
上で、どのようなやり取りがあったのやら。
「流石に内部情報を漏らせないのは理解できるが、叱られた子犬みたいな顔されても、それで内容を察するのは無理だっての」
判断材料といえば、だ。
村の周囲にはそれなりの数、騎士が残っている。
例の件で補充された人員も殆ど残って、村を守っている。
因みに入れ替わりで来た騎士団の団長は、普通の真面目な中年騎士だった。
再び村に危害を加えるといった心配はしなくて良いだろう。
この露骨な配置は、彼女の命令なのだろうが、何を危惧しているのやら。
というか、何を伝えたいのやら。
これは……例のお貴族様関係で、やっちまってる感があるなぁ。
「だからといって確定情報が皆無では何も出来ん。気持ちを切り替えていこう」
迷宮探索は一区切りついたが、創力稼ぎは休まず行う事にする。
「まだレベルアップのリセットは先だからな、スキル強化用の稼ぎを目指さないと。現段階の残創力は二百万弱。最低でもあと四百万オーバーは欲しい」
目標は遠い。今日も今日とて、森の奥深くに向かうのであった。
「かち合わないように念のため。こっち行こう」
方向的には、騎士団のいる逆側で狩りを再開する。
「こっちも湿地帯が広がっているな。獲物の種類は似たようなもんか」
生態系は前と同じ。小動物に関しては初見のものも多かったが、俺が狩る大型の相手は特に様変わりはしなかった。
一応、全く新顔がいなかった訳ではない。
ヒドラやリザードマンの他に、大型の鰐や蛇もいた。
獲得創力も五、六千辺りとそれなり。地球でなら強者側の彼らだが、いくら大型と言えど、この地では弱者に分類されるのか、群れを作っている場合が多かった。
という事は数も多い。
「一見すると美味しそうな相手なんだが」
そいつらは普段、水中や木の陰等の遮蔽物に隠れているのだ。
滅多な事では表に姿を現さない。残念だが、空からの稼ぎには向かない。
「待てよ? 森林破壊を加速させる覚悟があるのなら美味しいかも。試してみるか……」
悪魔の囁き。
空中からマップで探索。成る丈、獲物が固まっているところを選ぶ。
そして、眼下のそれら密集地に向けて、広域の攻撃魔法を放とうとして。
「いや駄目だ」
思い留まる。
「焼き畑は後が続かん。目先の利益追求は愚か者のする事だ。アホか俺」
それに急激に環境が変わると、獲物の分布が、どう変動するかも予想がつかない。
普段の俺なら、一瞬でも、やろうとは思わない。
「やっぱり焦ってるな。くそっ、騎士団のアホどもめ。なんで外様の俺が、こんなに悩まないといかんのだ」
思い直して方針は何時も通り。新顔は運よく狙えたら狩っておく程度にしておく。
「召喚器の部品も、探さないといけないんだったなー」
未発見の遺跡が残っていないかも気に掛けておく。
順調に創力は増えていくが、能力強化には、まだまだ届かない。
具体的な力の上乗せは、手段で補う。
魔法の開発である。
「攻撃手段は、ある程度出揃った感はある。それ以外の足りない部分を埋めていこう」
戦闘スタイル、相手に何もさせない。が、このまま全ての相手に通せる訳がない。
俺は絶対強者ではない。いずれ必ず、その時は訪れる。
故に暇を見つけては、備えの対策魔法を練ってはいるのだが、結果は芳しくない。
今、求めているのは、回復手段と防御手段である。
「そして回復魔法は無理と。まあ、医療知識が必須じゃ仕方ないけどさ……」
魔力を固めてドカンの破壊魔法とは訳が違う。
逆の魔法は難易度が何倍も、何十倍も、大袈裟ではなく、もしかすると何百倍も違う。
魔法で人体を正常に再生するという行為は、それらとは全くの別の技術を要するのだ。
半殺しにしたオークやゴブリンで人体実験もした。
「ある程度の、自己治癒能力の強化なら出来たんだけどな。浅い切り傷や打撲なら、それで何とかなるんだが」
光属性の魔法で、そこまではいけた。
その効果を利用して、組織同士を接着する方法も編み出した。
皮膚や肉を繋いで簡単な応急処置くらいも出来る。
体内に入った毒物も、そこそこ中和出来ていた。
しかし、どんなに試行錯誤して、魔力のゴリ押しをしても、それ以上の効果は得られなかった。重い怪我の治療や再生治療は叶わなかった。
「完全に知識不足。低学歴には、イメージだけで何とかするのは無理」
漠然と魔力で強化しても、大きく破損した生体組織を、蘇らせる事は出来なかった。
骨、筋肉、血管、臓器、他諸々。それらの仕組み。働き。どう連動して、どう影響し合っているのか。
血栓や血流によるショック死もあるので、治す順番も重要だ。
怪我の箇所や種類によっても方法は変わる。
以上の理由からも、回復魔法とは容易いものではないと理解出来るはずだ。
そりゃ、使える人間が希少なわけだよ。
「スキルにお願い案件だな。【豊穣の理】さんに期待するしか、やる事がない」
よって次。
近接戦の備えとして考案した、防御用の新魔法を試していく。
風の鎧ウインド・コートの補助的なものだが、こちらは上手くいった。
俺の周囲に展開するのは薄い水の膜。
肉眼では見えないくらい薄い霧と言うべきか。
水属性と闇属性の複合魔法である。
効果は、外部からの一定の速度と質量に反応して、運動エネルギーを奪うというものだ。
リザードマンからの投擲物で実験。石、弓矢、投げナイフまでは防げた。
その際に、対象物体を薄く凍らせる、という意図しない現象も起きた。
まあ、その現象にはメリットもデメリットもないが。概ね狙い通りの性能である。
弱点は、魔法が反応しない遅い攻撃と、単純に強い威力の攻撃。実体の無い攻撃も、多分すり抜けるな。
まあ多い。だから補助なのである。
ピンポイントで反応して、攻撃を止める障壁というか領域か。うん。
「ピン・フィールドで登録。併用を前提にした防御魔法は、これで完成とする」
使用創力は十五で、持続時間は何事も無ければ二十分。
一回でも反応したら消えるが、多重発動可能。
多層にして張っておけば、複数の物体にも対応出来る。
普段は十枚くらい張っておこう。張り過ぎかな? ま、いいや。
使い手の俺に、反応しないよう調整するのに、苦労した魔法である。
服が何度も凍った。
そんなこんなで俺は、やれる事をこなしていった。
当初の不安を他所に、数日は平穏な狩りの日が続いた。
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