第三十七話 重要情報の扱い

 ミルキィ達との話し合いは続く。


 情報提供については、まだ隠していることがある。

 地図に書かなかった事項というべきか。

 一つは召喚装置について。これを明かすつもりはない。

 俺の目標物だからだ。

 二つ目は聖剣の情報について。これは情報管理の為に書き記さなかった。

 紙媒体の情報。俺の手を離れたら、もう何も管理は出来ない。

 リーディア国の騎士団には、カルドみたいな戯けが存在するのだ。

 危険物の情報を制限するのは当然である。

 但し、聖剣は俺の必要とする物ではない。

 なので口頭で信頼出来る者には公開する。

 信頼? んー。


「ふむ、これで情報は出そろったかな。忘れていることは無いな?」

 ミルキィが話のまとめに入るが、俺が待ったをかける。

「大体は伝えたと思う。が、実は、もう一つ大きな情報がある」

「む、いきなりだな。今更何なのだ?」

 当然だが聖剣について話さねばならない。

 けれど、その前に確認が必要だ。

「とても重要な情報だ。ミルキィ。聞いておきたい」

「何をだ?」

 側近の四人に目を向け問う。

「その四人は信用できるのか?」

 俺の問いに、騎士達の空気がひりつく。

 殺気とはいえないまでも近い感覚。

 確かに失礼な事を聞いているのは自覚している。

「どういう意味かな? 彼らは長年仕えてくれている私の側近だよ。いくらサトル殿といえど、それを疑うような事を――」

 ミルキィでさえ、言葉の端に怒りを滲ませて抗議してくる。

 が、俺の知ったことではない。

「でだ、こいつらは最終的に、国とお前の、どちらに付くんだ?」

 彼女の台詞を途中でぶった切って聞く。

「え、えっと?」

「例えばの話。こいつらは国が命令すれば、お前を裏切るのかって聞いているんだよ」

「みゅ!?」

 変な声を出して黙るミルキィ。

 暫しの沈黙。

「誰でもいいから黙ってないで答えろよ。簡単だろ」

 早く答えろと俺。

「……え、そん、な」

「時間を掛けただけ、どちらの答えでも、より気まずくなるぞ」

 ミルキィは目を真ん丸。首をギギギと動かして四人の顔を見る。

「「「……」」」

 赤毛の彼以外は、ついっと気まずそうに眼を逸らした。

 答えは出たな。

「国が優先みたいだな。その気になれば裏切れると」

「!?」

 彼女は言葉もなくショックを受けている。

「あのな、別にそれ自体は悪くない。国に仕えている騎士なら本来そうあるべきだ」

 涙目で固まるミルキィに言ってやる。

 そちらには顔を向けずに、側近の三人は俺の言葉にコクコクと、勢い良く頷く。

 一応、罪悪感はあるらしい。

「ふがっ! ふがぁー!」

 赤毛君は憤慨しているようだが、騎士として間違っているのは、こいつの方である。

 俺がやかましいな、という目を向けると。

 同僚の金髪女騎士が、ぶん殴って黙らせていた。

「なんで、こんな事を聞いたのかというとだ。身分の高いロクデナシに、簡単に情報を抜かれる心配をしているんだよ。上の階級に命令されたら、どうにもならんだろ?」

 正直、渡した情報を、どう扱おうが勝手にしろとは思う。迷惑を掛けて来なければ。

 掛けてくるじゃん。お前らの国って。

「……そうか。うん、そうだな。それが正しい。うん、知ってる。大丈夫。大丈夫」

 ちゃんと話聞いてるか?

 虚ろな目で、全く大丈夫そうには見えない。

 こいつ、友達いないみたいだしな。

 だから近場の人間関係に、それを求めるなんて愚を犯す。

「仕事仲間は、仲間ではないからな? 仲が良いって意味でも、友人でもないぞ?」

「わかってる!」

「なら結構。四人は仕事仲間だ」

「くぅ……」

 彼女達のビジネス関係がハッキリしたところで続ける。

「で、どうする? 同席させるか?」

「……同席は、させる。懸念は理解したが、結局、受け取った情報は、専門機関と上に通達しないといけない。職務規定でも決まっている。私の一存では制限出来ない」

 こうなるよな。国仕えしている個人が、独占情報で勝手な判断をしないのは正しい。

 国の仕組みが正常に機能しているのなら、こうあるべきだ。

 ただ、理想はそうでも現実がなぁ。

「俺は構わんけど、いいんだな? 何かあっても、責任はお前らが取れよ」

 念を押す。これでもかと押す。

「うう、分かった。少なくとも、村の方達には迷惑を掛けぬようにする」

 俺にもかけるなよ? 頼むぞ。

「じゃあ、言うぞ」

「ああ」

「覚悟は良いか?」

「早く言ってくれ!」

 了解。

「神器と思われる聖剣を見付けた」

「な!?」

「それで、とんでもなくヤバいものを封印してるっぽい」

「え、ちょ」

「その封印は、剣を抜いたら簡単に解けそうだ」

「――」

 簡潔に伝えてやると、ミルキィは涙目でプルプルしている。

 それをどう扱うのか。それを誰が決めるのか。それを誰がやるのか。

 遠い所で、こっちの意見は無視して決まるのだろうね。

 武力だけではどうにも出来ない領分がある。

 何も起こらないことを願うよ。

「馬鹿が勝手に引き抜かないように気を付けろよ」

 これで伝えるべき事は全部伝えた。

 責任も全部押し付けた。


 あとは知らん。頑張れ。

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