第三十六話 情報提供
迷宮探索終了の翌日。
ミルキィに情報を伝える事にする。
早速、村の外で常駐している騎士団に連絡。
直ぐに最高責任者のミルキィに言伝は届く。
時間を掛けずに駆け付けてくれた。
身分的には、こちらが向こうへ、伺うべきなのだろうが気にしない。
ミルキィとの関係を利用して、疑似的にでも立場を上げて置く。
移民ならではの、国の文化を考慮しない無礼な立ち回りだ。
当然、俺個人としての立ち回り。
ソートラン家は、流浪の旅人が余った部屋を間借りしているだけの関係として、迷惑を掛けないように切り離している。
幸い周知されていなかった、ラセリアとの婚約関係も秘密だ。
なので、村で騎士連中に、こんな口の利き方をしているのは、俺だけだ。
勝手に、俺の背景を想像して受け入れる者もいれば、不満が見て取れる者もいる。
内心どう思われようと、大人しくしてくれているなら、どちらでも構わない。
ソートラン家の応接室。
彼女と側近の四騎士に対して俺一人で応対する。
「緑禍の聖殿を見付けたということだが、間違いないのだな?」
「ああ。そちらの細かい情報は知らんから、お前さん達が探している遺跡と、同じかどうか知らんけどな。完全に無関係でもないだろうよ」
あの森は広すぎる。まだまだ似た様な遺跡や迷宮が眠っているのは間違いない。
だから断言は避けておくに限る。
俺は今どきの若者。責任は負わないように立ち回るよ。
「それでもかまわない。その場所を教えて貰えないだろうか? 何かあっても責任はこちらが取るし、調査結果次第では謝礼の上乗せもさせてもらう」
彼女も、こちらの意図を察してくれた。確りと口にして希望点を確約してくれる。
頭の回転も速いし、他人の機微を察する能力もある。
レベルと、ポンコツ具合に目が行くが、普通に人間性は優れてる人物なんだよな。
「分かった。そういう事なら、快く情報提供する。あと謝礼関係の話は、ミゲルさんとしてくれ。世話になっているんでな。恩返しをして置きたい」
ミゲルさんなら、村の利益になるように調整してくれる。
「それじゃ早速、緑禍の聖殿についての情報だが、場所というか内部の調査も粗方やってきたんで纏めて渡す」
「入ったのか? いや、サトル殿なら危険は少ないのだろうが。それで内部はどうなって?」
「まあ落ち着け。地図とか全部書いたのあるから、先ずはそれを見ろ」
複数枚に分けて描かれた詳細図。その紙の束を渡す。
「おお、こんなに緻密なものを! 素晴らしい。感謝するぞ」
基本的に騎士というのは、命懸けでお仕事をする、善良な公務員みたいなものだ。
酷い例外もいたが、少なくとも彼女達は敵ではない。
有用な、その者らを減らすような事はしたくない。
迷宮内部の情報も、隠したい情報以外は、可能な限り正確に伝えてやるべきだと思った。
しかし口頭での説明にも限界がある。
だからと言って、俺のマップスキルを公開する訳にはいかない。
結果、昨日の夜、マップを紙の上に表示して、一生懸命トレースで書き写したものだ。
迷宮探索の一仕事を終えてからの作業は、精神的にきつかった。
「遭遇した場所での敵性存在の情報も書き記してはいるが、見落としが有るかもしれない。だから、そこは気を付けてくれ」
「勿論、留意しておく。十分な情報だ。重ね重ね礼を言う」
「どういたしまして」
ご満足頂けた品だったようだ。
寝不足になりながら頑張った甲斐があるというもの。
「これで調査員の安全も……ん?」
明るい表情で、目を通しながら、脳内で計画を練っているミルキィ。
とある一点を見て言葉を止めた。
「アース・ドラゴンだと? 正統種のか?」
彼女の口にした名前に、他の四騎士もざわつく。
あー、馬鹿正直に写し過ぎた。
やっぱ、寝不足で仕事なんかするものではないな。くそが。
俺の戦力がバレる情報を渡してしまった。
既に竜は倒してしまった後。
発見しただけで逃げた、という言い訳も無理。
やってしまったものは仕方がない。ここは開き直る。
なんか何時も開き直っている気がするが。
「らしいな。他のアース・ドラゴンを見た事がないから、俺には判断つかないが。気になるならラセリアが死体を保管しているから、後で確認してくれ」
「…………倒したのか?」
「不都合でもあったか?」
表情を変えずに、何でも無い事のように言ってやる。
格好良いね俺。
痛々しいとも言うが。
「ふふ、いやなに問題ない。我々の脅威が減った。感謝する。私でも、そこそこ疲れる相手なのでな。一応、死体は確認はさせて貰うが」
そういえばラセリアも維持魔力の関係で、何時までも収納はしていられない。
どうにか騎士団の伝手で、死体の処理をできないものか?
「ついでになんだが、この村で竜素材なんて持て余すだけだ。何とかできないか?」
「それもそうだな。分かった。他所で捌けるように手配しておく」
「頼む。ああ、忘れていた。竜が守っていた財宝もあったな。金目の物しかなかったが、それも一緒に何とかしておいてくれ」
「構わないが。特殊な物は何も入っていなかったのか?」
「全く。竜が守っていた割にショボい気もするけどな。まあ全部渡すから、後で幾らでも好きなだけ調べてくれ」
「そうさせて貰う。結局、竜も財宝も全て現金化で良いのだな?」
「ああ」
これで身軽になった。荷物いっぱいだと探索にも二の足を踏むからな。
さっぱりした気持ちで俺は話を続ける。
「迷宮内部の環境だが――」
「詳しく聞こう――」
等々、情報を交換したり、雑事を処理したり。
話し合いは順調に進んでいった。
例の赤毛の直情騎士。トマス君とやらも今回は大人しい。
猿轡をされ縄で縛られているからだが。
縄紐の先は金髪の女騎士が握っている。
そこまでして、同席させるなとも思うが。
公務員みたいなもんだし、持ち場を離れたら罰則とかでもあるのかもな。
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